第二十話 真実 後編
真実
奏の爪が俺の髪を掠る。
俺の膝蹴りは簡単に躱され再び反撃が俺を襲う。
「どうかな? 味方と戦う気分は」
黒崎は笑いながらそんなことを言っていた。
「は? 戦う? これは遊びの範囲だろ?」
俺は精一杯の皮肉を言ってやった。
しかし、これはかなりきついかもしれん。
さっきから怪我を部分から血が大量に出てきていて目が霞んでいるんだ。
「クソッタレ!」
俺は奏の攻撃を寸前で躱すと体勢を崩し地面に倒れてしまった。
奏はそれを見過ごさずすぐさま爪で俺の腹部を刺しにきた。
「ああああ!!」
爪を抜きもう一度刺そうとする奏の攻撃を俺は避けることができず二度目を食らってしまう。
「ううぅぅぅぅん!!」
三度目、四度目と刺され耐え切れない痛みが俺を襲う。
奏は口を開き止めを指すために口を近づけてきた。
終わった。俺は殺されるんだ。
そう思った瞬間何かが光る。
俺はその光の方を見るとそこには光り輝く人がいた。
「第二の太陽、発動。誠! 私を助けてくれたお礼を今するぞ!」
それは陽の第二の太陽の光だった。
「ううぅん?」
奏もそちらに向くと標的を俺から陽に変わった。
「私は元々お前が暴走した時に止める枷のために作られたものだ!」
違う。奏は暴走なんてしてないんだ。
「や、めろ。奏に手を、出すな」
俺は立ち上がり奏の肩に手を置いた。
「ううぅん?」
奏は俺に向いて再び攻撃をしようとする。
「奏、お前は俺たちと一緒に遊びに行くんだろ?」
奏の攻撃を俺はまともに受け鮮血が飛び散る。
「クッ……なあ、奏どこに行こうか? また、水族館でも行くか?」
俺はそれでも語る口を閉じなかった。
「誠! そこをどけ!」
陽の声が聞こえたが俺はどかなかった。
「今度は動物園もいいかもな。奏、どこへ行きたい?」
奏の攻撃が俺の体に触れる前に止まる。
「……ま、こと?」
ほら見ろ、奏は暴走なんてしてないんだよ。
俺の言葉がちゃんと届いてるじゃないか。
「何だと!? なぜ、フェンリルに言葉が届いている!?」
黒崎は驚きながら叫ぶ。
俺は奏を抱きしめた。
「奏、お前は奏だ。フェンリルなんかじゃない」
「私はここにいてもいいの?」
「当たり前だ! 俺たちと一緒にいてもいいんだ」
俺は奏を強く抱きしめた。そうだ、お前はここにいていいんだ。
「う、ううぅうぅ」
再び奏が苦しみ出す。
なんでだ! なんで奏ばかりこんな目に遭わなきゃならないんだよ!
「あぁああああ!!」
奏から狼が飛び出してきた。
狼は立ち上がると威嚇の遠吠えを上げる。
「は、はは、ふあはははあはははあ!! そうか! 私の計画は第三段階まできていたのか! くくく、くはははああ!! 貴様らの負けだ! 本物のフェンリルの誕生だ!」
本物? そうか。あいつが本物のフェンリルか。
なら、手加減は必要ないよな!
「奏、待ってろ。今、お前を自由にしてやるからな」
俺は奏を地面に寝かすと立ち上がり狼を見る。
「お前のせいで奏は傷ついていたんだ。一発くらい殴らせろや」
俺はおぼつかない足で狼のいるところまで歩く。
「させん!」
黒崎はそこに立ちふさがり何かを話し出す。
「ぐわぁ!」
俺の拳はフェンリルの胴体に当たる寸前で見えない何かにぶつかり止められてしまった。
「な、なんだよ!」
再び拳を振るが当然のように止められてしまう。
まさか、黒崎のせいなのか?
でも、どうしたんだ?
「私には確かに戦う力はない。だが、私がいつ守る力はないと言った?」
「誠くん! 黒崎は魔術師なの!」
背後から瑞菜の声が聞こえた。
魔術師? なんでそんなもんがいるんだよ!
「守りは硬いぞ? フェンリル今だ。お前の力を見せてみろ」
黒崎がそう言うとフェンリルは口を開き俺の方を見ていた。
まずい。なんか分からないけどこのままだとまずい!
俺は体を地面に落とすとそれと同時に俺の耳元を赤い光が通った。
瞬間、背後から大きな爆発音が響渡る。
そちらを見るとさっきまであった山がなくなっていた。
「なん……だと……?」
何が起こったんだ?
「朽ちる力を持った炎だ。当たれば流石の君でもどうしようもあるまい」
朽ちる?
背後にあった山を一瞬で朽ちさせたのか?
有り得ない。そんなの勝てるわけがないじゃないか。
俺は恐怖というのを初めて感じたかもしれないかった。
足が震え、口は動かず、その場に倒れているだけしかできなかった。
「ん? そうか。そうか! 貴様にも恐怖があるんだったな! 来ないのならもう一体のフェンリルを消すことにしよう。……やれ」
フェンリルは奏の方を向き口を開けていた。
奏は気を失っていて動かない。
そんな奏に、無抵抗の女の子にそんな攻撃をするのか?
俺は何をしている? なんでこんなところで寝てるんだよ!
起きろよ! 立てよ! 立って奏を守るんだろ?
だが、俺の体は俺の思考とは裏腹に一向に動こうとしない。
その間フェンリルは奏に標準を合わせ撃つタイミングを図っていた。
「ふっ……今だ」
その言葉が聞こえた瞬間俺の体が動いた。
無意識に、無感情に、体は奏の元へと走る。
ビルの屋上が爆発した。
コンクリートは砂に変わり崩れ、パイプは錆びて来ていた。
「はははははっはっはっはっはは!! これで私の計画は――」
黒崎の笑いは途中で止まっていた。
それは死んだはずの奏が俺に抱かれてまだ状態を保っていたからだ。
「なぜだ! なぜ、貴様は朽炎を食らって朽ちない!?」
俺は奏を守ることができた。
まあ、俺だけの力じゃないんだけどな。
「簡単よ。私たちが援護したからよ」
そう、俺だけではさっきのは守りきれなかった。
「そ、そうか……この死に損ないどもが!!」
辺りには来夢が愛用していた鎌が錆び朽ちていた。コンクリートのプレートが何枚も剥がれそして砂になっていた。
「誠、まだ戦えるかしら?」
瑞花の問いに俺は頷いた。
「なら、手伝ってもらうわよ。さあ、立ちなさい」
そう言って瑞花が手を差し伸べてくる。
俺はそれを取り立ち上がる。
そして、黒崎を見る。
「この雑魚どもが! なぜ、なぜ私の邪魔ばかりするんだ!」
そんなの簡単だ。簡単なんだよ。
「お前の計画は確かにみんなを救える計画かもしれない。でも……それじゃあ、奏が救われないだろ?」
そうだ。俺が望むのはみんなが幸せになることだ。
そのためなら何だって犠牲にするよ。ただし、その犠牲は俺だけだ。
「何? ……貴様はたった一人のために全てを犠牲にするのか!」
「違う! 俺はみんなを幸せにするんだ! 誰ひとり損をしない世界を作るんだ!」
黒崎は青筋を浮かばせて完全に切れていた。
「そんな甘い考えでは結局誰も救えないんだぞ! なぜそれがわからない!」
そうかもしれない。確かにあんたが言ってるのは正しいよ。
でも、それでも俺は誰も犠牲にすることなくみんなを救ってこそ本物の救済だと思うんだ。
「誠、黒崎は私たちが何とかするわ。あなたはフェンリルをどうにかしなさい」
「そ、それじゃあ――」
俺が反論をしようと口を開くと瑞花は俺の不意を着いてキスをしてきた。
「これはリーダーとしての命令よ? 行きなさい。全ての障害を打ち砕いて私たちの求める最高の結末を、あなたが思い描いた最高のエンディングを見せてちょうだい」
ドクンッ
瑞花の言葉はどこまでも本気だ。
だから、瑞花には逆らえない。逆らうことは許されないんだ。
「いいだろう。君の望みを叶えるよ」
「ふふ、私たち、でしょ?」
一本取られた俺は微笑み頷いた。
チャンスは一回だ。これを逃せば俺たちに勝ち目は薄れる。
だから、この一回で決める。俺の、俺たちの全てをぶつけてこれで終わらせる。
俺はフェンリルに走り出した。
「馬鹿め! 鉄壁の守りが――」
「フェンリルだけが私たちの敵じゃない!」
彩芽が最大出力の超能力を発動した。
「守りは一つしか作れないと思ったか!」
だが、その攻撃は黒崎の寸前で止められてしまった。
『守りを解きなさい』
瑞花の絶対権力が発動した。
だが、黒崎は一瞬でその縛りを解いてしまった。
「種がわかっている攻撃が私に通じるか!」
「でも、一瞬壁をなくしたよね?」
黒崎の背後に瑞菜がニヤついた顔で飛び出していた。
そして、瑞菜は黒崎に手を触れ唱える。
「タッチマインド。あなたならこれの怖さは知ってるよね?」
完全に動きを封じられた黒崎は見えない壁をどうやら解いたらしい。
これで俺の攻撃は通るはず。
だが、フェンリルも簡単には攻めさせない。口を開け発射のタイミングを図っていた。
「ふははははああああああ!!! そうだ! フェンリル、殺せェェェェェエエえええええ!!」
黒崎の声と同時にフェンリルから赤い炎が発射された。
俺とフェンリルの間は十メートルなかった。さっきの攻撃から見てあの炎の速さは一秒で三キロは行きそうだ。
つまり、これを避けることは普通は不可能だ。
そう、『普通』なら。
「残念だったね。今の僕はその炎さえスローに見えるよ」
俺は体を捻り炎を服一枚を掠って完全に避ける。
――最後は君がやるんだ。僕のフォローはここまでだよ。
ドクンッ
そして、勢いをつけたまま体を再び捻りフェンリルの顎を思いっきり殴り飛ばした。
「クゥゥゥンン!!」
フェンリルはビルから落ちる。
俺はそのまま地面に倒れ息を整える。
「なぜだ! なぜ、神話の猛獣が敗れるんだ! 貴様は一体何なんだ!」
「お、俺か? 俺は最宮誠、だ。覚えとけ」
俺はゆっくりと立ち上がると黒崎の元へと歩く。
「最宮? 最宮だと? くっ……そうか、そうかそうかそうかそうか!!! お前は、お前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!! 仕組んだな、セカンドチルドレンがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!! 最宮豪鬼がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!」
「うっせ」
ドスっと頭部を思いっきりなぎ払うと俺は気絶した黒崎に言った。
「確かに、この世界はお前たちみたいな能力者には居づらいかもしれないかもな。でも、お前らはこの世界に当てはまろうとしたか? お前たちはみんなと合わせようとしたか? してないだろ? それなのに世界をリセットだと? ふざけるのも大概にしろよ! 何の我慢も、傲慢も、理不尽もその全てをお前たちは世界のせいにしてるだけだ! 少しは居心地を良くしようとしろよ。まずは自分を犠牲にして生きてみろよ。努力をやめるなよ。リセットは終点じゃない、逃げ場所だ。逃げずに戦ってみろよ。それでも辛かったら俺がなんとかしてやるよ。だから、他人を巻き込むな」
俺はそれだけ言うと奏の方に歩み寄った。
相変わらず奏は気持ちよさそうに寝ていた。
「ったく。幸せそうな顔しやがって。……あれ?」
俺は地面に力なく倒れていた。
指一本も動かせない。
改めて自分の体を見る。
全身の火傷、複数箇所の骨折、打撲、そして引きちぎられた皮膚。
はは、俺元々動ける体じゃないじゃん。
でも、奏が守れたんならそれでいいか。
このまま寝れば確実に明日は来ないだろうと思っていても睡魔が俺を襲う。
もう一度奏を見る。何度見ても幸せそうだ。
まあ、いいか。
俺は動かない首に鞭打って瑞花たちの方に動かす。
そして、言った。
「みんな、ホントサンキュウな。これが俺が望んだ結末だよ」
こいつらとの出会いは最悪だった。
俺は親に捨てられ、奏は仲間に追われ、そして、あの角でぶつかりキスをしてしまった。
考えてみればあれはファーストキスだったよ。
来夢には鎌を向けられ、瑞花なんて面白そうに笑っていた。
思い出せば思い出すほど楽しかった記憶が思い出された。
ああ、まだ死にたくねぇなぁ。
そんなことを最後に俺の意識は完全に闇に消えた。




