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ジャンル別自選小説ベスト10  作者: カキヒト・シラズ


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3/3

第3章 モダンホラー編

 さて、最後にモダンホラーのベスト10を選出したいと思います。

 ところでモダンホラーとは何でしょうか。

 私は伝奇SFと対極にあるのがモダンホラーだと解釈しています。

 超常現象が起きたときに、自然科学的解釈で説明するのがハードSFなら、人文科学的アプローチで解釈するのが伝奇SFでしょう。

 宇宙人やモンスターが目の前に出て来たら、神話や古代文献、オーパーツ、アトランティス大陸などの薀蓄を総動員して、不思議な出来事が不思議でなくなるくらい、もっともらしく説明するのが伝奇SFです。

 一方、モダンホラーはそうした知識が皆無の登場人物がモンスターに遭遇します。モダンホラー作家は、そのときの彼/彼女の反応や心理をできるだけリアルに描写します。

 また人間に遭遇したモンスターの心理もリアルに描写します。当然、モンスターの目線や心理は人間のそれとちがいます。作家は想像力を駆使して、モンスターの気持ちをそれらしく描くのです。

 そして最後に、ここぞというクライマックスシーンで、作家はストーリーだけでなく、文学的文章力で勝負するのです。つまり言葉の持つ抽象的表現力を駆使して、小説のオチをつけるのです。

 こうした意味でモダンホラーは純文学と似たところがあります。

 純文学系の作家や編集者にモダンホラーのファンが多いのはこうした理由からでしょう。



①「血の本」シリーズ/クライブ・バーカー

②シャイニング/スティーブン・キング

③ウイスパーズ/ディーン・R・クーンツ

④コールドファイアー/ディーン・R・クーンツ

⑤パラサイト・イブ/瀬名秀明

⑥スティンガー/ロバート・R・マキャモン

⑦ミザリー/スティーブン・キング 

⑧死都伝説/クライブ・バーカー

⑨リング/鈴木光司

⑩オルラ/ギ・ド・モーパッサン


番外編 千年の愉楽  中上健次



 ①はクライブ・バーカーの短編集。文庫本で六冊。どの短編も傑作で、ハズレはほとんどありません。キング、クーンツ、マキャモンをモダンホラーの御三家と呼ぶようですが、このイギリス作家も含めて四天王と呼んではいかがでしょうか。

 ⑧はバーカーのもう一つの作品ですが、こちらは長編小説。冒頭シーンは圧巻ですが、主人公がまぬけな男という設定でどうも感情移入できません。よって下位にランクインさせました。


 ②と⑦はモダンホラー界の”キング”こと、スティーブン・キングの作品です。読みづらいという欠点はありますが、作品の文学性、完成度は一級品です。


 クーンツが③④と二作品ランクイン。ハズレがないクーンツは①から⑩まで全部独占しかねないので、何とか二作品に抑えました。


 一方、ハズレが多いマキャモンの作品は⑥にランクイン。キングの文学性、クーンツのストーリー、バーカーの描写力と、三作家のいいとこどりをしながら、なぜか総合力で作品に力がないのがマキャモンの特徴です。


 ⑤は国産初の本格モダンホラー作品。読んでいてモダンホラー特有の重量感があります。

 ⑨は映画「貞子」シリーズの原作。⑤以前からある作品ですが、本格モダンホラーと国産の従来型ホラー小説の中間的な作品で、読みやすさが魅力でしょう。ライトモダンホラーといったところでしょうか。


 ⑩はモーパッサンの短編だから、反則でしょうか。

 「女の一生」でお馴染みのモーパッサン。フランス文学通ならモーパッサンが短編小説の名手であることはご存じでしょうが、実はホラー小説の名手でもあったのです。

 パリの貴族たちを描いた恋愛小説や、田園を舞台にした牧歌的なほのぼの小説だけが、モーパッサン文学ではありません。

 「オルラ」はホラー作家たるモーパッサンの代表作。

 ”恐怖”と”狂気”を直接テーマにした作品で、私の中では、太宰治「人間失格」や芥川龍之介「河童」を越える鬼気迫る文学作品です。

 それぞれの作品執筆後、太宰と芥川は自殺し、モーパッサンは発狂しました。


 さて番外編は中上健次の「千年の愉楽」です。

 純文学作品に分類されていますが、私はこの作品こそ和風モダンホラーの傑作と吹聴しています。

 短編集になっていて、被差別部落の中本家の家系に生まれる青年がそれそれの短編の主人公。

 一方、全編に渡って登場するお産婆さんのオリュウノオバが全編の主人公と言えるでしょう。彼女はいずれも短編の主人公である青年が母親から生まれるときに取り上げています。

 中本家の青年はいずれもイケメンで筋骨隆々、喧嘩が強くて女にもてます。若いときに暴力団や市民運動など闘争クループのリーダーになり、大活躍しますが、いずれも若いうちに変死する、という運命を背負っています。

 オリュウノオバは彼らを赤ん坊として取り上げるときに、そうした運命を知っているのです。

 また青年の背中に彫られた龍の入れ墨が天に昇って龍になるという描写はまさにモダンホラー。中上の圧倒的な文章力なしではモダンホラーになりえません。

 この他、天狗に青年が殺され、バラバラ事件になるというストーリーもモダンホラー的でしょう。

 以上、今回は番外編を紹介する記述になってしまいました。

                                   

                                          (完)

よろしければ「なろう」内の拙作ホラーもお読みください。


①蜜蜂男爵の館

②蜜蜂男爵の館2

③裏野ハイツの惨劇

④裏野ドリームランドの惨劇

⑤四つの魂を持つ少年


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