第二話 不幸の先にはきっと幸福が……ないよなぁ
不幸の先にはきっと幸福が……ないよなぁ
昔、俺が小さいときに親にこう言われたことがある。
『いいか。女の子にキスをされたらその子を絶対に守るんだぞ? その子の願いを必ず叶えてやるんだぞ?』
俺がまだ素直だったときにそう言われ俺はこの歳までそれを守り続けた。
というか、守らざる負えない状況になった。
だって、俺にはそういう呪縛を持った人格ができてしまったんだから。
だが、今、それのせいで不幸の道をまっしぐらだ。
「あ、あのぉ。俺は一体どこへ連れてかれるのでしょうか?」
「あら、大丈夫よ。危害は加えないわ。ちょっと体を――」
「それ、バリバリ危害加えますよね!?」
俺の反応が面白かったのか少女は笑っている。
「不幸だぁ。今日に限って特にそうだぁ」
俺は頭を抱えたくなった。だが、それすら許されない状況なのだ。
首元に鎌を携えられ横には少女たちが取り囲んでいる。
傍から見ればハーレムだって?
ふざけないでもらおうか。俺にとって女の子とは俺を利用する悪魔にしか映らないんだ。
しかし、これは本当に困ったぞ。
俺が動けば肩がぶつかるというくらいの距離に少女たちが立ってるし。しかも、なんか触っらた壊れちゃいそうなくらいひ弱だし。
ああ、どうすればいいんだ。
「着いたわ。来夢もう拘束はいいわよ」
先頭を歩く少女が言うと俺の首元にあった鎌は外され緊張していた体が一気に楽になった。
って、ここはどこだ?
目の前には大きな古風の家が建っていた。
「どこかの旅館?」
「違うわよ。ここは私の、私たちの家よ」
へえー、家ねぇ。
こんなに大きな家に住んでるのかぁ。
……そうじゃないだろ! 逃げようよ!
俺は頭だけ振り返ると入ってきた門は完全に閉められ他に出口はない。
ああ、殺される。
感覚的にそう直感した俺は放心状態に陥っている。
「あらら、この人きっと殺されるって思ってるんじゃない? ホントのこと言ったら?」
俺の肩をトンと叩いた少女がそんなことを言う。
「えー、もうちょっとイジってからでも――」
「そうね。教えてあげないと協力を仰げないわ」
全てをまとめあげる少女。
俺は一体何をされるんだ?
「ようこそ、と言っても連れてきたんだけどね。ここは街の中心、闇を退治するための拠点『ハートキャッチ○リキュア』の家――」
「違いますよね!?」
「ふふ。やっぱり面白いわね。私は美山瑞花よ」
そう、髪の長い少女が言う。
「私は影崎美奈だよ♪」
そう、元気よく言う少女。
「私は知宮可憐ですな」
小柄ながら大きな本を持っている少女が言う。
「少年さっきは済まなかった。私は来夢だ」
大きな鎌を持った少女が言う。
俺はタジタジしていた。
いや、いきなり連れてこられていきなり自己紹介されて困らない奴はいないだろ?
「えっと、俺は何をしにここに連れてこられたんですか?」
俺はバカみたいにまじめに聞いていた。
「ああ、そういえば言ってなかったわね」
「完全に言いたくなかっただけですよね?」
「まあ、いいから聞きなさい。あなたが助けた子は私たちが保護していたのよ。ちょっと前にある計画の中心の人物だったから。でも、今日逃げちゃってね。そうしたらあなたが私が送り出した執事をあっという間に気絶させちゃうじゃない?」
ああ、てことは俺はなんかいけないことをしたってことか。
「えっと、そのすんません」
「何を謝ってるの? まあ、彼には少し休業を与えたから今私には執事がいないのよ。それで、あなたを雇おうと思うのよ」
はい?
なんで俺なんだ?
「それにこれ」
そう言って瑞花が一枚の紙を見せる。
「あ、あれ? それいつの間に!」
その紙は借金の紙だった。
「あなたが作るわけはないと思うからきっと親のよね? 可愛そうね。今なら家、部屋付きで雇って上げなくもないわよ?」
瑞花の口元がニヤつき始める。
「ち、ちなみにダメだとどうなるんですか?」
「取り敢えず裸で来夢に抱きついてもらおうかしら」
「喜んでやらせてもらいます!!」
俺は敬礼付きで瑞花の仕事を了承した。
「ふふ、やってくれると思ってたわ。じゃあとりあえず――」
さっきのあなたに会わせてもらえるかしら?
瑞花が真面目な顔で言う。
はい? さっきってやっぱりあの戦いのだよな。
「いや、それは、えっと……」
俺は困った。どうしようもなく困っていた。
いやいやいや、どうやって会わすんだよ。まさかキスしてくださいと言うのか?
死の街道まっしぐらじゃねぇか!
待て待て待て。ここは何とかして話を紛らわさなくては……。
「えっとですね。今日はいい天気ですね!」
「はぐらかそうとしても無理よ? 私には絶対権力っていう素敵な催眠法はあるのよ」
さ、催眠法?
「私の言ったことを優先して行動するようになるの。だから、はぐらかさないで? あなたにこの力は使いたくないのよ」
そう言って瑞花は顔を近づけて来る。
「お、おい。近いって」
俺が顔を離すと瑞花は二ヤッと笑って何かに気づいたような顔をする。
「へえー、あなたもしかしてキスで人格が変わっちゃうの?」
「ゲッ」
「その反応は当たりね。それにしても本当に面白い人ね」
そう言って瑞花は俺にキスをした。
ま、まずい。
ドクンッ
「さ、教えてもらうわよ。あなたの強さを」
「それが君の願いなのかい?」
入れ替わった俺が瑞花の顎に歩く手を当てすっと持ち上げた。
「え?」
「僕の強さを知りたいんだろう? それが君の願いなのかい?」
顔が近い! 顔が近いって!
俺は横目で周りの状況を見るとみんな唖然としていた。
ただ一人を除いて。
「貴様! 瑞花様から離れろ!」
大きな鎌が俺目掛けて飛んでくる。
「女の子がそんな危ないものを持っちゃダメじゃないか」
俺は鎌の刃を人差し指と中指で捉えていた。
こ、これは真剣白刃取りだと!?
「なっ」
「それに今は君じゃなくて目の前の瑞花ちゃんに聞いているんだ。順番は守らないと嫌われちゃうよ?」
俺は鎌を離し地面に叩き込む。
「クッ」
かなり奥までめり込んだ鎌は来夢が引っ張ってもびくともしなかった。
「さあ、これでどうだい? 僕の力は証明できたと思うけど?」
俺は微笑みを瑞花に送り首を傾げる。
「ま、まだよ。美奈」
「あいあいさー」
美奈は言うやいなや目の前から消えた。
動いた形跡すらなくただ目の前から消えたのだ。
「うん。面白い技だね。でも――」
俺は振り返り両腕で目の前の空気を抱きしめるように手を回した。
「え?」
「これじゃあまだ僕は負かせないよ」
そこには何もなかったはずなのにいつの間にか美奈が収まっていた。
美奈は顔を真っ赤にしてへたり込んでいた。
「ごめんよ。君を無力化するにはこれが一番てっとり早かったんだ」
俺は美奈のショートを撫で撫でながら謝罪する。
「これでどうかな? もう戦える人はいなさそうだけど」
俺は今度こそ満面の笑みを浮かべて瑞花を見る。
「そうね。戦える人はねいないわね。でも、まだ私がいるわ」
瑞花は仲間がみんな戦闘不能になったのにも関わらず笑っていた。
そうとう自信があるらしい。
『まずはそこにひれ伏しなさい』
瑞花の言葉に乗った呪縛に俺は何の抵抗もできずひれ伏す。
「へ、へぇー。これが君の能力、絶対権力なのかい? これはすごいや」
俺はひれ伏しながらも笑っていた。
どこまでもクールでイタさを求めるんだな。
「でも、それは僕が意識してなかったからだよ」
俺は何事もなかったように立ち上がり涼しい顔をしている。
「なんで、立てるのかしら? 参考までに聞かせてもらえるかしら?」
かなりの動揺を見せる瑞花。
それもそのはずだ。今までこれを受けて立った奴はいなかったのだろう。
「簡単さ。君の能力は僕が立とうと考えている考えを先回りして筋肉を強直させるものなのだろう? だから、僕はひれ伏すという考えをすればその能力は立つという方に行かずひれ伏すという方に行ってしまう。つまり君の能力は反対のことをしてしまうという天邪鬼なものなのだろう?」
俺は語りながら瑞花のところまで歩く。
「ふふ。やっぱりあなたはただの人ではないようね」
「そうさ。僕は女の子のためになら英雄にだってなれるのさ」
その場にいる全ての少女たちが驚いていた。
「私の思い通りにはならないってことね」
「そうさ。これは僕が望んだ結末さ」
そう言って俺は瑞花の肩をポンと叩く。
ドクンッ
そこで俺は入れ替わる。
って、なんでいつも肝心な時に入れ替わるかなぁ!
「あ、えっと、その……すんませんでした!!」
俺はその場に土下座した。
いやいや、この状況はTHE・DO・GE・ZAしかないだろ!
「ふふ、ホントに面白いわ、あなた。いいわ、許してあげるその代わり――」
私たちのペットになりなさい。
あ、あれ? 俺、最初は執事じゃなかったっけ?
まさかのペットですか!?
「よろしくね、誠くん?」
瑞花の目がキランと光った。
ああ、これは根に持つタイプだな。
俺はその場に正座したまま明日を探すのだった。




