第5話
あけましておめでとうございます。
拙い作品ですが今年もよろしくお願いします。
格納庫・整備室に続いて目星を付けていた場所は廃棄場だった。素人が修理できそうなスクラップがあるとは思えず、使えそうな状態の物があればいいなぁ程度に思っていただけなのだが、整備用補助端末(彼?彼女?)が手に入った事でスクラップを修理する可能性が出てきたのは運が良い。
端末を手に提げて話しながら、生産区画から廃棄場のある地下2階へ降りていく。
「でも、スクラップを修理するといっても廃棄された物がそう上手く修理できるのかな?この施設結構長く放棄されているみたいだし。」
「そうですね……私の起動が300年ぶりですがまぁ何とかなるでしょう」
「さんっ……びゃくっ!?」
「私の内部時計によればそうなりますね」
「そんなに長い間放棄されてた物が修理できるとは思えないんだけど……」
「300年ぶりでもこの施設はサブ動力で一部とはいえ稼動していますし、放棄する際の処置が良かったのでしょう。可能性はあると思われます」
「まぁ……君がそう言うならそうなんだろうけど……」
「まぁ、単なる勘でもありますが」
「……不思議に思うんだけど、君って凄く人間臭いよね」
「対話型の補助端末はどれも私の様に人間を模したAIを搭載していますよ。問題点を解決するのに対話は有用です」
「何となく解るような解らないような……」
「こちらがエラーを提示しても画面表示だけじゃ原因を理解できない技術者も居ましたからねぇ……」
「…………」
端末AIと口喧嘩する技術者の姿が簡単に想像できた。意外と毒舌なAIとの会話を続けているとあっという間に廃棄場に辿り着いたのであった。
◆◇◆◇
「うわっ……死体?」
廃棄場に入ると目に入って来た光景に思わず体が竦んで呟いてしまう。
「良く見てください。魔騎兵の残骸ですよ」
魔騎兵は人型戦闘強化服のため、人型の物が無残に山となって廃棄されている光景が思わず死体に見えてしまった様だ。
魔獣にやられたのか腹に大穴の開いているもの、太いかぎ爪で引き裂かれた装甲、砕けたバイザー……そこはまさに残骸……いや、墓場だった。
「うーん……本当に使えそう?」
「基本フレームとCCSが生きていれば何とかなるでしょう」
「CCS?」
「Core Combat systemの略称です。魔騎兵の動力源であり制御用OSでもありますのでこれが無ければ魔騎兵は鉄屑です」
「まさに心臓部って奴か。基本フレームっていうのは?」
「魔騎兵は基本的にライト(L)級・ミドル(M)級・ヘビー(H)級の3タイプがあり、兵種によって使い分けられています。その各クラスの規格を基本フレームと言います。基本フレームは頑丈ですからCCSよりは見つけやすいでしょう」
「なんだかむせそうな区分分けだな……」
「むせる?」
「いや、何でもないよ。しかし、この残骸の中から使えそうな機体を探さないといけないのか……重労働だなぁ……」
「私の中に反重力アンカーがありますので大丈夫です。魔騎兵程度の重さなら問題なく運搬できます」
……反重力って、何気にとんでもない物を拾ってしまった気がする。
「300年眠っていた間にエネルギーは十二分に充電されています。スキャナと併用して効率良く探しましょう。まずは損傷の少ない機体ですね。運がよければCCSも生きてるものが見つかるかもしれません」
「停止していた間に充電なんてしてたの?」
「ええ、動力源は空気中の魔素-エーテル-ですからスリープ中は取り込んで充電しています」
「……何ともエコなエネルギー源だこと」
異世界ってホントにすげぇ。
「それでは、まずは山の手前から探していきましょう」
「了解。指示については任せるよ」
色々な意味で溜息をつきながら俺は背中にケースを背負い、端末に言われるまま残骸の山を掘り返すのだった。
◆◇◆◇
翌日、運搬用のコンテナに使えそうな物を積み込み終わり俺は一息ついていた。
「ふぅ……っ、やっぱり使えそうな物ってそうそう無いもんだねぇ」
生活箱から取り出した水のボトルを飲みながらコンテナを眺める。
「外装はともかくほぼフレームが無傷の機体が見つけられたのは運が良かったと思われます」
ミドル級は生産数が多く、新機体開発の失敗や魔獣による破損等廃棄される量が多く、残骸のほとんどはミドル級のものばかりだった。そのため、残骸の量に反して使えそうな物はミドル級のものが占める事となった。
「そうだね。でも、肝心のCCSが見つからなかったのがなぁ…」
「CCSの生産は専用施設が必要ですから、無事な物は流用したのでしょう。代わりにSCS(Sub Combat system)が大量にみつかりましたので、それで代用できないか試してみましょう」
「SCSって予備動力兼補助OSだっけ。昨日CCSが無いと魔騎兵は鉄屑っていってたけど、SCSでも動くものなの?」
「普段は予備動力というより武装用の燃料といった使われ方をしていますが、CCSが機能不全に陥った際の緊急機能としてSCSによる機体制御機能があります。完全に機体を制御する事はできませんがある程度の行動は可能です」
「君たちの技術って本当に凄いんだねぇ……魔獣なんかもう駆逐しているんじゃないの?」
「それは有得ません」
「え?」
「……いえ、ともあれ一旦整備室に戻りましょう。今日の所は修理プランを立てますので作業は明日からという事にしましょうか」
「え、あぁ……解った」
即座の否定に、平坦な機械音声に似合わぬ怨念めいたものが混ざって聞こえた気がした。何だか据わりの悪い空気を引きながら整備室へと引き上げるのだった。
◆◇◆◇
「さぁ、張り切って修理を始めましょう!」
翌朝からから始まった修理は、やたらと気合の入った端末の掛け声で始まった。
「今回の基になるフレームは『形式番号PR-77A 機体名ベルガ』当時一番配備されていた型ですね。拡張性もあるフレームなので臨機応変に修理するとしましょう。材料はこちらに用意してあります」
「何か料理番組みたいな口上だな……」
「まぁ、私にとっては修理も料理みたいなものです」
「専門家の指導があるっていうのもあるだろうけど、こうやって素人でも修理できるもんなのこれ?」
「ある程度はモジュール化されてますからね。現地修理と改修がしやすい様になっているんですよ。それにしても貴方は手先が器用ですね、メカニックを目指してもいいと思います」
「そこはH級の機体パーツを流用します。それとその所はL級から流用しますので」
「本当に臨機応変だな……大丈夫なんだろうか」
「SCSは通常機体よりも増やしましょう。フレームに拡張マウントを使って配列はこのような形で」
「CCSの代用させないといけないからなぁ……」
「外装はベルガ以外のM級のものも沢山ありましたのでパッチワークします。足りない部分はL級・H級から流用します」
「流用さんはマジ優秀だなぁ」
などど端末の指示を受けて修理を進めていく。ディスプレイに修理する箇所、使うパーツと工具が表示され、口頭による指示も加わり不思議と素人でも修理を進めていけている。
異世界のそれも人型兵器を修理する事に俺は熱中し、寝食を忘れて没頭するのであった。
◆◇◆◇
そして修理開始から3日後
「で…できた…」
「お疲れ様でした」
熱中から覚めると修理できてしまった事に違和感を覚えなくも無いが、それ以上に充実感が勝り、違和感は頭からすぐに追い出されてしまう。
疲れと眠気でかすれる目を、鎮座するベルガへと向ける。
「これが……俺の魔騎兵」
そう呟くと、気が抜けたせいか不意に力が抜け、意識が遠のいていくのだった。