とある少女の実行
期は熟した。今こそが実行に移す最大のチャンスであると強く思う。
標的はすっぽかすことなくちゃんと公園に来てくれた。
もしかしたら勘付かれるかもしれないと危惧したがどうやら杞憂だったようだ。
目の前の女は何の疑いもなく私に笑顔を振りまいている。憎らしい笑顔だ。私にそんなものを見せるな。
そんな醜い顔をあの人に見せ付けるからあの人は可笑しくなってしまったのだ。
これは許されることではない。制裁が必要だ。
弱気なあの人に代わって私が執行人の代役を務めよう。気が利く私にあの人は今以上に私のことを信頼するはずだ。そう思うと顔がにやける。
懐から家から持参した銀色に輝く包丁を取り出す。実際に使うと罪になることは重々承知しているので、実際には使うつもりはない。今のところは。
これは脅すための道具だ。人間という生き物は非常に脆弱なので、こんなものでも充分威力を発揮する。
「あの、ちょっとメールとかしてもよろしいですか?」
目の前にいる女が緊張感の欠片もなくそんなことを提案してくる。警察を呼ばれる可能性があったので拒否しようとするとまるで私の考えを読んだかのように女は口を開く。
「あぁ、大丈夫。警察とかは呼びません。私のマイヒーローに救援を求めたいのです」
警察ではなくとも相手の数が増えるのは御免だったが、あの人に近づく恐れがある人間は全て言い聞かせるべきだと考えを改め、それを許可する。
そう言うと女は楽しそうにメールを打ち始めた。どうやら状況が分かっていないな。使うつもりは無かったが、包丁の出番が訪れるかもしれない。
「はい、終わりました。少し待っていてくださいね」
この女の言うマイヒーローとは如何なる人物なのか。疑問に思った私は答えないであろうと思いながら一応質問してみる。
「私のマイヒーローは康太くん以外にいませんよ。彼の成長を促すためにもこのイベントは重要です。こんなイベントを起こしてくれてありがとうございました」
何故か頭を下げ感謝してくる目の前の女。こいつ頭がおかしいんじゃないだろうか。私も人のことを言えた義理ではないことは分かっているが。
薄々感づいてはいたがやっぱりあの人を呼んだのか。まぁ都合がいい。幻想から目を覚ますためにも立会人になってもらったほうがいいだろう。
私にとって何よりも大切な人。血の繋がりが鬱陶しくて仕方ないから妄想の中では実際に使う呼称と別なものを使用していたけど。今はあえていつも通りの呼称で宣言しよう。
待っていてね、お兄ちゃん。私がお兄ちゃんをハッピーエンドに導いてあげる。