第3話
居住区画には特に何事も無く着く事ができた。
放棄された無人の施設という予想は当たりだった様だけど油断はできない。危険なんてものは最高のタイミングで横合いから殴りかかってくるものだ。
居住区画に着いた俺は現在大きな公園の様な場所に居る。地図で確認した通り居住区画の中央にある大きめの部屋で、居住区画はこの部屋を中心に東西南北4ブロックに分かれた配置になっており、研究区画と隣接する南以外の各ブロックに行くにはここからでないと行く事ができない。
「それにしても、放棄された割には綺麗に残ってるな。埃が積もってるだけで特に壊れてたり瓦礫で通路が埋まってたりしてなかったし。地図では地下1階とあったけどここはシェルター的な施設でもあるんだろうか?」
研究区画からここに辿り着いた俺はそれまでの通路に瓦礫や破壊跡が無い事に気付いた。ここが放棄された理由が何かは解らないが魔獣の襲撃だとしたら戦闘跡があってもおかしくない。それとも襲撃は地上部分で済んだのだろうか?
「まぁ……考えても理由は解るわけ無いか。何にせよ荒れてないのは有難い、裸足で瓦礫の山を歩くのは危険すぎるからなぁ……」
何か特殊な保存方法があるのか、古びた遊具に触れてみて腐食が起こって無い事に驚きながら、物資が保管されている北ブロックに向けて歩き始めた。
◆◇◆◇
「……何もないな」
北ブロックに着いた俺は早速探索を開始した。北ブロックは長い通路の左右に小部屋が合計10個、通路の先に大部屋が1つという形だった。
各小部屋は棚が部屋いっぱいに設置されていたが、空箱ばかりで食料になりそうなものは無かった。
「もしかして撤収する時に根こそぎ持っていったのかな。まぁ、当然といえば当然だけど……まずいなぁ」
缶詰くらいあるだろうと楽観視していた自分を呪いながら大部屋の扉を開ける。そこは高さは他と変わらないが学校の体育館くらいの広さの部屋で、やはり棚が部屋いっぱいに設置されていた。
「こんだけ広ければ缶詰の忘れ物の1つや2つ……」
食料品が無いか棚を片っ端から探していくがそれらしいものは見当たらない。
「うーん……サバイバルキットとか非常袋も残って無いのか……」
棚に残されているのは用途の解らないガラクタばかりで食料らしきものは見つからず、空腹から来るイライラからつい手に持っていたガラクタを思い切り床に投げつける。
ガラァァァァァン!
大きな金属音が響き渡り思わず身を竦めてしまうが、ふと脳裏に浮かぶものがあった。自分でも良く解らないまま何かに導かれる様に大部屋の右奥隅へと移動する。
隅に辿り着くとしゃがみ込み壁に触れて調べると、継ぎ目が無くて見た目は解らないがスイッチの様に押し込める箇所が何箇所かあった。無意識のまま一定の法則でスイッチを押すと『プシュッ!』と軽い空気音と共に壁の一部が上下に開く。
「隠し扉…?」
開いた奥はちょっとした戸棚になっていて、そこにはウェストポーチくらいの大きさの小箱が2つ置かれていた。1つ手に持ってみるが軽い。とても何かが入ってる様に見えないが不意に『圧縮箱』という単語が脳裏に浮かぶ。
「圧縮箱……って、確か時間停止と空間圧縮して色々な物が入る箱だよな……って、何でこんな事俺は知ってるんだ?これもチート?」
またも知ってる筈の無い知識が浮かんでくる事に恐怖を覚える。これも異世界召還による影響だろうか?文字といい端末操作といい、転移先の世界に馴染みやすくなる効果が掛かってるとか。
「まぁ……これもチートだよ……うん。きっとそうだ」
大きく深呼吸して手に持った圧縮箱を開けてみる。すると中空にパソコンのウィンドウの様なものが浮かび上がる。いわゆるホログラムメニューというものだろうか?そこには圧縮箱に入っている物のリストが並んでいた。
「やたらハイテクだな……ホログラムメニューなんて地球でも普及してないぞ……と、なになに……やたっ!非常食が入ってる!」
ホログラムメニューには明らかに缶詰や水と読める物のリストが並んでおり、しかも結構な量が入っている様だった。
「かなりの量が入ってるみたいだし……飽きなければ当面の食べ物は大丈夫かな」
食料問題が一息ついた所でもう1つの圧縮箱も開けてみる。こっちはどうやらテントや着替え等の生活用品がメインになっているようだった。
「こんな小さな小箱2つに当面の生活が何とかなる量が入ってるって凄いな……この世界はかなり文明が進んでるのかなぁ」
ともあれ2つともありがたく頂戴しておく。圧縮箱を取り出すとその下に文字が書いてあった。
『魔装兵用サバイバルキット』
「魔装兵?確かここで開発してる兵器に関係してたよな」
端末から情報収集した際に頻繁に出てきた単語だった。詳しい資料は破損して見れなかったが、ここで開発していた兵器を扱う者を魔装兵と言うらしいという事は解った。
「てことはこの圧縮箱は魔装兵専用の緊急物資なのかな……道理で特殊な仕舞い方をする訳だ」
その特殊な仕舞い方が解ってしまった事については気にしない事にする。精神衛生的に。
「まぁ、目的は果たしたから一旦戻って休もう」
そう呟きながら圧縮箱を両手に持って俺はこの場を引き上げたのだった。
◆◇◆◇
「ふぅ……食った食った」
最初に目覚めた部屋に戻った俺は2つの圧縮箱(同じデザインなので食料箱と生活箱と呼ぶ事にした)のうち食料箱方から食料を取り出して今日初めての食事を取った。
賞味期限が切れてるか心配だったが大丈夫だったようだ。流石は時間停止効果。しかしどうやって時間何て止めてるんだろうな……スタンドでも取り憑かせてるのかしら。
なんて事をつらつら考えているとふと意識が遠くなる。腹が膨れて人心地ついたせいか激変どころじゃない環境変化からの疲れが出たのだろう。
眠気への抵抗をあっさり諦めた俺は、生活箱から毛布を取り出すと医療用ポッドに横になって目を瞑り、そのまま意識を手放したのだった。
次話あたりでそろそろメカ成分を出したい…