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異世界で幸せに気づく?

強くて優しい勇者様がちっともなびいてくれない件について

作者: 中取 庸

前作「チートでモテモテな異世界転移をしてもまったく嬉しくない件について」のお姉さん受付嬢視点の話です。そちらを先に読んだ方が後半はわかりやすいと思います。前作同様に会話文はありません。

前作の彼とは違い、本当に人を好きになるのは外見は関係ないという(願望を綴った)話です。彼もそれに気づけば幸せになれるのに……。

 その少年は、ある日ふらりと街へとやって来ました。

 はじめて見る黒髪黒目に、この国では見慣れない彫りの浅い顔立ち。

 どこかおどおどとした態度で、困ったような笑みを浮かべて彼が冒険者ギルドにやって来た日のことは、今でも良く憶えています。

 どんな冒険者の瞳にも浮かぶ、私たち冒険者ギルドの受付嬢への蔑みと欲望の暗い光が、彼にはまったく見られませんでしたから。


 聞けば、どこか遠くから来たそうで、ギルドの仕組みどころか街での暮らし方すらよくわからないと言います。

 幸い、出身地のカミサマとかいう人に持たせてもらったらしいお金を持っていたので、しばらく暮らすことには心配ないでしょうが、ここに来るまでによく盗賊に襲われなかったものだと呆れました。


 そんなことはギルドの受付嬢の仕事の範疇ではまったくないのですけれど、私は半休を取ってその日の残りの仕事を引き継ぎ、彼を冒険者御用達の武器屋、道具屋に連れて行き、最後にギルドと提携した良心的な価格の宿屋を教えてあげました。

 彼はハンサムな男の子ではなかったけれど、丁寧なしゃべり方で優しい瞳をした人をなぜだか私は放ってはおけなかったのです。


 こんな事をしたら勘違いされるだろうな、とは思っていました。

 私たち冒険者ギルドの受付嬢は、職業を持つ女性の中では比較的社会的地位が高く、ギルドの中では強引に口説いたり連れ出そうとしたりする人はまずいません。

 そんなことをすれば間違いなくギルドからの報復を受けますから。

 それでも一歩ギルドから外に出てしまえば、男性優位のこの世界では男性から多少横暴な扱いを受けても目をつぶらざるをえないのが現実です。

 あくまでそんな状況にならないよう、自衛することが大事なのです。


 案の定、彼はお礼にと食事に誘ってきました。

 失敗したかなと思っていると、街に詳しくないからどこが良いかと訊いてきます。

 そう言えばそうかと、色気はないですが安全で味も良い宿屋の食堂を選べば、彼は嫌な顔をすることもなく喜んでごちそうしてくれました。

 お酒を勧めることもなく、食事の後ギルドの近くまで送ってくれた彼は、もう一度丁寧にその日のお礼を言うと宿屋へと帰っていき、なんだか拍子抜けしてしまいました。


 同時に湧き上がってきたのは「嬉しい」という気持ちでしょうか。

 なんとなく放っておけないという理由で親切の押し売りをしたようなものでしたが、彼はまっすぐにそれを好意として受け取ってくれました。

 丁寧にお礼を言い、感謝を行動で返してくれました。

 この世にはこんな男の人もいるのかと、ちょっと呆然としながら、そしてウキウキしながら、その日の家路についたのでした。


 それからギルドで彼を見かけるたびに声をかけ、良さそうな依頼を斡旋したり、臨時のパーティーメンバーを探している悪い噂は聞かないパーティーを紹介したりしました。

 その度にやはり彼は感謝をしてくれて、丁寧にお礼を言ってくれます。

 世の男性の中でも冒険者は特に粗暴な人が多く、業務として応対をするギルドの受付嬢に下心抜きのお礼を言う人はまずいません。

 当然の結果として、彼は他の受付嬢にも人気が出ましたが、私が窓口にいるときに他の人に彼を譲るようなことはしませんでした。

 チョイチョイと手招きをすれば、子犬のように瞳を輝かせて私の窓口にやってくる彼を見て、私は密やかな優越感とともに彼を「かわいい」と思いました。


 そんな風にして彼との時間が増えていき、だんだんともっと親密になっていくのだろうな、と思っていました。

 できればあまり危険な依頼は受けて欲しくないな、とか、大きな怪我をしたら将来一緒にいるのに困ってしまうな、などと先走ったことまで考えるようになっていたことは、今思い出すと顔から火が出る思いです。

 私はちょっといい気になっていたのかもしれません。

 お姉さんぶって、そのまま彼との関係をリードしていけるものだと勘違いをしていたのです。


 彼は私の想像を超える器を持つ人でした。


 次々と依頼を成功させ、冒険者のランクを上げていく彼。

 はじめの頃は他の冒険者のやっかみを受けていたようでしたが、そんなことをものともしない彼は、やがてはその強さが認められ、頼られるようになっていきました。

 ギルドに来れば変わらずに私の所に顔を出してくれましたが、彼に紹介する依頼は私が選んだものからギルドマスターが選んだのものばかりになっていきました。


 ついには王都のギルド経由で王からの指名依頼が入るようになり、やがて王に直接招かれた彼は、勇者として魔王討伐に向かうことになってしまいました。


 私は焦りました。

 そして後悔しました。

 なぜ彼がこの街にいるうちにもっと関係を進めておかなかったのか、と。

 私が彼の大切な人になることができていれば、魔王討伐などという危険に彼を向かわせることなく、小さな幸せを共有できたのではないでしょうか。

 私にとっては、彼が魔王を倒して世界が平和になることへの期待より、彼が傷つき倒れて二度と戻らない事への恐れの方がずっと強かったのです。


 そんな心配、悩みは、後から振り返ってみればですが、さらに大きな心配事を抱えることになる私にとって、取るに足りないものであったということを思い知ることになります。


 魔王を倒してこの街に帰ってきてくれた彼のまわりに、どうやらパーティーメンバーとして、いつの間にか親密そうな女性が増えていること。

 彼の人気は今や天井知らずで、街の娘たちは当たり前として、貴族の令嬢ですら彼の隣を狙っているらしいこと。

 私が紹介した宿屋にいた娘さんのような年齢の子供ですら、無邪気に彼にまとわりついているようで、実は瞳の奥には彼への執着の情念がうかがえること。


 なにより憂鬱なのは、今になって私がいくら懸命にアプローチをしかけても、彼がちっともなびいてくれないことです。


 私はやはり間違ってしまったのでしょうか?

コメディーのはずがなんか切ない感じに

話作りは難しいですね

前作の第3王女が出てくる前までの話です


続きの話「異世界で幸せに気づく」を投稿しました。

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