第二十七話 決死
決死
水無月が玄関の床を蹴って俺の目の前まで疾走、そのまま蹴り飛ばされた。
俺は一瞬のことで反応ができず廊下の壁に激突し軽い脳震盪を起こした。
「お前も替わったらどうだ? 俺と同じ替わり方をするんだろう? 女なら貸してやるぜ?」
そう言ってニヤついた顔をこちらに向けながら仲間の背中を押す。
「は、はは、何を言っているのか理解しがたいが取り敢えずお前が仲間を簡単に売るような存在ってだけは理解したよ。だから――」
俺はクラつく足を立たせ水無月の元まで走る。
「俺はお前を許さない!」
言って俺は水無月を殴ろうとするがその手は軽く躱されカウンターが俺の顔面に直撃した。
「許さない? 貴様ごときに何ができる。女を使って強くなる性質を持っているのになぜそれを利用しない? 女は俺らから見れば言わば道具だ。強くなる道具なんだよ」
言いながら水無月は俺の胴体を何度も蹴り上げる。
「ど、道具なんかじゃない!」
俺は水無月の攻撃を捕らえるが力は治まらず肋骨が嫌な音を上げる。
「理解できないな。強くなれるんだぞ? 誰しもが欲しいと思う力を俺たちは女を使うことで使えるようになるんだぞ? 貴様は馬鹿なのか?」
あいつらは道具なんかじゃない。仲間だ!
俺の仲間なんだ!
「あら、女を道具扱いとは見くびられたものね」
そこに瑞花が出てきた。
瑞花はどうやらお怒りのようで顳かみに青筋を浮き上がらせていた。
「おうおうおう! お前の道具が来たようじゃないかよ!」
俺は力いっぱいの蹴りで水無月から離れた。
「瑞花、なんで来たんだよ」
「リーダー様が玄関に行ったっきり帰ってこないからでしょう? 何をしていると思ったら喧嘩をしてるなんてね。家が壊れるでしょう?」
俺のことは心配してくれてないのね。
まあ、なんとなくわかってはいたけど。
「で? そこのあなたは一体誰なのかしら?」
瑞花が最もな質問をした。
「ああ? 俺様は水無月夏希だ。お前、結構可愛いな」
「ふふ、そうでしょうね。でも、私はもう想い人がいるのよ」
そ〜なんだ。全然知らなかったよ。
そんな事を考えていると水無月から理不尽な殺気を感じた。
「そうか。まあ、古来から愛は奪うものだしな。そいつを倒してお前を連れて行く。ククク、面白くなってきたぜ」
テンションを上げている水無月。
対して俺は何の準備もしていない。
流石の俺も人前でキスをするのは抵抗があるわけで替わりたくても替われない。
「ああ? まだ替わらない気か? まあ、勝ったらそこの女は俺様が連れて行くがな」
カチンときた。
流石に俺でもこれは怒っていいよな?
「おい」
「なんだ?」
「今、なんて言った?」
「そこの女を連れて行くって言ったな」
そうか。そうですか。
あくまでお前は俺の仲間を女って言うんだな?
「瑞花」
「何かしら?」
「絶対にお前を連れて行かせない」
「当たり前よ。連れて行かせたら私、あなたのこと恨むわよ?」
そうだ。瑞花はそういう奴じゃないといけないんだ。
「だから、力を貸してくれ」
「やっとその言葉を言ってくれたわね」
瑞花はこちらを見る。
そして、俺の顔を優しく両手で包むと自分の顔を近づけキスをする。
ドクンッ
体の自由が効かなくなる。
所有権がもう一人の俺に移ったみたいだ。
「願いはわかってるよ。あの男を追い払えばいいんだろう?」
「ええ、それと――」
私を安く見た恩返しをしないといけないわ。
俺は笑った。瑞花のプライドがエベレストより高いことを忘れていた。
瑞花はプライドが高く、強い人だ。仲間のために居場所を作っておくという優しささえ持っている。そんな人を道具だ、女だと大切に扱わないあいつは絶対に許しちゃいけない。
だから、やってやれ。俺にはできないことをお前ならできるはずだ。
アイツに一泡吹かしてやれ。
俺は疾走する。
水無月も疾走した。
打撃戦が始まった。俺の右拳が水無月の頬を殴る。水無月の拳が俺の腹に突き刺さる。
このままやれば怪我をしている俺が圧倒的に不利だ。
だが、こっちは仲間がいる。優秀な仲間が。
「瑞花さん。相手の動きを止めてくれ」
俺の指示で瑞花が頷く。
そして、言う。瑞花の技『絶対権力』が発動した。
『止まりなさい』
敵たちは一斉に動きを止める。
「こ、こんなもので俺が止められるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!」
瑞花の呪縛を消し去る水無月の咆哮。
だが、さっきの技は水無月を一瞬止めるだけでことは済んだ。
俺の右拳と左拳が顔面、胴体に突き刺さる。
「グハッ!」
続いて水無月の心臓あたりに手を当て全ての体重を乗せた押しが水無月を地面に叩きつける。
そして、かかとを高く上げ、再び心臓を目掛けて落とす。
地面にヒビが入り煙が上がる。
「終わったかしら?」
「まだだね。結局攻撃は全てずらされたから」
「そういうこったぁ。いやぁ、流石の俺様でも骨折するかと思ったけどやっぱそこまでいかんかったわ」
そう言って涼しい顔で立ち上がる水無月。
「今のは中国と日本の武術を混ぜたやつだな?」
「だったらなんだい?」
「甘いねぇ、甘い甘い。俺は全ての型を覚えてんだ。避けるのは簡単だって思わないのか?」
「最後の方はそう思っていたけどダメージがないわけでもないだろう?」
そう言うと血を吐く水無月。
水無月の仲間はみんな水無月の傍に駆け寄る。
「離せ! 俺様はまだやれる!」
水無月は断固として仲間の手を取らない。
「誠? そこで何してるの?」
そこに奏が来てしまった。
奏はまだこの状況を理解していないみたいだ。まずい、奏を戦いに巻き込ませるわけには!
「フェンリル? そうか、それがお前たちの弱点か!」
そう言って水無月が奏の元まで走る。
俺も一瞬遅れて駆け出すが肋骨が折れているみたいでそれが足に響く。
「死ね!」
何かないか! 奏を傷つけるわけにはいかないんだ! 何か、何かないのか!
俺の思考回路が急速に回転する。答えはあるはずだ。
思いついた。
そうだ、あいつがいるじゃないか。
来なかったら絶対に後でシバく。
俺は息を吸い込む。そして、叫んだ。
「フェェェェェェェェェェェェェェェェンリィィィィィィィィィィィィル!!」
廊下いっぱいに俺の声が通っていく。
辺りが一瞬遅くなった気がする。
そこに閃光のごとく何かが通る。フェンリルだ。
本当に来やがった。
「なっ! こいつは!」
水無月が叫ぶ。だが、それよりも早くフェンリルが朽炎の貯めに入った。
「ウウゥゥゥゥゥゥン!!」
フェンリルの遠吠えと共に朽炎が発射された。
水無月は服一枚でそれを躱す。
「はは、くくくくははははははは!! おもしれぇ、おもしれぇ! なんだ今のデタラメは! そうこなくっちゃな!」
気分が最高潮に達したところで俺たちの勝利は確定した。
「そこまでよ。私たちの勝ちなのだから」
そう言い放つのは瑞花だった。
見ると水無月の仲間たちは瑞菜、彩芽、陽の能力者に完全にホールドされ、千石、炎矢、俺、フェンリルに水無月は取り囲まれていた。
「あ? チッ、今日はここまでか。美留香、シャットダウンだ」
水無月が言うやいなや目の前が真っ暗になった。
そして、次に目が見えるようになったときそこには水無月とその仲間たちの姿はなかった。
「どうやら、俺たちの平和はまだ先のようだな」
俺がポツリとそう言うとみんなが笑った。
「な、なんで笑うんだよ!」
「だって、面白いもの。そうね、確かに私たちの平和はまだ先のようね」
そう言いながら笑顔を見せる瑞花。
フェンリルがいつの間にか俺の足に擦り寄ってきていた。
「そういや、今日はサンキューな。お前のおかげで助かったよ」
俺が頭を撫でてやるとフェンリルはクゥンと喜んでいた。
不意に服を引っ張られるような感覚が現れ引っ張られた方を見ると奏がムスっとしていた。
「か、奏さん? なんで、そんなに怒っていらっしゃるんですか?」
「怒ってなんかないもん」
いやいや、怒ってるよね?
もしかして、フェンリルを撫でるのが気に食わないのか?
俺は奏の頭に手を置くとなでてやった。
すると奏は嬉しそうに笑った。
「な、何?」
「いやぁ、フェンリルを撫でるのが気に食わないのかなぁって思って」
「わ、わ、わ、私は犬以下かぁ!」
「で、ですよねぇ~」
奏の笑顔が見たくて撫で続けたのはここだけの話だ。




