第22話
開拓村の入口に到着すると、馬車の周りにリゼルさん達『踊る鈴』団のメンバーが集合していた。
俺は頭部装甲を解放させ、素顔を晒して近づいていく。
「おはようございます、リゼルさん。すみません、遅れてしまいましたか?」
「おはよう桐見君。時間は打ち合わせた時間通りだから大丈夫だよ。俺達はこの通りだからね、全員の準備があるから早目に動くようにしてるだけさ」
そう言ってくれるリゼルさんは、流石猟団を率いるリーダーという感じでとても頼もしく見えた。
リゼルさんとの挨拶の後、他の猟団員にも挨拶と自己紹介を交わす。『踊る鈴』団の団員はリゼルさん以外に3人。うす緑色の全身金属鎧を着たがっしりした大柄な男性でリゼルさんと同じく前衛のジェイガンさん、ギルドの副団長で魔術使いのロトさんは灰色の革鎧を着ており、射手でギルド唯一の女性で最年少のリディエルさんは黒い革鎧を着て弓を背負っている。
20歳前のリディエルさん以外は全員ベテランの30代という『踊る鈴』団は堅実な実力を持つ猟団としてギルドでも知られているらしい。
ロトさんの魔術使いという職は初めて聞くが、何でも魔素を使って身体強化や攻撃等、様々な現象を引き起こす事ができるらしい。魔獣も魔吼と身体強化を使うのでそれの人間版だろうか?とはいえ、規模・威力は古代文明に居た魔法使いに到底及ばないため魔術使いと呼ばれている様だ。
エイダに魔術の事を聞いてみるがエイダの時代でも今と似たようなものだった様で、古代文明とはエイダの時代よりさらに前の時代との事。
自己紹介を済ませると、早速出発する事になった。
ゴブリンの住み着いた森までは開拓村から徒歩で1時間といった所だ。確かにこんな近くの森にゴブリンの集落ができては警戒せざるを得ない。森にも入れないとなると様々な恵みも得られないだろうし。
ちなみにリゼルさん達が付いて来る事になったのは、リゼルさん達が森に入るゴブリンを目撃して集落の位置も特定したためだ。集落には少なくとも50を越えるゴブリンが居るらしく、ゴブリンの数が数なだけに討伐した際に討ち漏らしや残党が発生した場合、開拓村へ向わないかその監視とその数が少数の場合はその殲滅をダグさんから直接依頼されているからだ。
◆◇◆◇
森の入口までの道中は特に何も起こらなかった。
まぁ、これだけ近い道中で魔獣の襲撃等があればそれはそれで危険な事態なので何も無いのが一番だ。
入口に到着するとリゼルさん達と最終確認を行い、予定通り単独で討伐に出る。
「では、行ってきます」
「気をつけてな、桐見君」
当初の打ち合わせ通りリゼルさん達は入口で待機。俺は展開していた頭部装甲を閉じると森の中へと入っていく。
ホロウィンドウ上の地図にギルド出張所で見せてもらった集落の位置をマーキングし、同時に索敵をかけて森の中の魔獣反応を確認する。
すると居る居る。集落の位置に魔獣を表す赤点が密集していた。
「確かに凄い数だけど森の中にはあまり広がってないね」
『そうですね。集落の周辺を警戒している個体は居ますが他に森の中で活動している個体は居ません。ほぼ全て集落に居るようです』
「ゴブリンって夜行性だったっけ?」
『いえ、そのような習性はありませんね』
「そっか、まだ昼前だけど飯でも食ってるのかな?」
『実際に集落を見てみないと解りませんが、聞いた数より多いのが気になります』
レーダーの赤い光点は密集しすぎて数が良く解らない。
「正確にはどのくらいの数なの?」
『レーダー上の反応は83です』
「まぁ、『50を越えるゴブリン』って情報だったから間違いじゃないよね」
目視で数をぴたりと数えるなんて野鳥の会の人でも無理だろう。レーダーを持っていない軽装猟兵じゃ正確な数を把握するのは難しい筈だ。
「数が多いのを気にしてるみたいだけど、何かあるの?俺たちなら問題ない相手なんでしょ?」
『いえ……そうですね。この数でも問題ないでしょう』
何か引っかかる言い方のエイダが気になりながらも足は止めず森の奥にある集落へと進んでいく。
奥に向うにつれて段々と歩き辛くなっていくが、それをものともせずに魔騎兵を纏った俺は踏破していく。
地図上の集落が段々と近づいてくる。頭上を木々が覆っているため太陽の位置が解り辛いが、ホロウィンドウ上の時計はそろそろ昼を示す時間だ。朝方入口に入った事を考えると森の奥というだけあって結構歩いたな。
視界は悪いが各種フィルタが掛かっているため、ホロウィンドウ越しに見る分には問題ない。そろそろ目視でも集落が見えてくるんじゃないだろうかという所で警報音。レーダーを見ると集落周辺を警戒しているゴブリンが1匹こちらに向っている。巡回ルート上に出てしまった様だ。
『やり過ごしますか?』
「いや、向こうから来るのなら好都合だ。倒してしまおう」
消音機能付きの拳銃を構築化して、木々の間に身を潜める。巡回のゴブリンは全然気付いていない様だ。何も気付いていないゴブリンが無防備に視界に入った所で3点射。
「ギッ!?」
パスパスパスと気の抜けた音と同時にゴブリンの頭が弾ける。ゴブリンの悲鳴が少し漏れてしまったが、レーダーを見る限り気付かれては居ないようだ。
黒い煙となって消えていくゴブリンを見ながら、構築化を解除しその場に留まり、現在位置とゴブリンの巡回方向を確かめる。集落はもうすぐそこの様だ。
「地図上だともう目と鼻の先みたいだけど……」
『警備と遭遇しましたし、ここからすぐ近くでしょう』
「そうだね……所で討伐するといっても数が多いみたいだし、どういう方法でいこうか?」
『突っ込んで全て撃ち倒してしまえばいいではありませんか。私達の機体の性能でしたら問題ありませんよ』
「いや、これだけの数を討伐するなら普通作戦とか考えるものなんじゃ……」
意外と脳筋思考だなエイダさん……。
『集落の壊滅が依頼なのですから、律儀に全部倒す必要ありませんよ。要は集落そのものを破壊してゴブリンの集団が無くなればいいのですから』
「……成る程」
確かに、討ち洩らしてしまって、いくらかゴブリンを逃がしてしまったとしても、それが集落そのものを再生できないくらい少数なら問題ない訳か。『集落を壊滅させる』依頼なんだし。
それなら威力の大きい攻撃を手当たり次第集落に撃ち込めばそれで済むかな。
『と言っても、ミサイル等の火力の大きい爆発する武器は駄目ですよ。可燃物があるかもしれませんからね。森に延焼してしまっては事です』
「……むぐっ」
相変わらず人の心を読んでくるAIである。まぁ、確かに森に延焼させてしまったら大事だ。俺1人でも稼げる事を証明しようとして賠償金で春樺さん達に迷惑を掛けかねない。
「となると結局どういう方法がいいんだろうか?」
『ええ、ですから突っ込んで全て撃ち倒してしまいましょう』
「ですよねー」
結局、エイダの言うとおり集落に突っ込んで手当たり次第撃ち倒す事になった。まぁ、トラップを仕掛ける場面じゃないし、木々に囲まれた状況だと、周りの影響を考えれば爆発物も使えない。
こういう集落を壊滅させる場合、火炎放射器が便利そうなんだけど使うなんて以ての外だし。……使ってみたかったんだけどなぁ。ひゃっはー!とついノリノリになって森まで焼いてしまいそうだからやらないけど。
◆◇◆◇
エイダとの相談の後、すぐさま移動を再開して集落が視界に入る場所まで近づき、茂みに隠れて集落の様子を伺う。ジーッと望遠レンズが動いて、ホロウィンドウにゴブリンの集落の様子がはっきり映される。
森の奥は、ゴブリンの集落のある場所だけ周りの木々が生えておらず広々とした広場となっていた。見た印象の広さの感じは野球場のグラウンドくらいあるように見える。
そんな広場を多くのゴブリン達が行き交っている。住まいは主にテントの様だ。その他にも伐採した木を使って作ったのだろうか、バラック小屋のような物もいくつかあった。
小屋を建てている所を見ると、本格的に定住するつもりらしい。
『結構本格的に拠点化を進めているみたいですね』
「そうみたいだね。確かにこれは危ないかなぁ……」
拠点化作業が終わってしまったら、周辺に進出して開拓村にも被害が及ぶかもしれない。
開拓村にはリゼルさん達以外にも軽装猟兵の猟団が駐屯しているが、あの数で襲われては流石に太刀打ちできないだろう。
となれば、依頼通りここで壊滅させるしか無い。
「まぁ、REDに比べれば集団だけど楽な相手か」
『そうですよ、こんなに慎重に様子を伺わずにとっと突撃して撃ち倒してしまいましょう』
いやだから、何で今日はこんなに好戦的というか脳筋思考なんですかエイダさん。
◆◇◆◇
ゴブリンの集落への襲撃を決意した所で俺は武器を構築化する。構築化したのは銃身下にグレネードの付いたアサルトライフルだ。
グレネードの弾種に煙幕弾を選んで構築化すると、茂みの中から集落の中央、多くのゴブリンが集まる所に撃ち込んだ。
「ギギッ!?」
突然黒い煙幕が発生して戸惑うゴブリン達。煙に捲かれて苦しげな声を上げる者もいる。一発では集落全体を覆うことはできないが、注意を向けることはできた。
そんな中、煙幕の周りで呆けた様子で眺めるゴブリンに銃口を向け、狙いを付けて3点射。
「ギャゥッ!!」
狙ったゴブリンの眉間に穴が空き崩れ落ちる。黒い霧が立ち上り、仕留めたゴブリンの姿が消えていくのを横目に突っ立っている別の標的に向って射撃、射撃、射撃。ホロウィンドウ上の照準を次々と付けてゴブリンを始末していく。
「ギギッ!?」
煙に捲かれていたゴブリンが抜け出してくるが、それも撃ち倒す。
煙幕が晴れた所でようやくこちらに気付いた様だ。リーダー格だろうか?何人かのゴブリンが声を上げると、生き残っていたゴブリン達はバラック小屋の陰やテントの中、積み上げていた丸太の山等遮蔽物に身を隠し、俺の射線から逃れた。意外と賢いな。
とはいえ、遮蔽物に身を隠そうがこちらにはレーダーがあるから場所は丸わかりだ。
俺はジェットローラーを構築化して一気に集落内へと飛び込んだ。
まずは手近なバラック小屋の陰に身を隠したゴブリンを獲物に定め、奴らが逃げる間も無く小屋の陰に躍り出ると視界に入った端から射撃、射撃、射撃。
あっという間に撃ち倒すと次の獲物を見定め、強襲していく。
そのように集落内を暴れ回っていると、ビーッ!と警告音が鳴る。無意識にシールドを張ると、カンッと乾いた音を立てて後方から放たれてきた矢があらぬ方向に弾かれる。
いつの間に登ったのか、左後方にある最初に襲ったバラック小屋の屋根の上でゴブリンアーチャーが弓を構えていた。
「エイダ」
『了解』
俺の言葉にエイダは即座に反応し、バックパックに備えた2本の補助腕を展開。同時に補助腕の両手それぞれに、俺と同型のアサルトライフルを構築化すると、屋根の上のゴブリンアーチャーを撃ち倒す。その間、俺は正面のゴブリンを撃ち倒していた。
「うん、補助腕の動作も問題ないみたいだな」
『ええ、照準システムの同期も良好ですし、機体各所とも問題ありません。オールグリーンです』
補助腕はエイダの自己メンテだけの機能ではない。小火器が限度だがこうやって構築化した武器を使用する事もできる。
補助腕も使えば死角に居る敵にも攻撃を加えられるので、1人で複数を相手取る場合ではとても頼りになる。
これも、エイダのサポートがあればこそだ。
ゴブリンも隠れているばかりでなく、混乱から立ち直り、攻撃を受けている事を理解すると、こちらへ突撃してきたり、俺達を囲んで一斉に弓を放ってきたりと、数を頼んだ攻撃を仕掛けてくる。
とはいえ、殆どが碌に武器も持たずに突撃してくる奴らばかりだ。おっ?と思ったのも弓で囲まれた時くらいで、状況的には終治周りを囲まれた状態だ。
しかし、縦横無尽に動く補助腕を合わせた3門のアサルトライフルの火力はゴブリン達を問題なく蹴散らしていく。
そうやってゴブリンを撃ち倒しながら、同時並行で機体動作のチェックを行っていくが、心なしか機体の反応が以前より良い気がした。
『修理の際に、あてにならないパーツを全部取り替えたからでしょう』
「そっか」
口に出さなくても、相変わらず人の心を読んでくるAIである。まぁ、思い通り動かせるのは気持ちが良いので良いか。
そうやって、エイダと共に集落のゴブリンを撃ち倒していると、他のバラック小屋に比べて大きくしっかりした造りの小屋の前にゴブリンが集まっていた。
様子を見ると、今まで襲ってきていた連中と違って鎧と盾、クロスボウをしっかり装備した集団だ。俺達が暴れ回っている間に態勢を整えた奴らだろう。
俺は目の前のゴブリンの群れから目を離さずに、アサルトライフルのリリースボタンを押して弾倉を交換する。空になった弾倉は地面に落ちる前に光の粒子になって消えていき、その間に新しい弾倉を構築化して再装填。
補助腕の方は弾倉内に直接弾を構築化して補充する。こちらの方が無駄がないが、俺は何となく弾倉交換する方を気に入っている。
弾薬の再装填を終えのと、小屋前のゴブリンの集団が一斉にクロスボウを撃ってきたのは同時だった。
俺はクロスボウの矢を全てシールドで防ぎながら、アサルトライフルで応射。
補助腕のアサルトライフルも前方に向け合計3門のアサルトライフルが火を噴き、ゴブリンの集団と正面から撃ち合った。
「グギャッ!?」「ギャギャッ!」
俺とエイダの放った弾丸は、ゴブリンの装備する鎧と盾を容易く貫き、次々に撃ち倒していく。小屋の前で固まっていたため、まさに薙ぎ払うといった風だ。
逆にゴブリンの放ったクロスボウの矢は、俺が張るシールドに阻まれ、空しく弾かれていく。
武器の圧倒的な性能差がはっきりと出た結果だ。
「圧倒的じゃないか……」
ゴブリンの集団を撃ち倒しながら、俺はそう呟かずにいられない。それ程の差だった。
呟く間も、体は生き残ったゴブリンを狙って射撃を続け、補助腕もそれに倣う。ホロウィンドウ上のレティクルが踊り回る様は、目まぐるしすぎて目が回りそうだ。
踊り回るレティクルに目を奪われた一瞬、ふと疑問が浮かび上がった。
(……魔獣とはいえ、人間の子供くらいの身長の人型をした生き物を撃ち倒す事に躊躇いを覚えないのは何故だろう?)
REDはそもそも魔獣どころか怪物じみていた上に、生命の危険を感じていたのでそれどころじゃなかったが、こうして余裕のある状況で魔獣と戦闘する事になって初めて浮かんできた疑問だった。
(……そもそも、疑問に思わなかった事自体が疑問だ。少なくとも俺は、生き物をこんなに簡単に『殺して』しまう様な人間じゃなかった筈……だ)
そう考える間もゴブリンは撃ち倒されていく。
(……まるで、何か思考を弄られてしまったかのよう)
不意に、首筋がチクリと痛んだ気がした。その痛みに気を取られる間にゴブリンの集団は全て撃ち倒されており、目の前には無人の集落が1つ出来上がっていたのだった。
◆◇◆◇
『周囲の再索敵完了。どうやら全てのゴブリンを倒した様です』
「……」
『……冬真?』
「っ……ああ、ごめん。あんまり簡単だったからつい拍子抜けしちゃって」
『そうですね、しかし気は抜かないで下さい。ここのゴブリン達は少し妙でした』
「妙?」
『ええ、通常のゴブリンでしたらこの様に圧倒された場合、統率が取れず途中で逃げ散る筈なのですが……』
「そういえば、逃げる個体を見かけなかった様な」
『そうです、83匹全て逃げずに向かってきました』
「確かに妙といえば妙だけど、全滅させるに越した事ないんじゃない?」
『それはそうですが……」
そう語るエイダの口調はやけに物々しい。慎重に様子を伺わずに突っ込んで全滅させようと言っていたのが嘘のようだ。
俺は先程浮かんだ疑問を脇に追いやる事に意識を向けていたせいで、エイダの心配事まで意識が向わず、小屋の前に散らばった魔核を回収していく。
「それよりこの小屋、他のバラック小屋と違ってしっかりした造りだよな。倉庫かな?」
『……そうかもしれませんね』
最後に撃ち倒したゴブリンの集団はこの小屋を守る様だった。となれば、何か大事な物が仕舞われているかもしれない。
エイダが何か言いたげな様子だったが、俺は小屋の扉を開けた。バラック小屋は出入り口に布が掛けられているだけだったが、この小屋だけは木製だがきちんと扉がついている。
扉を開いて中に入った俺の目に入ってきたのは大きな四角い物体だった。
「……コンテナ?」
『その様ですね』
縦横3メートル四方の大きさのコンテナが小屋の中に置かれている。それはジンネさんの所にミラさんが届けてくれた魔騎兵用の資材の詰まったコンテナとよく似ていた。
「これを守っていたのか?」
『冬真、部屋の隅を見てください』
コンテナの中身を詳しく調べようとコンテナに近づいた所で、エイダから声が掛かる。
ホロウィンドウ上のレティクルが自動で動き、エイダが示したい物に円形のマーカーが付く。マーカーの付いた物に注目すると、マイクとヘッドホンが備え付けられている四角い箱だった。
「なんだろうこれ?」
『通信機ですね。冬真、急いでここを離れましょう』
「急にどうしたんだ?」
『通信機が使用された形跡があります。増援が来る前に一旦離脱すべきです』
「一旦離脱?ゴブリンが増援に来るなら返り討ちにすればいいじゃないか」
先ほどの脳筋なエイダさんとは思えない台詞だ。俺がそう答えると同時に、レーダー上に光点が1つ表示される。
しかし、その表示がおかしい。白点と赤点が交互に点滅しているのだ。
「なんだこれ?点滅してるけど、魔騎兵の反応なのか?」
白点は魔騎兵、赤は魔獣の反応を示すものだ。点滅しているという事はこちらに向かって来ているのは機体の故障でも起こしているのか?
『嫌な予感が当たった様ですね……。冬真、ここはゴブリンキングの支配する集落です。こちらに向かっているのは恐らくゴブリンナイト』
「ゴブリンナイト?」
『王を守護する上位種です。ここにいた一般兵とは能力が違います』
「能力が違うっていっても、一旦退却する必要があるくらい強いのか?」
エイダとやり取りしながら小屋から出る。
『ええ、強さもですが、それよりも厄介な能力を持っているので相手のレンジ外のうちに身を隠して不意打ちするのが良いでしょう』
ああ、やっぱり今日のエイダさんはブレてなかった。何故か安堵しながら、向かってくるゴブリンナイトと反対方向に集落から出ようとした所で点滅がいつの間にか集落のすぐ近くまで来ている事に気づいた。
『……不意打ちで仕留めたかったんですけどね。向かってくる速度からして予想はしていましたが、やはり間に合いそうにないですね』
「え、まだ間に合うだろ?確かに向かってくる速度は早いけど俺達が集落から抜ける時間くらい……」
『いいえ、もう相手の機体に補足されています』
「機体?」
小屋から少し離れた所で動きを止め、点滅が向かってくる方向を見やる。
『冬真、このまま迎え撃ちます。気をつけて下さい』
「解ったけど、何をそんなに警戒してるのか教えてくれ」
『相手の姿を見れば解ります』
何やらさっぱりだ。と言おうとした所で、ビーッと警戒音が鳴り、ゴブリンナイトが視界に入ってくる。フード付きのマントを羽織っているが、こちらに向かって疾走る速度でマントがはためくため、全身隠れているという訳でなくマントの下の相手を観察する事ができた。
身長は160くらいだろうか?一般兵よりは高いが、大柄という程ではない。
「なっ……!?」
確かに一般兵よりも体が大きい分、魔獣ならではの力の強さも考えれば油断できないだろうが……俺が驚いたのは、ゴブリンナイトがマントの下に見覚えのあるものを装着していたからだった。
「エイダ……姿を見れば解るってこういう事?」
『ええ、そうです。上位種のゴブリンは『人間の作った武器を使いこなします』。例えそれが魔騎兵だろうと、です』
そう、こちらに向かってくるゴブリンナイトは、魔騎兵を装着しているのだった。
「確かに……厄介な能力だ」
距離を置いて停止したゴブリンナイトの装着する魔騎兵のターレットレンズが回転する。それは俺のぼやきに応えるかのようだった。




