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全員共通 縁日の晩・息のできない金魚・選択


―――夏休み初日、朝早くに叩き起こされた。


「よし、今日は婆ちゃん家いくぞ」


休暇をとった父が久々に車を走らせるという。


――――黄昏紫<たそがれゆかり>村、ここに来るのは六年ぶりだろうか。

父と母は同じ村に生まれたハトコ。

母の実家の所有する山の砂利道へ足を踏み入れた。


遠目から赤い鳥居がのぞき、ふっと思い出す。

あれは今から六年前、黄昏紫神社で開かれた縁日の夜のこと。

小さな頃の私は、好奇心旺盛で、お転婆と言われるような子供だった。

両親とはぐれて、あるいていると神社の中にある小さな部屋が見え、祖母から聞いた話を思い出す。


神社の中には“―――ヒトガミ様がいる”


村には、最も一番美しい容姿の男が、女神に愛された子とされる風習があるのだと、いつも祖母から聞かされていた。

私はぎりぎりに通れるほどの隙間を通って、神社へ入る。

そのままはしり、誰もいない奥までどんどん入ってしまった。


ヒトガミ様に食事を運ぶための穴。そう思った私は、のぞいてみる。

暗くて、こわい。今でも思い出しただけで背中がゾクリとする。

四角い穴から、ロウソクの火灯りがともったのが見えた。


それが移動していき、照らされた青白い顔に悲鳴を上げそうになるも声は出ない。


『近くにおいで、殺したりしないよ』


神社の中にある不思議な場所で、ヒトガミ様に会った。

それからどうなったのかは覚えていない。彼がどうしているかもわからない。


―――もしかしたらまだ。彼はそこにいるだろうか……と、好奇心とも恐怖とも違う感覚になる。


「静華~寝ちゃだめよ~」


すでに寝ている母の寝言。眠るなと言われたが、急に眠気がして私は意識を飛ばした。


―――しばらくして意識がだんだんと車が家の前に止まる。


「ついたの?」


眠たい目をこすりながら私は父に問う。


「ああ、ほら母さんも起きて……」

「うーん……もうついたの?」



車から降りるとすでに祖父母が出迎えてくれていた。


「おお……よく来たね」

「さあ、入って入って」


私達は荷物をおろし、家に運ぶ。平屋作りの家は、相変わらず広さがある。

最後に来たのは小学生のときだったが、昔と変わらない雰囲気に懐かしさを感じる。


「今日は他の子も来ているんだよ」


祖母が戸を横に開くと、 二人の男の子と女の子が座敷に座っていた。

一人は長くさらりとした黒髪。その隣には顔のよく似た女の子。

そして二人の向かいにはイトコの“大柳縒彦<おおやなぎよりひこ>”さんがいる。


「久しぶり……」


縒彦さんに話しかけられる。


「あ……うん、久しぶりだね縒彦さん」




相手の低めの雰囲気か、ぎこちなくなってしまった。


縒彦さんはちらり、二人へ視線をやる。


「あー初めまして、俺は榊厭紀<さかきようき>」

さらさらと綺麗な黒髪、赤い目をしている。


「ボクは乃穢<のえ>だよ~ヨウキとは双子の兄弟なんだ」

妹さんは対照的な色素の薄い柔らかそうな茶だ。


「私は賢李部<かたりべ>静華です。あの、二人は今日はどうしてここに?」


「タメ口でいいよ」

「ボク達は遠縁の親戚なんだ~」

私がここに来ていない間、彼等は何度か来ていたかもしれない。

なんて思っていると{やーね静華、二人とは小さい頃に遊んでもらったりしていたでしょ}と母がいった。


―――ということは、私が覚えていなかっただけか。言われてみると自分より少し上の男の子と遊んだ記憶があるような気がしてきた。


「立ち話もなんだし、食事にしましょう」

_______



父や母は祖父と酒を飲んだりしている。


「ねえ静華ちゃんは付き合っている男いるの?」

ノエさんがなにげなしにたずねてきた。


「いないですけど」

周りは普通に彼氏がいたり恋の話をしているが、私は誰かと付き合うことを考えられない。

なぜかわからないが―――


「じゃあ初恋は?」

「……わかりません」


もしかしたら、小さな頃に会ったあの人がそうなのかもしれない。


「ノエ、止めなよ。彼女が迷惑そうに困ってるだろ」

「だって気になるから」


迷惑というわけではないが、反応には困る。

縒彦さんはこちらをちらりと見ているが、会話にまざりはしない。



{そういえば今夜は神社で縁日があるんだよ}父が思い出したようにいう。


「なら四人で行ってきたらどうだい。じいさんはともかく、二人は酔っぱらいだからねぇ」

つぶれた両親に視線をやり、祖母はあきれながらいう。


祖母から祭り用の財布を受けとる。


「お土産なにがいい?」両親にたずねた。


「ラムネ……」「んーと……きんぎょ」

「わかった」


――――私は三人と外へ出た。



縁日の神社は、田舎なのに賑わっている。



「俺はリンゴ飴を買いにいく」

「ボクは焼きそば」

「……ヨーヨー」


行動がバラバラになるみたい。私は誰についていこう。

――


私は彼と回った後、二人と合流した。今度は三人で行動することになる。


「……!」

「すみません」

目の前の人にぶつかってしまった。

長めの髪に眼鏡の男性。


「こちらこそ、前を見ていなくてすまない」


「あ、五糸<ごしき>!」

乃穢さんが彼を指をさした。もしかして彼氏なんだろうか?


「伍糸<いつし>だ」

名前を間違えられたのか、ひきつった笑顔で否定する。


「こいつは豈透<あにすき>伍糸。俺達と同じ大学で、軽い友人だ」

「祖父母の実家がこの昏幻紫<たそがれげんし>村の近くでな」


「そうなんですか……」

すごい偶然もあるんだなあ。


「……それにしても、お前が祭りなんて意外だったよ」

厭紀さんが顎に手を当ててそう言った。


「ほんーと、どうしたんだよ。縁日なんてガラじゃないのにねぇ……。」

と乃穢さんは言う。


「この年になってこういうものに来るつもりはなかったが、妹に彼女を作れと言われてな。出会いといえばこれだと、参加したんだ」


そのわりには手にいっぱい景品を持っている。射的でとりまくったんだろうなあ。


「じゃあ、オレはこの荷物があるから」

「すごい景品の数だったな」

「景品があったから、ぶつかったんだろーねー」


「縒彦さん?」

「……いや、なんでもない」


―――さっきから黙ってばかりだけど、昔はこんなに無口じゃなかったような。


「せっかくだ。五人でまわらないか」

厭紀さんが伍糸さんを誘う。


「……お前オレの話を聞いていなかったのか?―――それに、そこの子も俺が勝手に入ったらいい気はしないだろ」

彼は一瞬笑って、遠回しな拒否をしているように見える。


「私はべつに……あの、縒彦さんは?」

二人は確認するまでもないので、彼の意見を聞いてみる。


「……問題ない」

「よかったな、いいってよ。荷物おいてこいよ、たしかお前のばーちゃん家すぐ近くの村だろ?」


厭紀さんはそう言うが―――


「だがな……」


伍糸さんはなんだか渋っている。


「あーはいはいコイツは彼女探し続けたいから、ボクらとはまわらないんだってさ。――時間もったいないし、行こうよ」


乃穢さんはそそくさと歩いていく。


「あ、お土産にラムネと金魚を用意しないと」


ふと意識絶え絶えの両親に頼まれていたことを思い出す。


ラムネを買った後、金魚をすくいにいく。


気のせいか、周りの若い女性たちがこちらをみている。


“いいなー”と頬に手をあてながら。


ああ、そういえば厭紀さんが隣にいたんだ。

美形の双子と親しそうに歩いていたらこうなるのも無理はないよね。


それに縒彦さんや伍糸さんも、顔はととのっている。


「ゴシキ、モテモテでよかったじゃーん」

「どこがだ。大方ヨウキへの視線、オレはついでのおこぼれじゃないか……」


「素敵……」

―――コアな趣味の人が縒彦さんを見ているような気がする。


金魚すくいコーナーに来た。

―――難しそう。


「金魚すくいなんて何年ぶりだろう」

厭紀さんはポイを見ながら懐かしんでいる。


「よーしつるぞー」

乃穢さんはやる気満々だ。


「ふーんこれに金魚が乗るわけか」

伍糸さんは金魚すくいを初めて見るようだ。


「……あ」

縒彦さんの紙が破れた。彼は先ほどヨーヨーをたくさんつれたようだが、金魚すくいは苦手のようだ。


紙が破れたら終わる。慎重になりすぎて中々ポイを潜らせることができない。


「水に入れる金魚を怖がらせないようにするといいんだぜ」

後ろから声がした。ふりむくと明るそうな少年がいた。


言われたとおりにやってみると、金魚をつかまえられた。


「ありがとう」

「いや、オレはただコツを言っただけだし、とれたのはあんたの実力だぜ!」

―――少年は手をふってさっていく。


「くそっ!おじさん、もう一回!」

すこし見ていない間、乃穢さんと縒彦さんは白熱した争いを繰り広げていた。


厭紀さんは隣のスーパーボールすくい。伍糸さんは木にもたれてタブレット端末をいじっている。


このまま彼らを待っているのもなんなので、私は久しぶりに神社の方を観に行った。


‘今でも彼はいるのだろうか’いいや‘いるはずがない’


やはり、昔の道は通り抜けられないほど狭い。


「……はぁ」


《おいで――――……》


ため息をつきながら歩いていると、何かに呼ばれた気がした。


それがなんなのか、私にはわからない。

けれど、踏み出した足は止められなかった。



《―――こちらだよ》

――声がだんだん近くになる。


この道を私は憶えている。

向こうの離れに、あの人が―――――


私は戸を開けようとする。


「この部屋をあけてはいけないよ」

扉のすぐそばから声がした。


「ヒトガミ様……そこにいるんですか?」

よかった――あのときの彼は生きているようだ。


「ああ……君はあのときの少女だね?」

「はい!」


「もうしわけないが今は会えないんだ。扉は閉めたままにしておくれ」

どうして、六年前は姿を見せてくれたのに。


「君はもうここに来てはいけないよ」


―――ああ、だけど彼の顔は明るいところで見たわけではなかった。


「……」

本当はこの場所においそれと入っていいわけがないとわかっている。

だが、簡単に納得できなかった。


部外者の私がとやかく言えることではないが、生け贄なんておかしいよ。


しばらく扉の前で、立ち尽くしていると――――

じゃり”石を踏む音が耳についた。



―――人のやってくる気配がして、ここを去ろうとした。


まずいこちらにやってくる。


私はしかたなく彼のいるすぐ隣の倉をあけて、身を隠すことにした。



――――すこし後悔している。わざわざここに隠れなくても、神社から出ればよかったんだ。


足音がなくなり、きっとさっきの人は去った頃かと考え。ここから出ようかと思って、踏みとどまった。


―――誰か扉の前で息を潜めているような気がしてならない。


私はもしも扉を開けられたら。そう考えて、足音を立てないように倉の端に隠れた。


ガラリ”扉が横に開かれる音、誰かがカチカチと懐中電灯で照らすような音がした。


「気のせいか……」

―――若い男性の声、扉を閉められる。

幸い閂の類いはされずに、そのまま閉めただけのようだ。


――早くこの神社を出よう。かくれていた棚の横から立ち上がると、カラリ”ビー玉のような何かが転がった。


それを両手でさぐり、丁度ぶつかった左手で拾う。


「いたっ」

棚に置こうとすると、急に痛みが走った。


「……なんなの!?」

なりふりかまわず。私はすぐさま倉を飛び出し、神社から人の多いところへ逃げ出した。


月あかりに照す。玉は手の表面から見えなくなっている。

―――――きっと気のせいだった。なにかのみまちがいだろう。自分に言い聞かせて皆のところへ戻った。


「……予定通りか」

_______



「静華ちゃん、どこいってたのさー?」

―――乃穢さんが聞いてくる。


「け……乃穢、お前女の子にそんなこと聞くなよ」

厭紀さんや伍糸さんには盛大な誤解されてしまったようだ。


「……これ」

金魚とラムネを持ってくれていた縒彦さんが手渡してくる。


「ありがとう。持っててもらってすみません」



「まあいいや、皆集まったことだし、そろそろ帰らないか?」

私たちは伍糸さんと別れ、家に戻ることにした。


「じゃ、また明日な」

「ばいばいー」

家の近くにつくと、厭紀さんと乃穢さんはこの近くの家に帰るらしく、手を振って別れる。


「縒彦さんは……」

「……婆さん家に一緒に住んでる」


そうだったんだ。たしか彼のお姉さんの“コノ弥”さんは精神的な病気にかかっているんだった。


滅多に来ないから会ったことはないと思うけど、彼の実家は神社なので何かの儀式。というのが親戚の間ではもっぱらの噂だ。


馬鹿馬鹿しい話だけど、昔は信じてよく怖がってたのを思い出す。


家に帰ると、酔いがさめた両親や祖父母が出迎えていた。


「おかえりー」

「ただいま」


手に持っていた金魚を母に、ラムネを父に渡す。


「あれ、父さんラムネなんか頼んだかな……?」

「ありがと~」


「疲れただろ、手洗って早く座りな」

「うん」

____________



「……おやすみ」

「おやすみなさい」


つかれていた私は、部屋に入ると夜更かしせず眠ることにした。


―――手になんだか違和感があって眠れない。やっぱりあれは夢じゃないのではないだろうか。


寝ようとするから寝られないんだ。目を閉じていればいつのまにか寝ていて、明日の朝になっているだろう―――……




―――翌日になると手の違和感はすっかりなくなっていた。

たんに気にしすぎだったようで、なにも変わらない手を見て安心する。



そうだ――せっかくこの村に来たのだから、ただ家にいるだけじゃもったいない。

今日は田舎道を散歩することにしよう。


歩いてしばらくたち、疲れた。

目の前にバス停のベンチがあったのでで休憩することにした。


「それでさーうちのお兄ちゃんが……」

後ろには他愛ない会話をするカップルらしき男女がいる。


「祭で彼女探してくるから、お前もいけよってさー」


――後ろの人も縁日いったんだなあ、なんて思いながら座る。男女は森の向こうへ歩き始めた。


森か―――なにか事件でも起きそうな不穏な雰囲気だ。


私は少し進み、奥まで入ってみようかと思ったが、怖くなってそのまま引き返してきた。


―――ふと、昨日の神社であったことを思い出す。


私を呼んだのが、彼でないなら誰だったのだろう。


―――やはり気になるから、あの神社に行ってみよう。



お参りのついでに、迷い込んだというテイで、ごまかせば一度くらいはなんとかなる。


そういいわけを考えながら、道を進んでいく。


あまり参拝者がいないのか、道中まったくすれ違うことはなかった。


田舎はこういう祭事とかしてそうな印象があったんだけど――たんに村に人が少ないのだろう。

または、朝早くに来ているとか―――


「ふー……」


長い階段をのぼり終わって、一息ついた。


だてにお転婆娘と呼ばれたわけじゃない。

好奇心は相変わらず強いままだ。


賽銭を投げ、願掛けをする。

――――何を祈ろうかな?


やっぱり――――


《どうか何事もなく家に帰れますように》


この村の雰囲気がおかしいわけじゃない。

だけど、この神社に何かあるような気がしてならないのだ。

________



彼のいるところへ向かうが、見当たらない。

よく考えたら方向もわからないのに、暗がりの中、どうしてあそこにたどり着けたのかも。


もしや、あれらはすべて夢だったのだろうか――――――


再び賽銭箱の前を通り、家へ帰ろうとしていると、何か視線を感じた。


そういえば、神社では普通この中に神主さんが住んでいるんだったよね。


――きっとその神主さんがこちらを見ただけに違いない。


「……!」

「やあ、こんにちは」


振り向くと鳥居のほうからやってきた神主さんと鉢合わせてしまった。


「こっこんにちは」


――あれ?


「もう帰るところかな?」

「はい。そうです」


「ああ……驚かせたかな。僕は見ての通りこの神社の神主の柴金織鉉<しきおりひろ>だよ」

「あの、変なこと聞いていいですか……神主さんの他に向こうの社に住んでる人っていますか?」

「いや、いないよ。ちなみにお客も来ていないね」


―――さっきの視線はなんだったのだろう。


「……もしや、なにか霊の類いでも見たのかい?」

「まさか……失礼します」


私は無我夢中で階段をかけおりた。


まだなんだか見落としがある気がする。

このまま帰る。または、登り直す。

どうしようかと悩むが結局私は家に帰ることにする。


ズキッ”


―――とつぜん左手が痛みだした。


手にうっすら丸い模様がうかびあがっている。


「なに……これ……」


苦しい誰か、助けて―――――


とぎれそうな意識の中彼の浮かぶのは。


【厭紀】【乃穢】

【伍糸】【縒彦】

【?】【?】

【?】【?】


「………」

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