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厭紀endA カレナイ


ふと、私はその場に立ち止まる。

咄嗟に走り込んでしまったけど、冷静になってみれば私の名前を呼ばれたわけじゃない。

だから、私が村人から逃げる必要はない筈だ。


「なあ、前から気になってたんだがその手にあるのはなんだ?」


厭紀さんには珠が見えているみたい。


「あ、実は……」

「アンタ語部さんとこの……」


説明しようとしていると、害はなさそうな茶髪の青年が声をかけてくる。


「そうですけど?」


私は毅然とした態度で返事をした。


「驚かせて悪いな。オレは九弧タナシだ」

「九弧……!?」


厭紀さんと乃穢さんが名前を聞いたとたん驚いている。


「有名なんですか?」

「ああ、この村の地主一族だ」


地主といわれ、背中がぞわりとした。


「やあ久しぶりだね、榊家の双子達」


彼等は顔見知り程度の関係らしい。

どうやら仲は悪そうで、乃穢さんが厄介そうな顔をしている。


「僕はヒナシ。九弧家次期当主だ」

「天下の九弧家様が、他所から来た彼女になにか用ですか?」


厭紀さんが彼を私から遠ざけた。


「賢李部家はあまり知られていないが、多くの女神候補を排出した家だ。他所者扱いはよくない」


―――私の家にはたくさん女神候補がいた?


「それに君の母親も16年前に女神役をやったんだ」


――お母さんはあのとき自分が女神役をやったとは言っていなかった。

でも結構内容に詳しかったし、黙っていたということは知られて困ることでもあるのだろうか。


「儀式って100年ごとじゃなかったんだ」

「そうさ、16年ごとにやるものだけど適正者が現れなかったからね」


やっぱり石に適正があるのか―――

そして、石に不思議な力があると知っているのは私だけじゃないようで安心した。


「今年の贄は九弧家の分家からミノキに決まったんだ」

「会ったことないから名前をいわれてもわからないな」


私も厭紀さんに同意する。


「それはひどいな。彼は以前縁日で君達と会ったと話していたよ」


――金魚のすくい方を教えてくれた彼かもしれない。


「もしかしてその人は金髪の少年ですか?」

「ああ、金魚すくいを少ししたって言っていた」


私がなにをしていたかいわなくてもスラッと答えられたので彼のいうことは嘘ではないようだ。


「オレはてっきり生け贄にされるかと思ってヒヤヒヤしてた」

「ボクも選ばれなくてよかった」


これは男性限定なのだから、乃穢さんが選ばれないのは当たり前だろう。


「なんで乃穢さんまで?」

「お前もしかして、こいつを女だと思っているのか?」


タナシさんがカッと目を見開いてたずねた。


「は?」


私は意味のわからない言葉に困惑した。


「あれ、ボク男なんだけど気づいてなかった?」

「ええ!?」

「昔タナシは乃穢ちゃんと結婚するとか言っていたな」

「忘れろ!!」


なんだかはりつめた空気はとけ、コミカルなでアットホームな雰囲気になる。


「さて話を生け贄の件へもどそう」

「お前空気読めよ」


タナシさんにきつくいわれ、ムナシさんは素でぽかりとしている。


「それで?」

「端的にいうと大抵の女神役と生け贄は将来の伴侶となるんだ」


ムナシさんの言葉になんて返すか迷った。


「そんなジンクスがあるんですね!」


適当に無難な返事をしておく。


「ジンクスというより、ある意味強制的だね」

「おい、そんな話聞いてないぞ」


ぽかりとする私にかわって厭紀さんは怒り眉を寄せた。


「じゃあ父は16年前に生け贄を?」

「いいや、たしかに16年前に君の母は贄の儀式で女神役をやったが、違う相手と結婚してしまった」


なんだか自分のことのように残念そうな顔をしている。


「じゃあその贄はどうなったんだ?」

「……僕らの叔父は、今もどこかの神社に幽閉されているんだ」


―――彼等の叔父はもしかしたら、私が蔵で会った彼なのだろうか?


「女神役と婚姻できなかった場合、贄は死ぬかよくて軟禁らしい」


彼らも若いので、そこまで儀式に詳しくはないようだ。


「……どうにかできないのか?」

「いくら僕が優秀で頭のキレるミステリアスエリートでも、昔からある風習や頭の固い長老達をはね除けられはしないんだ」


うん、きっと頭が幸せな人なんだろう。


「それは、生け贄を女神役の想い人に変更したら解決できないか?」

「結果だけで言えばたしかにそうだが、問題は誰が女神役の想い人かなんだ」


そういえば私、やたらお母さんから好きな人を聞かれた。


「一応は先任の女神役が次の候補に対象を尋ねる手筈らしい」


やはりそれから査定が始まっていたのかもしれない。


「そういえば私、好きな人いないんです」

「なるほど、今その話をするということは君が今回の女神役で間違いないというわけだね」


どうやら私は墓穴をほってしまったようだ。

彼等はまだ私を女神役と断定したわけではなかったみたい。

私が次の女神役と知っていたら、自然に話すように誘導されて、ようするにカマをかけられていた。


「しかし残念ながら儀式に使う宝珠が消えたんだ」

「あの、この手にあるんですけど」


私は手にある珠を見せた。


「あると言われても見えないんだが」

「ボクにも見えない」


タナシさんは首をふり、乃穢さんが首を傾げる。


「それは女神が生け贄に選んだ者にしか見えないらしい」


そういえば厭紀さんには珠が見えていた。

それは私が厭紀さんと結婚するという意味になる。

そうしたらミノキ君を贄にすることを回避できる。

だけど厭紀さんには会ったばかりの年下の親戚といきなり結婚の約束をさせられて迷惑だろう。


―――そして今も囚われている彼は救えない。


「その宝珠ってやつが俺を選んだならそれでいい」

「厭紀、僕は彼女を渡す気はないんだけど?」


乃穢さんに後ろから抱き寄せられた。


「兄弟で女をとりあう……これが修羅場ってやつだな」

「君も人のこと言えないだろうタナシ」


二人は冷静に傍観している。


「ねえ、僕と厭紀どっちが好き?」

「わ、私は……たぶん厭紀さんがいいです」


「たぶんかよ。というかいい加減やめないかこの茶番」


乃穢さんは笑いながら私を解放する。


「なんだバレてたんだ?」

「さすがにベタすぎる。お前がこいつに惚れる素振りなかったしな」



それから私達は祭壇に祈りを捧げる儀式を無事やりとげた。


「ひとまず死人がでなくてよかったな」

「そうだね」


ミノキ君はある事情から存在を隠されていたらしい。

今回の件で彼の立場が悪くなるかと思ったが、そっちはヒナシさん達がなんとかするみたいだ。


「でも厭紀さんまだまだ大学でモテるのに許嫁になっちゃっていいんですか?」


私は偽装結婚として風化させてもいいと思っていた。

知り合った期間が短いのと、これから他に好きな相手が出来る可能性を考えてだ。


「いいんだよ。それに俺は結構お前に興味があるんだ。あいつが男だって知ると大抵はそっちにいくから、お前が知った上で俺を選んだからさ」


厭紀さんは乃穢さんに比べてコミュ力が低いのがモテない要因なのだろう。


「あのすみません、そんな理由なんですか!?」

「そうだよ悪いか」


年上なのに少年のようにいじけている。それがなんともおかしくて笑ってしまった。


「いいえ」

「ついでに倒れたお前を運んだの俺じゃなくて乃穢だ。しかも一人でな」

「ええええ!?」



あれから夏休みが終わり、私は学校の友達と久しぶりに会った。


「夏休みどうだった?」


八多喜さんが私達にたずねた。


「私は彼氏ができちゃったよ!」


平屋さんは頬を真っ赤にしながら嬉しそうに言う。


「マジでどんな人!?」

「前から好きだった書道の先生」

「へーというか好きな人いたなんて初耳なんだけど」

「黙っててごめん……ところでミヨちゃんは?」

「私はユウシ先輩と付き合ってる。内緒だよ」

「ええ!?あの学園のプリンス!?」


学園の王子や初恋の年上、そんな二人に比べて私の恋は出会って数日、血生臭い生け贄の風習のある田舎で神社を探索した仲という少女漫画のネタにできないくらい殺風景だ。


「賢李部さんは?」

「許嫁(仮)ができた?」

「許嫁ええええ!?」

「なにそれ詳しく!!」


―――なんというか、結果だけなら私が勝ったみたい。


【ハッピーエンド..結果よければすべてよし】

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