第4話
第3話の最後に加筆しました。
「っん~……ふぁ……ぁ……」
目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった……まぁ、2度も使ってしまったお約束は置いておいて地下なので時間の経過は解らないけど、体の具合から結構長い時間寝ていたらしい。
体を軽く動かしてこりを解すと食料箱から適当に取り出して腹の中に収める。
「そういや、風呂入ってないなぁ……」
居住区画からの帰りに住居部屋を覗いてみたが、キッチンや風呂等の機能は動いてなかった。生活箱に水のボトルはかなりの量が入っているが、飲料用の水を削ってまで入ろうとは思わない。先が見えない以上自殺行為だ。
「うーん、となると早くここから出て人の居るところに行かないと……」
1日居ただけで独り言が多くなってきた気がするし、薄暗い地下室暮らしは精神に良く無さそうだ。とりあえず着替えだけでもする事にする。生活箱から替えの服を探してみると何だかライダースーツみたいなものと頑丈そうなアーミーブーツしか入ってなかった。スーツは上下一体型で触ってみると弾力性のある丈夫な生地で作られている様だった。
「魔装兵用ってあったから、それ関係の服なのかなぁ」
いつまでも寝巻き代わりのスウェットと裸足のままという訳にもいかないし、丈夫なスーツは外に出る時にも有用だろう。着替えてブーツを履きスウェットを生活箱に仕舞う。腰周りに圧縮箱を装着出来る様になっていたので後ろ腰に2つとも装着した。
「それじゃあ、外に出る準備を頑張りますか」
部屋から出ると昨日行った居住区画とは反対側に向うのだった。
◆◇◆◇
居住区画から反対側は生産区画になっていた。この地下施設は研究区画を中心に北と南に居住区画と生産区画が配置されているようだった。研究区画で開発・設計した武器を生産区画で作って試験を行うって感じなんだろう。
武器らしき物が置いてある可能性が高いところと考えて、生産区画にある格納庫に俺は来たのだった。
「さて、何か武器になるものが残ってるといいけど……」
そんな願いはものの見事に裏切られ、格納庫はがらんとしていた。部屋の左右に扉の無いロッカーが並んでおり、奥にシャッターが見える。何だか大リーグの控え室みたいな感じの格納庫だ。この施設が稼動していた当時はこのロッカーに様々な武器があったのだろう。
「倉庫の時みたいに隠し扉とかは……流石にそんな都合よくはいかないか。」
圧縮箱を見つけた時の様な感覚は起こらない。まぁ、あれは特殊だったんだろうと思い一通り探索してみるが空の弾薬ケースらしきものくらいしか見当たらなかった。
探索は諦めて格納庫を出る。
「まぁ、施設放棄するなら格納庫の物も持ってくよな普通」
溜息を付きながら格納庫の次に目を付けていた整備室に移動する。
「ここなら整備前のものがあったりしないかな……」
整備室は流石に全部持ち出せなかったのか、作業台や床に工具や銃器らしき物が散乱していた。これなら銃の1丁でもありそうだと思って探してみるがどれも整備途中や組み立て前の物ばかりですぐに使えそうな物は見つからなかった。
「うーん……最悪バールのようなものを装備して外に出る羽目になるのかな……」
魔獣とバールのようなもので対峙するイメージが湧くが即ミンチになる未来しか浮かばない。溜息を付きながら改めて整備室を見直すと、作業台の上にアタッシュケースくらいの大きさの箱があった。
「圧縮箱……?」
手に取ってみるが圧縮箱と違って重い。何か入ってそうなので期待感と共にケースを開いてみた。
「ノートパソコン……っぽくはないなぁ」
ケースを開いてみると、上部はディスプレイで下部は様々な工具が敷き詰められていた。少なくとも俺が知っているノートパソコンはキーボードが付いている筈だ。
「って!」
色々と触っていると手袋をしているのに指先に静電気に触れた時の様な刺激が流れ、ディスプレイに光が灯る。起動音に続いて響く音声。
「おはようございます、整備行動を開始します」
1日ぶりに聞いた他人の声は、パソコン?の機械音声だった。
◆◇◆◇
暫く無言の間が俺とパソコン?との間に流れる。
「えーと……整備?」
「整備補助を行う場合は整備する物の型番を入力するか、スキャナを使って対象を読み込ませて下さい」
「いや整備するとかじゃなくて……えーと、何?」
「何とは何に対してでしょうか?」
「え、ごめん。何というか……君?でいいのかな……君は何なのかなって」
「私は整備用補助端末『AD-1001』型です」
「整備用補助端末?」
「はい、整備作業を効率良く行うために開発されました。私がここに配備されている事は魔装兵ならご存知の筈では?」
「いや、別に俺は魔装兵っていうのじゃないんだけど……」
「回答の意図が解りかねます。魔騎兵用インナースーツを着用されているからには魔装兵では?」
「インナースーツだったんだこれ……ていうかこれを着ているから魔装兵ってのは暴論じゃないの?普通の人が着てるかもしれないじゃないか」
「一般人にインナースーツは配布されて居ません。傭兵用に機能を落とした廉価版は出回っておりますが、貴方が着ているものは正規軍用スーツであり、魔騎兵でなければ正規軍スーツを着る事はできません」
人間と会話している様なスムーズな会話をする人工知能に驚きながらも整備用端末との会話は続いていく。目が覚めたらここに居た事、人が居ない事、放棄されて長い年月が経過している事等、目が覚めてからの状況を説明すると端末は納得した様だった。
しかし、物凄く人間臭い人工知能だな……
「現状は把握しました。貴方が異世界人という事を考えればそのスーツを着ている事も不思議ではありません」
「異世界人って事は不審に思わないんだ?」
「異世界人を呼び出して魔装兵にする事は軍でも度々行われていた事です。異世界人用の魔騎兵の整備も行っていたのでデータがあります」
「という事は元の世界に戻す方法も知ってる?」
「私が持っているのは整備関係のデータのみなので、異世界人を呼び出したり送り返したりするデータは持ちえていないため解りません」
俺の期待は一刀両断だった。思わずがっくりと膝を付いてしまう。
「私が貴方の役に立てる事は整備関連のみとなりますので、期待に添えられず申し訳ありません」
「いや……いいんだ。落ち込んでても仕方ない状況ってのは自分でも解ってる」
「武器をお探しという事ですが、魔騎兵は用意されていなかったのですか?」
「起きたら1人きりだったからね、その辺の説明もされていないし、格納庫にも何も無かったよ」
「そうですか……異世界人を呼ぶときは専用の魔騎兵を用意している筈なのですが」
「そもそも魔騎兵っていうのは?」
「魔騎兵は戦闘用強化服に分類される装備です。対魔獣用に開発されこの施設でも様々なタイプが開発されています」
端末のディスプレイに魔騎兵の3Dモデル表示される。戦闘用強化服という言葉通りSF作品でよくあるパワードスーツの様なものだった。思わず「r〇dEyesかよ?」と呟いてしまう。
ともあれ、外に出るならこれほど有用な武器はないだろう。対魔獣用に開発されたのだから何の戦闘訓練も受けて居ない俺でも魔獣に対抗できる可能性がある。
「格納庫は空っぽだったんだけど、予備の魔騎兵は無いの?」
「格納庫に何も残されていないという事は、常備されている魔騎兵は全て出払ってしまったのでしょう。研究区画には開発中の物があるかもしれませんが、この施設が放棄されたというなら開発中の物も破棄されたか持ち出されている可能性が高いと思われます」
「そっか……何か他に心当たりは無いの?」
「あります」
「えっ」
「私は整備用端末です。例え開発中の魔騎兵が見つかったとしても完成させる機能はありません。しかし、修理ならお手の物です。機体が無いのならば修理してしまえば良いのです」
心なしかドヤ顔してそうな雰囲気の整備用端末から伝えられた言葉に俺はある場所……格納庫・整備室に続いて目星を付けていた場所を思い浮かべるのだった。
次こそはメカ成分を出したい···