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縒彦endA キミオウ


―――私はどちらも違うと思った。


「縒彦さんはどちらにもいないと思います」


私が声のしない後ろへ下がると、誰かに抱き止められた。


「縒彦さん……」

「ああ、もう大丈夫だ」


「……なぜお前ばかり持っている。実の家族も優しい従妹もいてずるいじゃないか!」


叫ぶ織鉉さんの表情は作ったものでなく、余裕がないほど必死に、そして偽りなく人間らしいもの。


「ではお前は義両親が嫌いか?」


織鉉さんは縒彦さんに掴みかかった。さらされた彼の首には包帯が巻いてある。

をつかまれているのをそのままに、真っすぐと向き合った。


「……」


織鉉さんは違うと首をふる。きっと義両親は彼をちゃんと家族だと思って接してくれたのではないかと想像できる。

縒彦さんに大した怒りは本当の両親を持っていること、義両親が優しくてもそれは別問題なのだろう。


「……割り込んですみません。縒彦さん、その首の包帯はなんですか?」


話し合いも落ち着いた頃かと思って、私は気になってついたずねた。

彼はバツが悪そうに、目を反らして暫くしてこたえた。


「……俺には呪詛がかかっている」


彼が包帯を取り去ると首に黒い痣がついていた。その横にはざっくりと刃物で斬りつけたような古傷もある。


「これは呪詛に気がついた母親がつけたものでな。あの時は本当に殺されるかと思った」


いくらなんでも実の子を刃物できりつけるなんて、姉はともかく母親も何かまずい人なんじゃないだろうか。


「母親が俺を疎む理由が、呪詛のせいだったらよかったと思ったが……」

「違うんですか?」


絶句している織鉉さんに代わって私が問う。


「織鉉、俺達には永利<ながり>家に引き取られた兄がいる」

「名前だけは知っています。調べによれば事故で両親をなくして九弧<クコ>家に引き取られた清華という少女が近くにいましたね」


なんだか私と名前が似ている子の名前がでてドキりとした。


「九弧家?」

「大柳、鬼緋都に連なる古からの名家です」


―――私とは関係ない世界の話だ。縒彦さんと私が従兄妹だなんて信じられなくなるくらい遠い。


「どうした?」


――縒彦さんはうつむく私の手を握った。


「えっと、関係ない私はお邪魔だったと思って」

「謙遜されなくていいんですよ。貴女も無関係というわけではありませんから」


まあ一応は縒彦さんの従妹だけど、あまりそういう堅苦しい話は両親に聞かない。

つまり他人事のように感じて、実感はまったくないのだ。


「……もうこの話はやめよう。皆が起きる時間だ」

「それではまた、会いましょう静華さん」


織鉉さんが私に微笑むと縒彦さんが不機嫌になった。


「……あの~織鉉さんに無視されてムカムカしてるんですよね?」


縒彦さんはぽかりとしたまま黙ったままでいる。


「貴女ベタなところで鈍感ですね」


対照的に織鉉さんは表情豊かに笑う。


「私ハッキリ言われないとわからないタイプというか……」


縒彦さんは口数が少なくてジェスチャーで察することはあった。

お腹が鳴っていたらその人は食事がしたいとか、頭を抱えていたら悩みがあるとか頭痛とか判断はできる。

そういう状況から観て一般論はわかるけど、動作がない場合は察するのは難しい。


「……嫉妬した」


気がつけば織鉉さんはいなくなっていて、彼が言った言葉の意味を考える。


「私が織鉉さんと仲がよさそうなのにですか?」


こくりと頷かれ、来たばかりのときに縁日でまったく話さなかった彼を思い出す。


「縒彦さんを仲間はずれにしたりはしませんよ」

「だから、俺は……」

「あらあら静華ったら!」


縒彦さんは続きを言うのをやめてしまった。

朝帰りだとか冷やかされるかと心配になったがどうやら私達の他にも三人が深夜徘徊していたらしい。


「話を合わせてあげたんだし二人の関係が進展したのか詳しく聞かせてよ~」

「やめろよ、で……どうなんだ」


厭紀さんは乃穢さんを止めるかと思いきや聞いた。


「弟と従妹を取り合う三角関係になりそうだ」


からかう乃穢さんに縒彦さんは真顔で言っている。


「お、おう……」


聞いたほうが少し引いてタジタジだ。


「なんだつまり大柳さんは彼女が好きなのか?」


伍糸さんが言うと全員が彼に注目する。


「ゴシキなにを今さら」

「さっきからその前提で話してただろ」


厭紀さんと乃穢さんはやれやれと肩を(すく)める。


「え、本当に?」


縒彦さんが私を好きということに驚いて彼を見た。


「ああ」


彼は頬を赤らめ目をあわせずにいる。


「よし、邪魔ものは退散するとしますか……行きますよ乃穢さん伍糸さん」


厭紀さんが二人をひきつれて去っていく。


「……逆にやる気をそがれたような」


―――縒彦さんは私をいつ好きになってくれたんだろう。


「昔遊んでもらった覚えはありますけど……いつから、どこを好きになったんですか?」

「……わからない。しいてあげるなら全部だ」


縒彦さんは真剣な表情でそういった。


「全部ですか?」

「想い出は小さな頃と、ここ数日だが出会った日からお前とまた合うことを考えていた」

「それはどうしてですか?」

「俺はあまり人と関われなくて、親からも遠巻きに見られてな。だがお前は昔と変わらずに声を欠けてくれた」


彼は周りに人が集まらず寂しくて堪らない日々を過ごしていたのだろう。


「……私はもうすぐ夏休みが終わるので村を出なくちゃいけないんです」


私は恋として人を好きになる気持ちがよくわからない。

だけど長い年月をかけて想ってくれる人はきっと彼くらいだろう。

それはとても嬉しく、少し気恥ずかしいものだ。


「迷惑ならそれで構わない。俺からつきまとうつもりはないんだ」

「迷惑じゃないです。いきなり好きって言われてもよくわからなくて」


すぐに好きか嫌いかを答えることはできない。


「――俺の気持ちは恋や愛にしては重く歪んでいて……自分でもそれが恋愛感情か断言できない曖昧なものだ」


たしかに彼は人を避けていて、となれば恋愛の機微もわからないはずだ。

好きという感情を恋愛のそれと呼べるかわからなくても無理ないだろう。


「あーいつまでうだうだやってんの!」

「もう縒彦さんは静華の近所に住めばいいじゃないか、そして距離を深めるんだ」

「恋愛かそうでないか考えてる時点で無駄なことだぞ」


三人にどっと捲し立てられて私たちはカルチャーショックを受ける。


「わかった」

「縒彦さん!?」


彼は全身にお札や数珠を巻き付けて今にでも都会へ行く気になったらしい。


「はいはい落ち着けよ」


乃穢さんは縒彦さんの肩をつかんで止める。―――あれ、なんだか変な感じがする。


「顔をしかめてどうした?」

「……乃穢さんとは美男美女でお似合いだなって」


私が素直にそういうと、縒彦さんは私をじっと見る。


「俺は美人より可愛い系が好きだ」

「はははっ」


彼の言葉に乃穢さんだけでなく他の二人まで笑い出した。


「え、いまのそんなに面白かったですか?」

「うん、だって静華が心配する必要ないしさ」


私は無意識に乃穢さんに縒彦さんをとられるのが嫌と思っていたみたい。少なくとも他の人にはそう見られていたようだ。


「乃穢は男だ」

「は?」


私は開いた口が塞がらない。


「縒彦さん美人は男に使うものだからあえて美女と言わなかったんだね~」



――あれから数日、私は帰ることになった。


「すぐに追う、待っていてくれ」

「はい」


彼がそういったのを軽く聞いて、車のドアをしめる。



「おはよー」

「おはよう」


夏休みが終わり、登校すると友人の八多喜さん達から挨拶された。


「イリカちゃん髪型変えたのー?」

「うん、ちょっと位置高めにしたんだ~」


―――三人組になると疎外感があるなあ。


「ねー夏休み中彼氏とかできた?」

「ううん、二人は?」


「私はうんまあ、彼氏未満友人以上ってやつができたかも」


八多喜さんが照れながら話す。


「どんな人?」

「猫系」

「じゃあ平屋さんは?」

「私は……近所の神主さんだよ。年上だけど幼馴染なんだ」


ここらにいる神主といえば三井神社しかないだろう。


「そういえば園崎さんって商店街の花屋さんと付き合ってるらしいよ~」

「なんかポイよね」


時間が時間なので、話は終わった。


「またねー」

「あ、門の前にだれかいるよ」


―――まさかあの三人の助言を真に受けて本当にくるなんて思わなかった。


「ねえもしかして彼氏!?」

「……どうなんですかね?」


【ハッピーエンド..いたちごっこ】

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