第十七話 先にあるもの
先にあるもの
俺は今、敵の基地と思われるビルの中で逃げ回っていた。
「おいおいおいおい!! なんでこんなに敵がいるんだよ!」
当然ながら敵は波のように俺たちを追いかけてきていた。
右腕を負傷している今、戦って通ることは難しそうだ。
だからといってこのまま逃げ回っているのも正直言って辛い。
「奏! 何かいい案はないか!」
「う~ん、ない」
「だろうな!!」
奏に聞いた俺がバカだった。
とにかくこいつらを撒くことが先決だ。
「こっちだ! こっちに行ったぞ!」
またしても増援が来たらしく倍増化した人数が俺たちを追いかけてくる。
このままじゃ本気で死んじまうよ!
「こうなったら――」
俺は振り向き奏とキスをした。
ドクンッ
全身から力が抜け体から所有権が離れていく。
「全力で逃げさせてもらうよ。奏ちゃんは走らなくてもいいからね?」
そう言って、俺は奏をお姫様抱っこし再び逃げ出す。
しかし、敵も追いかけるに必死でなかなか撒くことが出来ない。
「……これは困ったねぇ」
呑気な言い方だが案外真面目に困っている。
「ロケットランチャー持ってきました!」
「セット、発射ぁああああ!!」
プシューと音をあげて弾頭が迫る。
おいおいおいおいおい!! なんでそんなものを民間企業のビルが持ってるんですか!?
俺の体に当たるまでそんなに時間はない。
やはり、怪我をした体では逃げるのは大変なのか。
「甘く見ないでもらおうか」
俺は奏を上に投げ、自分はしゃがむ。
ロケットは俺の頭を掠って遥か向こうの壁にぶつかり爆発した。
そのあと落ちてくる奏をキャッチすると再び走り出した。
「「「何ぃ!?」」」
敵はさっきの行動を見てみんな驚き仰け反っていた。
当たり前だ。
普通、あんな避け方をする奴はいないのだから。
だが、逃がしてくれるというほどではなかったらしい。
気づけば俺たちは一本みちの廊下の真ん中で挟み撃ちを受けていた。
「これで、おしまいだな」
「はは、これは困った。どうしようもないや」
俺は微笑みながら敗北宣言をしていた。
「ど、どうするの?」
奏は俺の腕を掴み震えている。
そこに人をかき分けて俺たちの方に歩いてくる奴がいた。
「ほらほら、道を開けるネ。紫影のお通りあるヨ」
そこに現れたのは長いツインテールの女の子だった。
「紫影様、なぜこんなところに……」
「暇だからきたネ。文句あるノ?」
「い、いえ!」
どうやら、この女の子がこの場の最高責任者ということか。
俺は構えもせずにただ突っ立っていた。
「おい、そこの男」
「僕かな?」
「そうだヨ。お前の目的はあのバカどもネ?」
「バカが誰か分からないけどきっとそうだと思うよ」
「そう、あるカ。なら、お前を倒さなくちゃいけないあるヨ」
こいつ、なんでこんなこと話してるんだ?
「君は僕のことを気にかけてくれてるのかな?」
「そうじゃないネ。私は強い男好きネ。お前は十分強いヨ。でも、わからないネ。なんで、あんな弱いのを守ろうとするヨ?」
俺は左肩を竦め当たり前のように言う。
「だって、僕はそう願った人の想いを叶えるためにいるんだ。その僕がなんで守らないんだい?」
そうさ。お前はキスをされた女の子の願いを叶えるためにここにいるんだ。
それは俺もだけどな。
「はぁ。やっぱりわからないヨ。それじゃあ、お前は損をするばかりヨ? 強いやつと組めばお前は何だって――」
「君の言っていることは正しいかもしれないね。でも、僕は自分自身の存在価値を失ってまで強い人たちと一緒にいることは望まない」
「そこまで決意しているとは正直思わなかったヨ。これなら、本気で戦わないと流石に私も死んじゃうネ」
「なら僕は君も救ってみせよう」
俺はここで初めて構えを取る。
敵の構えは見る限り中国拳法だ。
「中国マフィア『神龍』の頭首、紫影。お前の命をここで刈り取らせてもらうネ」
爆弾魔の次はマフィアかよ。
俺の日常はいつからこっち側になったんだ?
「そんなご大層な肩書きはないけど名乗ろうか。僕は最宮誠、君たちが弱いと言った集団を助けに来た愚者さ」




