第三十二話 目覚めればそこはいつもの風景
目覚めればそこはいつもの風景
俺は再び何もない世界に気づいたらいた。
「ここは……」
俺は辺りを見回す。
やはり何もない。完全な無の空間。
「やあ、ここへ来るのは二度目だね。また、死にかけたのかい?」
俺の声が後ろから聞こえた。
おかしい、俺はここにいるはずなのに俺の声が聞こえるなんて。
普通はそう言うかもしれない。
だが、俺は違う。二重人格者は二つの魂を持つみたいだ。
よって、この声の主はもう一人の俺。
「死にかけた? ……そうか、死んでないのか」
俺はひと時の安堵に心の荷が下りた気がする。
「あの程度で死んでしまったら僕が交代した時確実に死んじゃうよ」
それは……危険なんじゃないか?
「な、なあ、そろそろ教えろよ。お前が知ってること全部」
俺は何も知らない。
もう一人の俺は知っている。
それがどうにも許せなかった。
「……教えられないなぁ。今の君ではね」
もう一人の俺は何かを隠した顔をする。
教えられないだと? 何かやばいことがあるのか?
「教えるのは簡単なんだ。だけど、そのあとが大事なんだよ」
そのあと?
「この話を聞いたあと必ず君は戦意を失う。やる気がなくなるんだ。まだ、君には戦ってもらう必要がある。彼らをこのまま野ばらせることはできない」
彼等、きっと水無月だろう。
だが、わからない。俺が戦意を失う?
「どういうことだ?」
「それはまだ言えないって言ったはずだよ? 君はもしかして馬鹿なのかい?」
「なっ……」
俺が絶句するともう一人の俺は微笑む。
「嘘だよ。君は馬鹿ではない。ただ、純粋だ。誰かを守りたいと思うだけで自分を犠牲に出来てしまうくらいに。だからこそ、これだけは忠告しておくよ」
もう一人の俺の表情が険しくなった。
『水無月くんはセカンドチルドレンじゃない。彼はその上を行くものだよ』
水無月がセカンドチルドレンじゃない?
じゃあ、じゃああいつはなんだよ!
「あいつは一体何なんだよ!」
俺への返答は返ってこなかった。
その代わり視界がだんだんと暗くなり目を閉じる。
また、このパターンだ。
俺はまた、真っ白な部屋のベットに寝ていた。
体が動かない。
拘束されているわけではないが力が入らない。
「なあ、そこにいるんだろ? 瑞菜」
俺が声を出すとすぐに瑞菜が立体映像として現れる。
「よくわかったね。なんで?」
「お前のことだ。寝ずに待ってるんじゃないかってな」
「あはは、それも正解。もう三日も寝てやないや」
おいおい。三日ってまずくないか?
よく見ると目の下に隈がちゃんとできていた。
「ちゃんと寝ろよ。睡眠は大事だぜ?」
瑞菜は笑う。
これはいつもの風景だったら俺も笑えただろう。
だが、完全に違和感がある。
瑞菜の笑い声に元気がない。
多分、この前の戦いのことでだろう。
「なあ、瑞菜」
「何?」
「気にするなよ。あれは俺がしたことなんだ。だから――」
お前が気にすることはないんだぜ?
俺の言葉を聞いて瑞菜は微笑んだ。その目には涙が流れていた。
「うん。分かってる。でも、でもね? 私ね?」
君のことが心から好きになっちゃったみたい。
その言葉がなんだか遠く感じて、儚くて、触ったら壊れてしまいそうな位大切なものだった。
だが、俺は躊躇した。
その言葉を受ければ確かに嬉しいだろう。
脳裏にある少女が浮かぶ。
俺がここに入った理由はなんだ?
奏。
そうだ。奏がいたからだ。
あんな悲しそうな目をする彼女がいなかったら俺はここになんてこなかった。
あの時、あの瞬間、あの場所で出会わなければ俺はきっと……。
そこで思考は止まった。
いや、止められた。
突如入って来た瑞菜の飛び込み抱きつきによって。
「あはは、驚いた?」
無邪気な声で瑞菜は言う。
子供のような笑顔で、子供のような気持ちで。
「お、おい、何してんだよ! こ、ここって集中治療室じゃ――」
「うん。『仮』だけどね」
「か、仮?」
「うん。元はここって私の部屋なんだよね」
み、瑞菜さんのお部屋だったんですか。
「あはは」
とても嬉しそうに笑っている瑞菜を見て俺は再び安堵した。
そうだ。笑ってなきゃいけないんだ。
ひどいことがあったあとは必ず笑わないといけないんだ。
「そういえば、あの子はどうなんたんだ?」
瑞菜は笑顔を絶やさず言う。
「死んだよ」
「はぁああ!?」
「あはは、嘘だよ。でも、かなり重症でさ。今、監禁してるんだよね」
「そ、そんなに悪かったのか?」
「うん。見てみる?」
そう言って瑞菜はケータイを取り出して素早く操作すると何かの映像を俺に見せてきた。
『だしなさい! 出さないとお前たちを! あ、あはははは、や、やめ、そこはくすぐったいですってばぁぁぁぁあああああ!!』
確かに重症だ。
瑞菜の頭が。
「なあ、なんでフェンリルに舐めさせてるんだ?」
「え? そりゃあ……楽しいから?」
「よし、取り敢えず頭を検査してもらおうか」
「あはは、面白いこと言うね。もう一回言ったら記憶消すよ?」
「マジすみません」
なぜか俺が謝っていた。
理不尽だ。
なんで俺がこんな目に遭わなければならん?
「ふぅん、誠くん気持ちいいねぇ。あったかくて」
そう言って、瑞菜は俺に頬ずりしたかと思いきや寝てしまった。
可愛い寝顔が今は俺のすぐそばに……。
「いやいやいやいや! 寝るなよ! 寝ないで! お願いだから起きてくれ!!」
俺の声も虚しく瑞菜は完全に寝てしまった。
この状態はまずいんだ。
俺と瑞菜だけだったらいいんだが必ずあと一人はくるんだ。
俺の経験上、そのあとは……地獄だ。
「あ、あなたは姉さまですら手玉にとったのね?」
ドアの方からいかにもお怒りの瑞花の声が聞こえる。
向けない。
怖くて、瑞花の方を見れない。
「み、瑞花、これはお前の姉さんが――」
「みんなぁ? 今日はどうしましょうか」
瞬時に集まった全戦闘員。
その全てに殺気を感じた。
もう一人の俺よ。また、死にかけることになりそうだ。
俺は頭の中で首を横に振りながらあきれ果ててるもう一人の俺が鮮明に浮かんだ。
「誠?」
そこに周りとは桁違いの殺気を持った少女――奏――が現れた。
「か、かにゃで? お、俺は何も……」
怖すぎて噛んでしまった。
だが、恐怖は収まらない。
「みんな、私が許可するから取り敢えず四肢は外そうか」
奏がみんなに指揮してる?
しかも、かなり危ない物を。
「お、おい。さ、流石にそこまでしないよな? な?」
「ふふ」
ああ、死んだ。
俺は俺の隣で気持ちよさそうに寝ている瑞菜を見た直後体に激痛が走るのを一昼夜我慢した。




