第三十話 クロウズ・ユア・アイ
クロウズ・ユア・アイ
瑞菜、瑞花とのデートが始まって早三時間が過ぎた。
そして、回った店、百件。
食べたもの数百種類。
腹は当の昔に限界を超え、パンク寸前まで追い込まれた。
「な、なあ、瑞菜。まだ食べるのか?」
俺が地に足を落とし口から出そうなものを必死で我慢する。
「え? まだ、お腹いっぱいじゃないよ?」
う、嘘だろ!? あれだけ食っておいてまだ腹がいっぱいじゃないってどこの大食い王ですかあんたは!?
俺の意見に瑞花も賛成し反対意見を申し出る。
「ね、姉さま。デートとは食べるだけではありませんよ」
ちなみに瑞花もこの食べ歩きに(無理やり)参加しておりプライドが高いせいか、姉妹だから負けたくないという概念のせいか今まで弱音は吐かなかったとうとう腹が値を上げたらしい。
「えー、でも、私まだお腹空いてるもん!」
それでも食べると言い張る瑞菜を満足させるだけのものは近くにはありそうもなくこのままではまた地獄が再開してしまうと思ったとき瑞菜の視線が一点を見つめたまま止まった。
その先にあったのは古い映画館だった。
「まさかとは思うがあそこに行きたいのか?」
俺が意外な物を見る瑞菜に聞くと瑞菜は我に返ったように、または驚いたようにこっちを見て反論する。
「ち、違うよ。ただ、久しぶりだなって思っただけ」
語る目は悲しそうでどうにかして笑顔にさせたくなる衝動が俺の中を駆け巡る。
「……ああもう、わかったよ! ほら、行くぞ」
俺は瑞菜の手を引き映画館の中に入ろうとする。
だが、瑞菜はそんな行動を拒否しようとするが俺は容赦なく引っ張る。
「瑞花も行くんだぞ」
俺は道の真ん中でつっ立っている瑞花に声をかけ、こちらに呼ぶ。
「え、ええ、わかってるわよ」
さっきから瑞菜と瑞花の行動が不自然だが俺はそんなこと気にせず映画館の中に入っていく。
「早くしないとおいてくぞ。あ、いやおいてったらダメか」
俺はなぜか上がるテンションの中うきうきしながら映画のチケットを買いに行く。
見たところ古いものばかりだった。しかも新しいのは何一つあらず食べ物も定番のポップコーンのみ。
入ってから瑞菜がこれで満足できるだろうかと考えた結果悲惨な目に遭うのは目に見えていた。
だが、俺も男だ。入った以上出ることはプライドが許さなかった。
「仕方ない、ここは出るか」
だがしかし、そんな俺のプライドを作っているのも俺な訳で瑞菜にシゴられるくらいなら安いプライドを捨ててしまう。
だ、だって瑞菜が怒ると怖いんですもん!
「ねえ、これ見ようよ」
映画館を出ようとしたところを瑞菜が引き止めた。
瑞菜が指差した映画は五年前に話題になった映画で今では、見ることさえできない映画だった。
「そ、そんなものが見たいのか?」
俺は恐る恐る聞くと瑞菜は黙ったまま頷いた。
その表情は真剣で何者も寄せ付けない鋭い目でもあった。
仕方なく俺は映画のチケットを買うと瑞菜と瑞花に渡すと劇場と思われる場所に入る。
中には誰もおらず俺たちの貸し切り状態だった。
「ここまでガラガラなのは初めてだぞ。どんだけ人いないんだよ」
俺は半分呆れの言葉を吐きながら座席に座る。
この間瑞菜たちは一言も話さなかった。
静かな中映画が始まった。
ガラガラの劇場の中、静かにスクリーンを眺める瑞菜たち。
そんな二人を 見て俺はある種の違和感を覚えながらスクリーンを眺める。
ストーリーはいらない能力を持った少女が普通の少年と助け合い、励まし合いながら愛を育んでいくといういい物語だったがそんなことよりも俺は瑞菜たちが気になってせっかくの映画を集中できなかった。
なんだか今日の瑞菜たちはどこか変な気がする。
「な、なあ、今日は一体どうしたって言うんだ?」
俺が聞こうとして瑞菜の方を見ると瑞菜が泣いていた。
「どどど、どうした!!」
俺が驚きながら聞くと瑞菜は静かに目を拭いこちらを見る。
そして、口を開いた。
「あ、うん・・・・・・ごめんね。ちょっと感動しちゃってさ」
嘘だ。
俺は直感した。
今までの瑞菜の行動はどこか変だった。
その意味が今、目の前に起こっている気がした。
どうしても聞きたかった。なんで泣いているのか。なんでおかしいのか。
気づけば俺は動いていた。
「なあ、なんで今日のお前はそんなにおかしいんだよ」
「え?」
「いつものお前ならつまらないとか汚いとか言って高笑いするじゃんか。でも、今日は違った。なんでだよ」
瑞菜はバツが悪そうに顔を背けるが俺の顔が本気だと気付きため息混じりで話し始めた。
「私たちには昔親がいたんだよ。まあ、普通だけどね。その親に捨てられたのがこの映画館だったんだよね」
まさか、瑞菜たちにそんな過去があったとは思わなかった。
「す、すまん。まさかそんなに大変なことだとは思わなくってさ」
俺は頭を掻き謝る。
だが、そんな俺の行動とは裏腹に瑞菜は笑い出した。
それと同時に瑞花は微笑んだ。
「そんなに気にすることではないわ。もう過ぎたことだし」
「そうそう。でも、そんなに悪いと思ったら一回やってもらいたいことがあるんだよね」
「なんだよ。俺ができることならなんでもやるぞ?」
「ホントに? なんでも?」
「おう! なんでもだ」
その時、俺は選択を間違えた。
瑞菜になんでもは与えすぎたのだ。
「じゃあ、誠くんから私を抱いてよ」
「……は?」
俺は一瞬思考回路が止まった。
な、なんて言った? 瑞菜は一体なんて言った!?
「だ・か・ら、私を抱いてって言ったの」
「ええっ!?」
二度目に言われたとき俺はまだ半分くらいしか理解できていなかった。
「もう、じゃあ私から抱きつくからいいよ」
そう言って瑞菜は俺の体に抱きつきてきた。
そして、俺の体に頬ずりをしてとても嬉しそうにしていた。
「お、おい!」
俺は裏返った声で反論の意思を見せるが体は一向に動こうとしない。
「やっぱり、こうするのっていいね。ストレス解消になるよ」
「俺はその度に心臓が跳ねるんだけどな」
紅潮した顔で俺は瑞菜に言う。
瑞菜は三分くらい抱きつくと離れて舌を出して笑っていた。
「はは、やっぱり私初恋をしたみたいだね」
「は? 誰に?」
「あはは、これだから燃えるよねぇ」
瑞菜は笑い。瑞花は頭を抱えていた。
理解できていないのはまさか俺だけか?
いやいやいや、どうやったら理解出来るんだ?
そのあと、理不尽にも瑞花も抱きついてきて(瑞菜がこのままだと不公平と言って半強制的に瑞花を俺に抱きつかせた)
俺は最早自棄糞で抱きつかせてやり早く事を進めた。
外に出ると外はオレンジ色に染まっており帰る時間となっていた。
「さて、帰るか」
「うん。そだね、ご飯が待ってるよ」
「「まだ食うのか(食べるの)!?」」
瑞菜はあははと笑って帰り道を先導した。
俺と瑞花は顔を見合わせ笑っていた。
そんな楽しい時間が刻一刻と過ぎていく瞬間だった。
次回が見えない……




