第三話 狼な彼女
狼な彼女
どうも執事からペットになった最宮誠です。
え? 言ってて悲しくないかって?
HAHAHAHA!!
悲しいよ! それはもう目から涙が止まらないくらい悲しいよ!
でもしょうがないだろ! 家ないし!
「あー、なんでこうなったんだ。俺って何か悪いことしたかな?」
俺はソファに寝そべって天井を見上げながらそんなことを言っていた。
「多分何もしてないんじゃないかな?」
不意に声が聞こえた。
声の主を探すため起き上がると目の前には朝助けた少女がいた。
「なあ、そのコスプレはどうかと思うんだが……」
そう、少女は朝とは完璧なる違いがあった。
「そして、なんで猫耳じゃなく犬なんだ?」
犬の耳が生えていた。ついでに言うなら尻尾まで生えている。
「こ、コスプレなんかじゃないもん! ちゃんと生えてるもん!」
意地になって言う少女を見て俺は苦笑していた。
「そうだ。お前の名前ってなんて言うんだよ」
「フェンリルだよ?」
「フェ……なんだって?」
「だから、フェンリル! 神話に出てくるあの狼だよ!」
フェンリル。ああ、よくゲームに出てくるよな。確か敵キャラで……。
「みんなそう呼ぶのか?」
「うん」
なんだ。ちゃんとした名前はないのか。
「なあ、お前はその名前気に入ってるのか?」
「そんなわけないじゃん……」
少女は顔を沈めてしまった。
あー、これって俺のせい?
困ったぞ? このままだと仕事がどうのこうので社会抹殺ものだ。
「じゃあ、名前考えてやろうか?」
「え?」
「だって気に入ってないんだろ? なら俺が考えてやるよ。そうだなぁ」
犬みたいだから……
「ワンコとか」
「私は犬じゃないもん!」
ああ、そうだったな。
そんじゃあ……。
「奏、そうだ。奏だよ。どうだ?」
「わ、私には似合わなんじゃ……」
「そんなことないぞ? 人ってのはみんな音楽を奏でているんだ。お前はちょっとみんなと違う曲を奏でてるから奏だ。どうだ?」
俺は一世一代の大仕事を終えたように再びソファに寝そべる。
奏は立ったまま自分の名前を何回も唱えていた。
「うん。そうだね。私らしい……のかな?」
「ああ、そうだよ。お前はお前にしか奏でられない曲を作るんだ。みんなが歩めない人生を歩んでいっぱいいろんな経験をして奏でればいい」
俺はそれだけ言うと寝返りを打ち昼寝に入った。
ああ、このソファ気持ちええ。
俺はソファに体を任せ眠りに入った。
あれからどれくらい経ったのだろう。外はもう夜になっていた。
「クソッ。腹減ったぁ」
空腹で目が覚めるのはいつ以来だろう?
まあ、それは昔の話か。
俺が体を起こそうとすると何かが邪魔で起き上がれない。
腰辺りに何か巻き付いてる?
「なっ」
なんじゃこりゃあぁぁああああああ!!
叫びたくても叫べない理由がそこにあった。奏が俺を抱き枕にして寝ていたのだ。
ここここれはどういう状況ですか!?
「あらら、起きちゃったのね。ふふ、どうやらこの子に先を越されちゃったみたいね。でも、あなたを弄ぶにはちょうどいいかしら」
そこに現れたのは瑞花だった。
「あ、あの。何をされるところでしょうか?」
俺が引きつらせた顔で言うと瑞花はニコッと笑って何も言わない。
「おいおいおい! ちょっと待ってくれ!」
「しー、起きちゃうでしょ?」
そう言って、物音立てずにソファに入って来る瑞花。
「ちちちちょっと待ってくれ。ここじゃ狭いって!」
「もう、ちょっと触れるくらいでしょ? 我慢しなさい」
いやいやいや、モロに柔らかいのがあたってますが!?
クソッ、なんで瑞花の二つの膨らみはこんなに柔らかいんだ。
「これは大事な話なの。ちゃんと聞いてちょうだい」
瑞花の口から覇気を持った声が届く。
「な、なんだよ」
できればそういう話は起きた時にして欲しい。
「この子から聞いたでしょ? フェンリル」
「あ、ああ。聞いたよ。そう呼ばれてるってことだけな」
「そう、ならもうちょっと詳しく話そうかしら。実は家の前でちょっと話したかもしてないけどこないだどこぞの施設の計画を潰したの」
「ああ知ってる」
「その中心人物の名は荒木修造、この世界にフェンリルを呼ぶという危険なことをしようとしていたの」
フェンリルを呼ぶ?
「神話のフェンリルは知ってるわね?」
「ああ、なんとなくな。狼が神々に影響を与えそうになったのから封印したっていう話ならな」
「そう、なんとなく合ってるわ。でね、この子がそのフェンリルをこの世界に下ろすための器にされてたの」
器。俺はその言い方に違和感を覚えた。
「待てよ。ならこいつは」
「ええ、そのために使われた題材でしかないわ」
ふざけんなよ。こんな可愛い子にそんなことしてたのか?
「落ち着いて聞いて欲しいの。この子にはもうフェンリルが降りてるの。でもね、なぜか神話は繰り返されない。だから、私たちはこの子を監視するだけに収めているの」
なんだよそれ。
そんなんじゃこいつには……。
「こいつには自由がないのか?」
「ええ、この子は少なくてもフェンリルをその身に宿す危険な存在だから。外にむやみに出すのは危険なのよ」
そういうことか。
こいつがフェンリルって呼ばれていたのも。
こいつが朝の男から逃げていたのも。
全部、自由がなかったからなのか。
「ふざけんなよな」
「え?」
「お前らは怖いんだろ? もし、こいつが、奏が暴れたりするのが。奏が外の世界を知って反抗覚えるのが」
俺は瑞花をまっすぐに見つめて言う。
「お前らはこんな可愛い子の反抗が怖くて自由を奪って身動きさせないつもりなんだろ?」
「ええ。そうよ。私たちは怖いわ。この子をそばに置くことさえ怖いのよ」
「だから、こいつには名前がなかったんだな?」
「あら、あなたが付けてくれたって嬉しがっていたわよ?」
こいつら……。
「そんなんでいいのかよ。奏はまだ何も知らないんだぞ? 世界には楽しいことも悲しいこともいろんなものがあるってことがよ」
「なら、あなたが教えてあげてちょうだい。私たちには無理だったこともあなたならできるんじゃないかしら。私の能力も打ち破ったんだからそれくらい簡単よね?」
丸投げしてきやがった。
なんだよ。それ。結局、お前らはコイツを苦しめているだけじゃんかよ。
俺は抱きついている奏の頭を撫でてから再び瑞花を見る。
「ごめんなさいね。私たちは別にその子に世界を見せてもいいと思うのよ? でも、政府がうるさいのよ。だから――」
まだ、私たちの仲間になったばかりのあなたがその子を盗んだことにすればこの子に世界を見せることができるわ。
ああ、そうか。こいつらもこのままじゃいけないって分かっていたのか。
でも、できなかったんだ。
大人たちの重圧に耐えてここまできたんだ。
俺は、何もわかっちゃいなかったんだ。
「でも、気を付けてね。さっきも言ったけどその子にはフェンリルが宿ってるの。計画は潰したはずだけどもしかしたら……っていうのもあるから」
「ああ、わかったよ」
「じゃあ、頼んだわね? その子に世界を見せてあげて?」
そう言って瑞花は俺に抱きついてきた。
「おおおい! ななな何してんだよ!」
「ふふ、朝、私を馬鹿にした罰よ」
『私の言うことを聞きなさい』
瑞花の声が俺の耳に優しく届く。
「じゃあとりあえず動かないで」
ガチンと体が止まる。
ままままずい。確か、こいつの攻略法は反対のことを考え――
「うひゃあ」
俺はへそのあたりを触られ変な声が出てしまった。
「ふふ、可愛い。もっといじってあげるわ」
Sだ。目の前にいるのはSだ。
「やめろよ。ってそこはダメだって!」
「ほら静かにしなさい」
今度は口が動かなくなった。
ああ、ダメだ。これは、これはぁぁぁぁぁああああああ!!
その夜、俺は瑞花が寝るまでイジリにいじられ気絶寸前まで弄ばれた。
ああ、なんだよ。変な方に目覚めちゃいそうだ。




