第十二話 太陽のライオン
太陽のライオン
俺の怪我が治ってそろそろ三時間と三十四分が経った。
骨折はありえないほどのスピードでくっつき、筋肉痛はまるで嘘のように消え去った。
だが、消え去った怪我の代わりに大変なものが現れたのだ。
こないだ、水族館で出会った少女は昔の瑞花の仲間だったらしい。
名前は光城陽。
奏と同じく体にある特殊なものを宿している。それは太陽のライオン。
太陽の輝きを放ちながら百獣を統べる最強のライオン。
そんなものを中に宿した少女らしい。
しかし、驚くべきはもう一つの事実だ。
それは、陽は可憐の親友だということだ。
瑞花が言う限りだとかなり仲が良かった。ご飯は必ず一緒に食べて、お風呂にも一緒、何をするも一緒だったという。
そんな少女が奏を狙って脅迫状を渡してきた。
一時間前
「今日、こんな手紙が入ってたわ」
そう言って瑞花がこわばった顔で手紙を机に置く。
俺たちの目はその手紙に集中する。
「何だよ。それ」
「あなたはわからないだろうけれども、これはライオンからの手紙よ」
ライオン? 獣が手紙?
「あー、そういうあだ名の子が昔いたんだよ」
美奈の付け足しのおかげで変な誤解を解いた俺は再び手紙に注目する。
手紙には二文しか書いてなかった。
『二日後、襲撃させてもらう。
逃げることは勧めないが必ずフェンリルは頂くので了承しろ
太陽のライオンより』
何とシンプルな文章だろうか。
ここまでシンプルなのは初めて見たぞ。
「で? そいつは強いのか?」
俺の問いかけに全ての人物が口ごもる。
ただ、一人を除いて。
「ええ、強いですな。あれは私の最高傑作ですな。全てを統べる太陽と百獣を統べるライオンを掛け合わせたまさに最強に相応しいものですな」
俺の問いかけに答えたのは可憐だった。
その表情はどこかさみしそうな表情だったが今の俺に気づくはずもない。
「太陽のライオンはフェンリルがもしも暴走を起こした時ように私が作った人工の神獣ですな。たとえ、フェンリルが暴走しようとも必ずと言っていいほど彼女が勝つですな」
フェンリルの暴走。そんなものが怒るわけがないじゃないか。
俺がそんなこと絶対させねぇよ。
「でもさ、さすがに欠点は――」
「ないですな。彼女に欠点なんてないですな。陽は私のたった一人の親友なのですな。そんなものを簡単に殺されては堪らないですな」
そう言って可憐は部屋を出て行ってしまった。
それから、俺は太陽のライオンのことを詳しく教えてもらい現在に当たる。
「憂鬱だよなぁ。親友だろ? めちゃくちゃ仲良しだったのに……まあ、俺が知ったこっちゃないけどな」
そうさ、俺は奏を守るためにここにいる。
奏に安全に外で生きられるようにする得為に俺はここで戦うと決めたんだ。
「今更、どんな障害が来ても俺は奏を守るんだ」
クソみたいなオヤジに言われた言葉。
『キスされた女の子は必ず幸せにしろ』
そんな言葉に囚われ、いや、その他にもあったかな?
思い出せない。思い出さなくてもいいということか。
「何してるの?」
俺が横になって考え事をしていると奏が俺の顔を覗き込んできた。
「ん、いや、なんでないぞ。ちょっと考え事」
俺は起き上がり奏の相手をする。
これで少しでも気が紛れるかな?
「お前は何してんだ?」
「私はね。可憐にいつものフランスパンをもらいに行こうとしてたの」
ああ、あの硬いフランパンか。
「ねえねえ、なんで今日はみんな顔が暗いの?」
へぇー、奏でもそれくらいは気づくんだな。
俺は少し笑えてきて声が漏れてしまった。
「あー! なんで笑うの!」
「すまんすまん。奏が面白かったからさ」
こんな話がいつまでできるんだろうな。
いや、いつまでもか。
はは、弱気になってるのは俺か。
俺は奏の頭を摩る。
こんな可愛い子の中にフェンリルなんてものが宿ってるのか。
そう考えた俺は右手を強く握った。
「どうしたの? 手、そんなに握りしめて。何かあったの?」
奏を見ると奏は心配そうな顔をして俺の右手を両手で摩っていた。
ったく。俺はお前のために怒ってんだぞ?
そこんとこちゃんと理解しろよな。
俺は怒ることに飽きて奏の頭を優しく撫ではじめる。
あと、二日か。
太陽のライオンが攻め込んで来るのか。
それからの二日はみんな臨戦態勢になりまともな話すらできなかった。
まったく。なんで俺まで居心地の悪いところにいなくちゃならないんだ?
「ハロー。皆さんお元気そうでなによりだよ」
門の上に立ちフードを被った少女、陽が棒読みで言う。
「あら、随分と余裕そうな顔だことね。この人数を相手に勝てるとでも思っているのかしら?」
「? どこに人がいるんだ? まさか、お前たちが人だとでも言わないだろうな?」
いきなり喧嘩を売ってくる陽。
来夢はそれが許せなかったのかいきなり突っ込んだ。
「貴様! 元味方といえどその言い草は――」
「元は所詮元何だよ!」
陽は来夢を一蹴し来夢は地面に伏せたまま動かない。
「テメェ」
俺は一歩前へ出るがそれは瑞花に制された。
「瑞花――」
「あの子は強いわ。私たちが束でかかっても倒れはしないくらいに」
「なっ……」
そんなに強いのかよ。
でも、ここで退けるかよ。
「わかっているならフェンリルを――」
「でも、勝てないことはないわ。あなたをこっち側に引き寄せることだけが今回の勝利条件
、ね? 簡単でしょ?」
瑞花は勝ち誇ったように言い放つ。
それを陽は高笑いを返す。
「私をそっち側に引き寄せる? 冗談は寝て言いな。私は死んでもそっちには行かないよ」
瑞花と陽の間に火花が散る。
交渉決裂か。さすがに瑞花の作戦は無理があった。
「なら、仕方ないわ。あなたをここで消すわ」
瑞花の指示が通った。
俺の横にいたはずの美奈は音もなく消え、彩芽は全ての力を解放し、瑞花は呪縛を放つ。
『そこから動かないでもらおうかしら』
陽にかかった呪縛が陽の体の身動きを完全に止める。
そこに美奈が精一杯のタックルを食らわし最後に彩芽が超能力で周りの瓦礫で陽を潰す。
何ともグロテスクだがこれで完全に死んだはずだった。
そう、はずだったんだ。
「それがどうかしたのか?」
瓦礫に潰されたはずの陽の声が聞こえた。
「くっ、やっぱり倒せないか」
彩芽は再び能力を使うため集中するがそれは眩い光によって遮られた。
「太陽のライオンをなめるなよ? お前らのような攻撃が通じるとでも思ったのか?」
瓦礫はドロドロに溶け、気温も高くなる。
「二つ目の太陽!? まさか、こんなところで使うつもり!?」
瑞花は驚き、皆は同様に驚きに満ちていた。
「お前らに与えられるのは永遠の苦しみだ」
動けないはずの陽は簡単に体を動かし瑞花の目の前まで疾走、そのまま蹴り上げる。
「!?」
瑞花は声すら上げる時間もなく意識を刈り取られる。
「彩芽ちゃん! 私が引き付けるから集中を――」
「作戦は声に出しちゃダメなんだよ。昔言ったろ?」
美奈の懐に潜り込んだ陽はノーモーションのアッパーで美奈の腹部を強打する。
「くっ……」
美奈は少しの間意識を保ったがとうとう倒れてしまう。
「美奈! クソッ!」
「二重で裏切りとはどうかと思うぞ? 行き場のないお前を救ったのはどこの誰だった?」
再び懐に潜り込んだ陽は彩芽に無表情で問う。
「うるさい! 私を救ってくれたのは確かに瑞菜だ! だけど」
彩芽は攻撃を避けながら叫ぶ。
「今、私を救ってくれたのは誠なんだよ!」
彩芽は反撃に出たがそれを先読みした陽はカウンターを合わせてきた。
「く、は……」
「そうか。それでもお前は裏切りをするんだな」
陽は彩芽にそう言い俺の方を見る。
今の俺にあいつを倒すための力はない。
勝てる気がしない。みんなをあんなに簡単に倒してしまう敵なんて俺が勝てると思うか?
否だ。
「やっぱり、陽は強いですな。勝ち目なんて最初からなかったんですな。無駄な努力ですな」
自分の体と同じくらいの本を持った可憐がつまらなそうな顔で言う。
「可憐! みんなの頑張りを無駄だと?」
「そうですな。勝ち目のないものに突っ込んで勝手に傷ついて。まるで馬鹿ですな」
馬鹿だと? 仲間だろ。なんでそんな言い方できるんだよ!
「陽、私ですな。フェンリルは地下の部屋にいるのですな。好きに持っていくと――」
「ふざけんじゃねぇぞ、テメェ!!」
俺は叫んでいた。
奏のことだけではない。こいつは仲間全員を馬鹿にしやがった。
「じゃあ、どうすればいいのですな! 私たちは負けたのですな!」
「まだお前がいるだろうが!」
俺は可憐の肩を掴み揺らす。
「私は戦えないですな」
「陽はお前の親友なんだろ? こいつらだってお前の仲間だろ? なんでそんなに簡単に諦められるんだよ」
「諦めることが効率がいいからですな」
効率? ふざけんなよ。
「そんなのを聞いてんじゃねぇよ。お前はどうしたいんだ? 助けたくないのか? みんなを、親友をよ!」
「助けたいに決まってるのですな! でも、この状況でどうやって勝つって――」
「ふん、俺が何とかしてやるよ」
俺は陽を見る。
「でも、どうやって?」
「確かに今の俺には無理だ。でも――」
俺は可憐に顔を近づける。
「キスをすれば俺はなんでも叶えることができる」
俺は近づけたまま話しかける。
「本当ですな?」
「ああ、本当だ。俺はお前の願いをなんでも叶えるためだけに動くさ」
「信じるのですな」
そう言って可憐は俺の唇にキスをした。
ドクンッ
「さあ、聞こうか。君の願いを」
俺は可憐の顔を間近で見ながら話しかける。
「陽を、親友を助けて欲しいのですな!」
泣きそうな顔になっている可憐が願ったたった一つの願い。
俺はニコッと笑い縮めていた体を伸ばし立ち上がる。
「引き受けたよ。だけど、少し願いを変えさせてもらうよ」
「え?」
そして、俺は言葉を続ける。
「この場にいる全ての女の子を守る」
俺は両手を広げて高らかに言い放つ。
そうだよ。これがオレだよ。言ったら最後全てを言葉通りにしてしまうような神様みたいなやつなんだよ。
「さあ、始めようかな? 僕が望む最高の結末のために」




