第十三話 もし、守れるものがあるのなら
もし、守れるものがあるのなら
全てを守るために俺はなんでも犠牲にしよう。
ただし、自分以外は犠牲にはしない。
守るためなら俺は俺の命を差し出したっていい。
「さあ、始めようか。僕が望む最高の結末のために」
俺は両手を広げて高らかに叫ぶ。
陽は少し驚いたようだったがすぐに元に戻り無表情になる。
「そうか。これが瑞菜が言っていた私たちを貶める最大のチャンスか」
チャンスなんて呼ばれてんのか俺は。
俺は肩を竦め首を振った。
「何のことかわからないけど貶めたりはしないよ。ただ、僕は僕のために戦うだけさ」
微笑んだ顔で陽に言う。
傍から見ればかなりおかしい言動だろうが今の俺にはどうしようもない。
「それに君はそんなに優しいのに尚更貶めたりはしないさ」
「何?」
「だって、君はただのひとりも傷つけてなんかいないじゃないか」
「この状況でそんなことがよく言えたな」
俺は再び肩を竦め説明に入る。
「だって、君は来夢を蹴る瞬間、寸止めして収束した風の塊で吹き飛ばしたんだろう? ほかのもそうさ。全て寸止めだった。そんな君が優しくなくちゃ何だって言うんだい?」
俺は話している最中一回も笑顔を忘れずに語る。
陽はバレてしまったかという顔をして顔を赤らめていた。
「クソッ、やっぱりバレていたのか。まあいい、お前は確かに危険だな。みんなにないものがお前にはあるようだ」
陽はそう言って俺に向かって疾走。
そのまま俺を蹴り上げようとするが俺は余裕でそれを躱す。
「ダメだよ。女の子がそんなに暴れちゃ」
俺は陽の足を持ち転ばせた。
「クソが! ふざけてるのか!」
転んだ陽は瞬間で俺の足を狙うが俺は再び避ける。
「そんなことはないよ。でもね、遠くで僕たちを見ている人にちょっとちょっかいを出してみたのさ」
俺はにっこり笑った顔で陽を見る。
陽はそれが気に食わなかったのか可愛い顔を崩して鬼の形相で俺を見る。
「そんなに余裕でいられるのは今までだ! 第二の太陽!」
陽が叫ぶと辺りの温度がぐんぐん上がる。
「ヘェー、そんなことまでできるのか。でも――」
俺は初めて自分から陽に近づき手刀で陽を襲う。
「クッ!」
陽はその場から動くと気温は下がった。
「欠点が多そうだね。まだ、みんなを構ってるのかい?」
どうやら、温度を調節するために集中しなければならないみたいで動くと集中できずに能力が発動しないみたいだ。
「何してるの? 陽」
不意に少女の声が戦場に響く。
「へぇー、君が瑞菜なのかい?」
そこには瑞花に似ているけど完全に違ったオーラを放つ少女だった。
「そうでーす♪ 私が美山瑞菜だよ♪」
いやいや、変わりすぎだろ!
「……妹さんとはかなり変わってるね」
さすがのもう一人の俺も少しの間止まっていた。
それにしても変わりすぎだ。
容姿は瑞花なのでなんとなく違和感がある。
「妹さんが少しおかしんだよぉ。私くらいが平常?」
調子の狂う話し方でペースが完全に瑞菜むきになった。
「それよりダメだよ、陽。みんなを守ろうとしちゃ」
話し相手が俺から陽に代わったが瑞菜の顔は変わらなかった。
「言ったでしょ? みんな殺してって」
笑顔で瑞菜が平然と言う。
みんなを殺せだと?
「だが――」
「口答えは許さないよ? 言ったでしょ? 前に私、失敗したから立場が危ういって」
「……」
「あ、そうだ。ねえ君、彩芽は元気? ……ってそこで寝てたね」
いきなり俺に代わりそしていきなり話が変わったこともあり俺は戸惑っていた。
「少し、いいかな?」
「ん? なんだい、新人さん?」
「君は戦う気はないのかい?」
「あるよぉ?」
そう言って瑞菜は陽に触れた。
「な、何をする!」
「次、失敗したら私の人形になってもらうよ?」
陽は歯を食いしばりフードに手をかける。
「いいか。私は今から本気を出す。守れるものならそこの元仲間を守ってみせろ」
そこから現れたのはライオンのような綺麗なたてがみ、堂々としていてそれでも優しそうで全てを統べるに何の躊躇もないものだった。
「フードを外した方が可愛いじゃないか」
俺は恥ずかしさもなく言っていた。
「それを言ってられるのも今のうちだ」
「今度は私も加勢するからねぇ」
瑞菜の陽気な声と共に戦闘が再び始まった。
陽はさっきとは比べ物にならないスピードで俺に襲いかかる。
俺は咄嗟のことで体を動かせずスキだらけのボディーにタックルを食らった。
「クハッ!」
俺は壁に叩きつけられ危うく意識を失いそうになった。
「ふふ、はい、タッチ」
そう言って瑞菜が俺に触れた。
だが、それ以上何もしなかった。
「タッチマインド」
瑞菜が唱えた瞬間から体の自由が奪われる。
「な、なんだい?」
「プレイ、直進」
俺の体は瑞菜が言った通りに動いしてしまう。
「陽」
「分かってる」
陽は向かっていく俺に懇親の一撃を浴びせた。
「クッ」
俺はノーガードで受けた攻撃になんの対処もできずに再び壁に叩きつけられた。
「まだ生きてるよね? プレイ、直進」
俺は立ち上がり陽にまた歩き出す。
こんなの不循環だ。このままじゃ確実に負けちまうぞ。
「安心しろ、この一撃で殺してやるよ」
陽は右手を引き下げ力を込める。
何か、何かないのか! 俺はみんなを守るんだろ!? 動けよ! 動いてみんなを守ってみせろよ!
「ストップ」
瑞菜の声が戦場に響く。
俺は目だけを動かして瑞菜を見た。
瑞菜の前には奏がいた。
「目的が来てくれたよ。もう、君を潰す必要はないね」
奏は俺を見て泣いていた。
奏は知らなかったんだろう。自分を守るためにみんなが傷ついていたことが、自分のせいで傷つく人がいるということが。
「誠……なんで……」
奏は俺から目を離さなかった。
ダメだ。
ダメなんだ。
逃げろ。
逃げてくれ、奏!
俺は動かない体を必死に動かそうとしてもがくがピクリとも動かない。
瑞菜が奏に触れるために手を伸ばす。
あと十センチ。
動け。
あと九センチ。
動けよ。
あと八センチ。
守るんだろ?
あと七センチ。
だったら、無理やりにでも動かせよ。
あと六センチ。
根性見せろや! 俺!
「ふざ、けんな」
俺は絞り出すように声を発する。
そこで瑞菜の手の動きは停止された。
「なんで動けるのか、教えてくれるかな?」
知るかよ。
俺はゆっくりと体を動かす。
「それ以上奏に近づくんじゃねぇよ」
俺は拘束が激しい体を動かしながらキレた頭をクールダウンすることもなく進む。
「嘘……私のマインドコントロールが効かない?」
「知ったこっちゃねぇ! それよりも――」
俺は地面を蹴り瑞菜の目の前に移動する。
「ブチギレてんだからよ」
瑞菜は一瞬遅れて後退する。
俺は未だに動きが鈍い。
「よ、陽!」
「あーもう! わかってるって!」
瑞菜の前に陽が立ちふさがりたてがみを輝かせる。
「第二の太陽! セカンドシー――」
「失せろ!!」
俺の言葉で光は消え去り視界が元に戻った。
俺はその中を堂々と歩いていた。
「てめぇらの考えなんてどうでもいい。心底どうでもいい。ただな、仲間がそれに巻き込まれるなら俺は全力でてめぇらを潰す。覚えとけ」
俺は再び地面を蹴る。
今度は陽の元まで飛ぶと陽に蹴りを入れた。
「クッ……」
「おい。陽」
「な、なんだ」
「お前は親友が大事じゃないのか? 仲間は?」
陽は歯を食いしばりやがて叫んだ。
「大事だよ! 何よりも大事さ! でも、力が強い奴はいつの時代も煙たがれるんだ! お前に何がわかる!」
「ああ、知ったこっちゃないな。テメェがどう考えていようが俺には関係ない」
「ふざけやがって!」
「だけどな、ひとつだけ聞くぞ。お前の親友ってのはその程度なのか?」
「なっ……」
陽は怒りに顔を染め俺を睨む。
「お前の言う親友ってのはそんなに簡単にお前を捨てるのか?」
「知ったような風を――」
「なら聞くぞ。なんでお前はそんなに迷ってるんだ?」
俺の問いに陽は息詰まる。
瑞菜は勝ち目がなくなったと思ってさっさと退散していった。
結局、敵は陽だけになったって事だ。
「答えろよ。お前の親友はそんなに簡単にお前を捨てるのか?」
「そんなことないのですな。私は今でも陽のことを親友だと思っているのですな」
涙目の可憐が言う。
俺は陽の顔を見る。
「だそうだが? お前は一体何を迷っていたんだ?」
「わ、私は……」
まだ迷っている陽に俺は呆れ果て結論を言い放つ。
「お前はこっちに来てもいいんだ。実際、彩芽はこっちに来て輝いているぞ? お前はどうだ? 太陽のライオンなのに一向に輝いていないと俺は思うぞ?」
俺の言葉で陽の目つきが変わった。
輝きを帯び始めた。
「いいのか? 私はこんなにひどいことをしたのに」
「何をした? これは遊びの延長でこうなった。そうだろ?」
俺は可憐にそう言うと可憐は頷く。
再び陽の顔を見ると陽は涙を流していた。
親友にやっと戻ったのか。
ったく、喧嘩は数日で終わらせてくれよ。
「可憐」
「なんですな?」
「あとは頼んだ」
俺はそれだけ言い残すと地面に倒れていた。
奏が俺に飛びついて泣き始めてしまった
ああ、これはマズイな。奏がいること忘れてた。
だが、今の俺にできることは何もなかった。
まあ、いいや。仲直りできた親友がいるんだから。
いってぇ。
これは明日はまた筋肉痛だな。てか、それだけで済めばいいほうか。
それだけ思って俺は意識を刈り取られていった。




