第八話 強襲、超能力者
強襲、超能力者
恥かいた。
いや、自滅したんだがそんなことはどうでもいい。
とにかく、俺はなんてことをしたんだ。
みんなの前で奏と抱き合うなんて……。思い出しただけでも顔が真っ赤だ。
「ああ、ああ、ああクソッ」
俺は地団駄を踏むように廊下を歩きながらどこへ向かうわけでもなく進む。
ああ、いっさら記憶から消えないぞ。
そういや、奏の体結構柔らかかったな。
……ああ、自滅だ! これはまずい。
俺は思い出し赤面で顔を真っ赤にして頭を抱えていた。
「なになに? さっきから顔真っ赤にしてさ」
茶化すような声が耳元に聞こえる。
「なんでお前はいつもタイミングよく現れるんだ?」
そこにいたは毎回恒例の美奈だった。
どうやら、こいつは人の耳元に声をかけるという特殊体質らしい。
「そうじゃないよ。私をみんなが意識しないから見えないだけだよ」
意識しない? 見えない?
そんな非科学的なことがあってたまるか。
「む、その顔は信じてないなぁ。いいよ。見せてあげる」
そう言うと美奈は俺の目の前に立ち消えた。
「へ? み、美奈? どこいったんだ?」
「ここだよ」
声が聞こえて初めて見えた。
美奈は動いていなかった。
「どういう仕組みだよ……」
俺は目を見開いて驚く。
「私ってね、昔から影が薄いんだよねぇ。私から声をかけないと気づいてさえもらえないほどにね」
そ、そんな人間がいたんだなぁ。
認識してもらえさえしない人間。確かに戦力にはなるが……。しかし、なんでこんなに可愛いのに認識しづらいんだ?
「ま、そんなことはどうでもいいじゃん。それよりさ、私と――」
『警告、警告。敵が攻めてきました』
「また敵かよ。敵って毎日来るものなのか?」
「え? ああ、うん。多分ね」
なぜか残念そうな顔をする美奈。
「どうした?」
「ううん。なんでもないよ。さあ、サクッと倒してこよう」
いきなり元気になった美奈を見て俺は首を傾げてしまった。
どうしたんだろう? なんか、いつもの美奈とは違うような……。
「早くおいでよ! 誠が来ないと勝てないんだから!」
急かす美奈。
急ぐ俺。
何とも異様な光景だ。
まあいいや。
「お、おい。待てよ」
俺は美奈の後ろを付いていく。
敵に最初に遭遇したのは俺たちだった。
「なんだ? 今度は女が敵なのか?」
目の前を堂々と歩いていたのは女の子だった。
「見くびらない方がいいと思うよ。この敷地に入るのは結構大変なんだよね。そこを突破したってことは……」
「どう考えても相手は強いってか? まあ、それはそれでいいんだけどさ」
俺は瑞花に言われたことを思い出した。
俺だけだと勝てない? そんなのわかってるよ。だから、お前らに手伝ってもらうんだろうが。何も俺は最強だなんて思ってない。ほかの人より強いなんて以ての外だ。どちらかといえば俺は弱いんだ。何もできない。
今回だって前回のように勝てるかわからない。
だけど、俺は奏が喜ぶ明日があるならそれを全力で手に入れてやるよ。
でもまずは――
「どうしようか。俺、入替れないぞ?」
そう、女子はいる。でも、美奈はなぁ。
「あー! 今、失礼なこと考えてたでしょ!」
「うっ」
なんでこう女は勘が鋭いんだ?
「もう! 私だってキスくらいできるもん! 前にしたもん!」
いや、だからダメだんだけどな。
付き合ってもいない二人が何度もキスするってのは考えものだろう?
「私じゃ不満なの?」
「できればここでそのセリフはやめてほしいなぁ」
「うるさい!」
そう言って美奈は俺の頭を無理やり自分の頭まで持っていき無理やりキスをする。
ドクンッ
ああ、感覚が消えていく。
所有権を取られたみたいだ。
無論、もう一人の俺にだが。
「さあ、聞こうか。君の願いはなんだい?」
美奈の頬を軽く摩りながらニッコリと笑う俺。
ああ、やめてくれ! それは後で俺に精算が来るんだぞ? お前の代わりに俺がひどい目に遭うんだぞ?
「~~~~~っ!!」
瞬時に顔を真っ赤にした美奈は一瞬止まる。
ほらぁ、俺もう地獄行き決定ですわ。
俺は内心で本気で頭を抱えた。
「聞かせておくれ。君の願いは?」
「あ、えっと、あ、あの子を追い払って?」
俺は二ヤッと笑うと
「引き受けたよ。君はそこらへんで座っていておくれ」
俺は美奈を離すと目の前の女の子をまっすぐに見つめる。
俺が視界にその姿を写したかと思いきやいきなり消えた。
「へぇー、あんたが噂の二重人格なのか」
次の瞬間、俺は壁にぶつかっていた。
な、なんだよ今の。俺が動けなかった?
「一体、どんな仕組みなんだろうね」
俺は立ち上がるや否や再びニッコリと笑うと少女を見つめる。
少女は再び消える。
目で追うがやはり完全に消えている。
だが、もう一人の俺は聴覚を澄ます。
「そこだね」
俺が振り返り攻撃を行うが一瞬遅くそこには誰もいなかった。
「惜しいね。そんなんじゃ私には勝てないよ」
そう言って後ろから蹴りが飛んでくるが俺は寸前で体を縮めることでそれを回避する。
「それはこっちのセリフかな?」
俺は立ち上がると少女の足を掴み投げるモーションに入るが寸前で消えてしまった。
「君の能力はテレポートでいいのかな?」
「ちょっと違うね。私は超能力者なんだ。なんでもできるよ」
そう言って頭上からかかと落としが飛んでくる。
俺は両腕でガードするとありもしない力が俺を押しつぶそうと押し寄せる。
「グガッ」
四方八方から何かの力が俺を押しつぶす。
「集約、結成、圧縮。その三つを人間の周りでやったらこうなるんだ。ふぅん、勉強になった」
ひとり納得する少女。
俺はなんとなく勝てないと直感する。だが、もう一人の俺はそんなことは関係ないという趣で少女を見つめる。
「ダメダメ。まだやられちゃダメだよ」
そう言って少女は俺の胸に手を当てる。
するといきなり強烈な力に体を吹き飛ばされた。
壁を砕き破片に体を潰されもはや俺の体は身動きができなかった。
「圧倒的だね」
少女は笑うと再び力を使う為に手を上げる。
「これでおしまい」
「させないよ」
少女を美奈が蹴り上げる。
「ったく。これだから影崎は!」
美奈を知っている?
一体あいつは誰なんだ?
「あの人は私たちの新しい仲間なの。だから、もう二度と傷つけさせないよ」
美奈そう言って消える。
意識ができなくなる。
「影崎は確かに強いよ。でもね、それは重大な欠点でもあるんだ」
欠点?
何か嫌な予感がする。
立て、立てよ! このままじゃ美奈が危ない気がするんだ!
頼む、立ってくれ。今の俺ならあんなのお手のもんだろ?
「影崎、お前は昔みんなからこう言われてたようだな『お化けの影崎』ってな。それもそうなよね。影崎は意識しようとしてもできない。まさにお化けだ!」
「昔の話をするな!」
美奈がいきなり姿を現したかと思いきや少女に殴りかかった。
だが、少女はその光景を予想していたかのように簡単に美奈を捕まえてしまう。
「お前は誰にも見えない。誰にも気づいてもらえない。機械すらな! いずれ、声をかけたってみんな気づかないよ? 影崎はそういう人生を送るんだ。死んだことすら気づかれず、きっと仲間の記憶からも消えていくんだ。影崎、お前はあまりにも不完全だ」
「やめて。お願い、やめてよぉ」
美奈がどんどん消えていく。
声も聞こえなくなってきた。
このままじゃ完全に消えちまう。
「お前は! ――」
「うっせぇんだよ。少し黙ってろよ!」
いつの間にか入れ替わっていた俺は体全体に力を込め立ち上がる。
「ん? なんだ。あんたまだ生きてたのか」
「美奈! お前は俺たちの仲間だ! 忘れるわけないだろうが!」
俺は精一杯叫ぶが美奈の返事は返ってこなかった。
「もう遅いよ! 影崎は完全に自分だけの世界にいるんだ。あんたの声なんか――」
「うっせぇんだよ!」
「なっ……」
うるせぇんだよ。
美奈が自分の世界にいる? だからなんだ! 俺は連れ戻すぞ! それが美奈にとって一番だからな!
「美奈!」
「人の話を聞きやがれ!」
少女が手を出すと俺は再び壁の残骸の中に戻された。
しかし、俺は這い上がり再び呼ぶ。
「美奈! お前は一人じゃないんだ!」
この世に届かない声なんてない。届かない思いなんてないんだ!
一瞬、美奈の髪が見えた。柔らかそうなショートが悲しげに揺れていた。
「そこか!」
俺はそこに全力で走る。
そして、掴む。全力で、離さないように精一杯の力で。
「なっ……に?」
俺は美奈を捕まえた。
俺に掴まれた美奈は姿を現す。
「お前は一人じゃない。俺たちがいるだろうが」
「なんで、わかったの?」
俺に抱かれていた美奈から悲しい声が届く。
「わかるんだよ。仲間だろ? 仲間の居場所くらい分かるに決まってんじゃんかよ」
俺は美奈を離さないように強く抱く。
「あ、あはは。そっか、仲間ならわかるんだ。そっか」
美奈はそう言って気絶した。
「へ、へぇー。あんたはどうやら特別みたいだね。まさか、完全に引きこもった影崎が見えるなんてさ」
俺は美奈を寝かせて少女を見る。
「おい。てめぇ、なんでこんなことした」
「ああ? そんなの敵だからじゃないの?」
敵。ああ、確かにお前は敵だよ。
だけどな、人が人をこんなにしていいはずがないだろうが。
「やっと、出られたわ」
後ろから瑞花の声が聞こえた。
他にも来夢の顔が見える。
「なんだ。もう出てきちゃったの?」
「彩芽。あなたは私たちを見くびってるんじゃないのかしら?」
瑞花は一瞬、美奈を見て怒りの顔を見せるがすぐにいつもの顔に戻り平然と少女に話しかける。
てか、ヤッパリ知り合いだったのか。
「ふん。これじゃあ戦況が悪化したかな? ここは一回撤収するとしようかな」
そう言って少女は空を駆けた。
「おい!」
「放っておきなさい。また来るわ」
「でもよ!」
「来夢、美奈を――」
「聞けよ!」
「黙りなさい! 今は美奈を助けるのよ!」
怒り狂った瑞花が俺に怒声を浴びせる。
「私だって逃がしたくはないわ! でも、今は我慢なのよ。わかってちょうだい」
瑞花はそれだけ言い残すと家の中に入ってしまった。
俺は立ち尽くし空を見上げていた。
今回の戦いはホントに俺の望んだ結末なのか?
なあ、答えろよ。もう一人の俺。




