穢乃ルート
三人は別行動するようなので、私は乃穢さんについていくことにした。
夏祭りといったら“焼きそば”である。
同性だから少し気が楽。それがついていくことにした理由のひとつでもある。
「夏といったらーやっぱ焼きそばだよねー」
乃穢さんが言う。
「はい」
(乃穢さんみたいな美人でも焼きそば食べるんだ。意外だなあ)
彼女のふんわりとした雰囲気に、いかにも男らしい屋台の焼きそば。
―――合わない。と思う。
焼きそばを買った後、乃穢さんは焼きトウモロコシを買った。
―――その次にイカ焼き、たこ焼きなど焼き系の食べ物へ止めどなく走る。
私は道中で綿飴やカキ氷を買った。
「あーそれ、なに味のシロップ?……暗くて見えないやー」
なにげなくたずねられる。日も落ちて色の判別がつかなくなってきているのだろう。
「メロンです。乃穢さんは、綿飴やカキ氷要らないんですか?」
もうお腹いっぱいなのかな。なんて思いながら、軽く聞いてみる。
「あーボクって甘いのと冷たいの嫌いなんだよねー。
厭紀は逆に甘いのとか冷たい系が好きなんだ」
「へーそうなんですか……」
いかにも双子らしい話だ。
「ひと通りまわったし、二人を探そうか」
「はい」
―――
伍糸さんは一人でまわりたそうにしているようなので、ここで別れた。
だが、しばらくして伍糸さんがやってきた。
やはり一緒にまわることになった。
―――――
次の日の午前、村を散歩していた途中、ヒトガミ様が気になり寄った神社から帰る途中、意識を失いかけた私。
――乃穢さんの姿が浮かぶ。
「あれ……」
目を覚ますと部屋にいた。
「あ……気がついたんだね、よかった」
控えめな声で確認すると、部屋の隅で片足を立てていた乃穢さんがこちらにやってくる。
「私倒れてたはずじゃ……」
「たまたま神社にいく途中で、キミが倒れててさ。だから運んできたんだよー」
「迷惑かけてすみません……」
「急におきあがったら危ないよー」
慌てて飛び起きようとすると、止められる。
「どうしてあんなとこで倒れてたの?」
「えっと……今日は村を散歩してみようとして、丁度通りがかりの神社でお参りして、階段をおりていたら急に意識がなくなったんです」
「わざわざあんな長い階段使わなくても……
まあ目の前にあったんならそこにいってもしかたないけどねー」
乃穢さんはなにかいいかけてやめた。
あの神社に行くとなにかよくないのだろうか。
「あの、神社ってよくないんですか?」
「昨日滅多に村きてないっていってたし、知らないのも無理はないか~」
なんだかもったいぶる言い方だな……気になる。
「あの神社はさ、あんまり人気ないじゃん?」
「はい……」
そういえば、参拝者はいなかった。
「朝いくにはいいんだけど、夜には絶対いかないほうがいいんだってよ」
「そういえばお寺より神社のほうが怖いって聞いたことがあります」
心霊番組を観た母からの又聞きだけど、お寺には人の霊がいて、神社には化け神のようなタチの悪いものがいるらしい。
―――なんか、考えていたら怖くなってきた。
「おい、そろそろ……」
厭紀さんが時間を気にしている。
「じゃ、ボク帰るね」
「はい、ありがとうございました」
◆
―――ヒトガミ様の様子を見に行きたい。
そういえば昼間に彼を見つけられなかったけれど、彼に会うのは二度とも夜だった。
もしかしたら夜だけ会える仕掛けがあるんじゃないだろうか。
でも、一人で神社に行かないほうがいいとついさっき言われたばかり。
悶々としつつ、私は食事をすませて眠ることにした。
――――眠れない。また腕が痛んでいる。
手が勝手にもちあがる感覚がして、私はとっさに起き上がる。
手の感覚が差す方角は、神社のあるあたりだ。
「……」
――――神社へ行けと、珠が告げているようだ。
心霊ドラマなら、行ったら間違いなく大変なことになるパターンだ。
わかっているのに、導く手よりも自分の足が動いている。
―――乃穢さん、忠告してくれたのにごめんなさい。
「……」
「あれ、静華ちゃん、なんでこんな時間に?」
神社にいく道中、乃穢さんらしき人と鉢合わせた。
「あ、あの実は……神社に」
言い分けはしないほうがいいよね、正直に話そう。
「やっぱり押すな押すな、ばりに行くなって言われると行きたくなるアレ?」
「そうなんです」
さすがに腕の珠に動かされたとは言えないので、乃穢さんの考えに同調して濁す。
「ならしかたないね。せっかくだから一緒に行かない?」
「…でも」
―――さすがに私のわがままに巻き込むわけにはいかない。
「実は丁度ボクも観に行くところだったし」
「でも乃穢さん美人だしこんな時間に一人で歩いていたら危ないんじゃ」
「ないない。むしろ静華ちゃんこそ女の子だし気をつけなよ」
あれ、なんかいま引っ掛かるような事を言われた。
「乃穢さんだって女の子じゃ……?」
「ボク男だけど?」
「え」
乃穢さんは私の手をとると、チョーカーの下に触れさせた。
なにやら固い骨がある。
「ね、これ完全に男の手じゃん?」
乃穢さんが手袋を外して、かくばった手が私に触れた。
「信じられないなら脱ごうか?」
「大丈夫です大丈夫です!信じますから!」
「まあ脱ぐのは冗談だけどさ、いくら田舎でもお巡りぐるぐるだし」
フェミニンな格好と柔らかい雰囲気で完全に女性だと勘違いしていた。
というか縁日の日はワンピース着てたし。
「まあいつも女装してるからそう思って当然か、ごめんね」
「いえ……」
田舎なのに女装大丈夫なのかな。
「あとボクの本名って“穢之<けの>”なんだ」
「そうだったんですか!?」
―――
「……」
――神社にやってきた。これ、前に通った道だ。
――きっとヒトガミ様がいる。
「足元気を付けて」
―――ふと、先ほどの光景がよぎる。
喉仏を触れた。あんなことをするのはあれが最初で最後だと思う。
「行かないの?」
「あ、すみません」
彼の手をとりながら、慎重に進む。
なにせ神社の前に灯りがついていなくて、まっくらだったのだから。
私は穢乃さんに合わせながら歩く。暗闇の中ではあまり歩幅に差は出ないようだ。
「懐中電灯もってくればよかったね」
急だったから、用意する間がなかったのでしかたない。
「まあ、何もないし帰ろうか」
――――おかしいなあ。
◆
次の日、私は散歩がてら、隣村の店に行くことにした。
ご到着アイテムしかり、たぶんなんかあるでしょ。
―――ブティック榊。都心のどこかで有名な榊社長がやっているファッションブランドの支店のようだ。
「なんだか近視眼があるような」
「あ、静華ちゃん」
「穢乃さん?」
どうしてここに――――?
「実はこの店、親戚の社長が経営しててその繋がりでバイトしてるんだ~」
「そうだったんですか」
―――ってことは榊社長!?
「なに買うの?」
「とくに決めてないです」
「へーなにかあったら呼んでね」
――――
服屋に来たのはいいけど、今はとくに服も要らないし、帰りが辛いから、なにか安い小物でもいいかな。
「20084円になりまーす」
「30000万で!おつりいりませんから!」
―――なんか穢乃さんのレジに並びまくりだ。
「乃穢さんいるじゃねえか~」
「レジ並びてえ~」
だが男だ。
「いやー結局終わるまで待たせてごめん」
「……いえ」
なんだかお客を翻弄している彼が、見ていて面白かった。
「ねぇ~」
「ノエくーん~」
田舎にはいなそうなイケイケのギャル達が、彼に声をかけた。
君付けでよんだし、性別を知っているってことは、もしかして知り合いなのかな?
「あの……乃穢さん」
一応女装名のまま、たずねる。
「……ああ、彼女たちは同じ大学の子。たぶん」
確証はないみたい。
「ひどーい」
「せっかくおいかけてきたのに」
「ごめん。話したことあるっけ?」
「ないけどさぁ」
「今からあたし達と遊ばない?」
「あー悪いけど、住んでる場所遠いから。もう帰らないと」
穢之さんが断ると、二人に去りぎわにすっごく睨まれた。
「なんかごめんね」
申し訳なさそうに謝られる。
「……いえ、穢之さんが悪いわけじゃないですから」
むしろあんなにすっぱりと彼女たちの誘いを断って大丈夫なのかな。
「そっか……じゃあ、もう遅いし帰ろう」
「はい」
町並みを見渡すと、隣町なのに、この花華<かばな>町は黄昏紫<たそがれゆかり>村とはすごく差があるなあ。
「あ、お前ら」
「お、厭紀。こんな時間まで買い物してたんだ」
――帰っている途中で、厭紀さんと会った。なんか荷物が大量にある。
「ていうかこんなに、なに買ったの?」
「最初は栄養材を買うつもりだったんだが、みている途中で色々な」
「何買うかちゃんと決めないからこうなるんだよ」
なんか兄弟喧嘩が始まった。
「ああはいはい、小言は家で聞くから。静華送らないとだろ?」
「はーそうやって論点そらすよね。まあいいよ……家に帰ったら説教だからね」
◆
しばらくして家に着いた。
「じゃ、また明日ね」
「さよなら」
「はい、ありがとうございました」
玄関前で二人に手をふり、家の中へ入る。
「ただいま」
「おかえり。ちょっと話があるんだけどいい?」
母が神妙な面持ちで言う。
「どうしたの?」
「この村にはちょっとした風習があるんだけど……」
―――もしかして
「今年はそれに必要な儀式をやる日なの。この村に静華を連れてきたのもそれをやってもらうからだったのよ」
「え!?なんでそんな重要なこと最初に言わないの!?」
「サプラーイズ~」
「ぜんぜん違うよ」
◆
母が言うには珠は次の女神に選ばれた子が使うものらしい。この手に珠宿ったのは、偶然じゃなかったってことなんだろうか。
聞いてみようかな?
「あのさ……」
私は蔵であったことを話してみた。母は目を丸くし驚く。
「スピリチュアル番組の話?やだもう、一瞬実話かと思ったじゃない」
と、すぐに顔の表情を変えて笑いとばした。当たり前だよね。
何事もなかったかのように食事し、テレビもラジオも通じないド田舎なので風呂に入り寝る。
だけだと思っていたのだが、急に手が痛みだした。
私はこの珠の導くままに進む。
ついたのは蝋燭の灯のついた神社で、階段がなく寂れているような雰囲気がある。火灯りはないよりいいが、逆の意味で怖い。
お社の前は障子ばりで、しかし部屋の向こうは真っ暗。
「……静華?」
「穢之さん!」
なぜここに彼がいるのだろう。
「……しっ静かに!」
穢之さんは私の手を引いて、お社の前から移動した。
ただごとではないような重たい雰囲気。
「……一体どうしたんですか?」
彼に小声で問いかける。
「その様子だと、呼ばれてここに来たわけじゃないみたいだね」
「あ、はい。たまたまです」
「この村、ヤバイんだよ」
「え……」
はじめは私もこの村に、なんとなく違和感はあった。
けど村には風習とかあるものだし、母から話を聞いてそれほど怖くはなくなった。
けれど、穢之さんが嘘をつくようには見えない。とにかく話を聞いてみよう。
「まず僕か厭紀が生け贄に選ばれちゃったんだよね」
――二人ともその条件に合っているし、あまり驚くことでもないかな。
「今日はその儀式の日じゃないんだけど、今日本殿の奥で両親が神主や村長たちが
儀式について話しているのを扉の前でこっそり聞いたんだ。いいところで見つかって閉め出されたけど」
目を横にやり、ため息をつきながら悔しそうな顔をしている。
「聞いたってなにをですか?」
「生け贄の実態。女神の祟りを沈めることだと思っていたら……」
村人の金儲けとか?
「生け贄を神様に喰らわせて殺すんだって」
「!」
「ごめん殺すは飛躍しすぎたね。正しくは生け贄にされた男は悪の神のこの世界の器になるんだってさ」