第21話
「はい、結構です」
アーシェさんの通信に俺は機体を停止させる。
「これでチェック項目は全て終り?」
「はい、お疲れ様でした」
俺は今ベルティスタの西、歓楽区にある闘技場に居る。
ギルド登録した日からは1週間経過している。途中、ジンネさん達の手伝いも受けてベルガを修復した俺は早速ギルドでベルガを登録するための機体チェックを受ける事にした。
機体チェックの担当もアーシェさんがする事になり、またもクリスさん監督の下ベルガの機体チェックを受ける事になり、闘技場で小1時間ほどチェック項目に従って、飛んだり跳ねたり走ったり、流石に踊りはしなかったが、無事に登録を終える事ができた。
「闘技場なんてあったんだねぇ」
「昔は魔騎兵同士の戦いを見世物にする興行があったみたいですよ。今もたまに興行があるみたいですね」
……スクラップ場の奥に事務所構えたマッチメーカーとか居るんだろうか。
闘技場は元々そういう目的に使われていたために、ギルドと歓楽区とで共同管理してこういった機体チェックや武装の試験等の魔騎兵を実際に動かす場として今も使っているらしい。
アーシェさんの説明になるほどなーと相槌を打ちながら頭部を解放する。パシュっと空気が抜ける音がして、左右頭部に3分割された頭部装甲が首後ろのバックパック上部に倒れた。
「ところで、これで依頼を受けられるようになったんだよね?」
「ええ」
アーシェさん、クリスさんと連れ立って格納庫に向いながら確認する。
「早速何か依頼を受けてみたいんだけど、駆け出し猟兵にもできる依頼って今あるかな?」
「あ、はい。お任せ下さい!ランクと装備に見合った依頼をご紹介させて頂きます!」
俺がそう言うとアーシェさんは嬉しそうに胸を張って答えた。うむ、眼福。
◆◇◆◇
「……小鬼の集落の壊滅ねぇ……これって本当にランクと装備に見合った依頼なんだろうか……」
ガタゴトと景色が流れていくのを横目に、俺はぼやきながら車を運転していた。向う先は依頼のあった開拓村だ。
車は居住兼整備コンテナの付いた軽貨物車で、ジンネさんの工房にあったものを借りている。AT車だったのが助かった、高校最後の春休みに免許取ったばかりの若葉マークでも何とか運転できた。
『ゴブリンの集落くらいなら大丈夫ですよ。アーシェの斡旋基準に問題はありません』
「そうかぁ?まぁ、ゴブリンって言えばファンタジーでも雑魚敵だけどさ……」
とはいえ、ファンタジーにも色々ある。綺麗な蝶に不意打ち開幕睡眠食らって全滅する事もあるので、ゴブリンと言っても油断はできないのではないだろうか。
『ゴブリン程度の魔獣だと、魔騎兵のシールドを破る様な魔吼は使えませんので、ベルガなら被害を受ける事はないでしょう。春樺達の様に極端に装甲を削ってなければゴブリン程度なら魔騎兵の敵ではありませんね』
ううむ、聞けば本当に雑魚っぽい。しかし、前提が魔騎兵、しかも今の基準でいうと全身型を装備している事を前提としているあたり、意外と脅威度は低くないのかもしれない。数で押されても大丈夫だろうから、Fランクでも全身装甲型を持っている俺に依頼が回されたという事だろう。
目的地である開拓村はベルティスタから車で約1日の距離だ。例のREDの居た荒野に近い所にあり、開拓村の警備依頼を受けていた軽装猟兵達が、村近くの森にゴブリンの群が向うのを見たらしい。
偵察をした所森の中に集落を作って住み着いており、今の所村を襲うような素振りは無く森へ入るのが制限されているくらいだ。
しかし、何時村が襲われるか解らず、かといって軽装猟兵のみで対処できる数でも無いらしい。
これだけ聞くと派遣された援軍がたった独りとか何の冗談だって感じだ。しかもこれでFランクの装甲猟兵が受けられる依頼というから難易度が何かおかしい。装甲猟兵と軽装猟兵の同ランク依頼の難易度差は物凄いのでこれでもおかしくないらしいが……Fランクという言葉の魔力のせいだろうか。それとも全身装甲型の戦力評価が高いのだろうか。
「まぁ……選定基準が装備とランクに見合ったかどうかだからなぁ、それだけベルガの戦力評価が高いという事か」
『そういう事です。私達の機体なのですからゴブリンの集落くらい朝飯前です』
そうでなければ猟兵登録したてのルーキーに紹介する依頼じゃないだろう。
しかし、エイダさん相変わらず自分の仕事に対して自信満々である。はっきりと虐殺宣言する補助AIってどうなんだろうなぁ……
とりあえず、アーシェさんの選定眼が間違っていない事を祈りながら俺は車の運転を続けるのだった。
◆◇◆◇
翌日の昼前に辿り着いた村は木製とはいえ塀と堀が備えられたしっかりした作りをしていた。魔獣避けの結界装置はあるらしいが、王都の様な出力の大きなものでないため開拓村はどこも外壁をしっかりと作るのだそうだ。
門のところでギルドカードを提示し、中に入れてもらう。そのまま村で1番大きな建物隣の格納庫に車を入れて降りると体を伸ばす。長時間の運転ですっかり体が凝ってしまっていてごりごり体が鳴った。
「君がギルドから派遣されてきた応援か?」
声のした方を見ると数人の男達が格納庫内を覗き込んでいる。この村に駐屯している軽装猟兵達だろう。返事をするとじろじろとこちらを無遠慮に見つめてくる。なんだか品定めされている様で居心地が悪い。
「あ、はい。そうです。貴方は?」
居心地が悪いのはとりあえず棚に上げて声を掛けて来た男に尋ねる。青い軽鎧を着た中年の男だ。声も落ち着いており貫禄を感じさせる。
「ああ、俺はリゼル。ここに駐屯している『踊る鈴団』の団長だ。到着早々で悪いが依頼の詳しい話をしたい。構わないか?」
「ええ、解りました。桐見冬真です、よろしくお願いします」
軽く自己紹介した後、車のキーは生活箱に仕舞い、エイダの身体を手に持ちリゼルさんに付いていく。
リゼルさんに連れられて格納庫隣の建物に入ると中は猟兵ギルドの出張所になっていた。
建物の中に入ると会議室へ連れて行かれた。中は机が1つとその向かいに椅子が数脚並べられており、机にはがっしりした体型の中年男性が座っていた。
何だかブリーフィングルームみたいな部屋だなぁと思っていると、リゼルさんがその男性に声を掛けた。
「王都からやってきた応援の魔騎兵乗りを案内してきました」
「ありがとう。リゼルも桐見君も座ってくれ」
中年男性から椅子を勧められ、俺とリゼルさんは中年男性の目の前の椅子に座ると中年男性の自己紹介と依頼についての話が始まった。
しかし、到着早々依頼の説明とは結構切羽詰っているのだろうか?まぁ、依頼の話はどの道聞きに行かないといけない訳だけど何かあったのだろうか。
「私はダグ=マッグル。この開拓村のまとめ役とギルド出張所の所長を兼任している。今回は我々の依頼を受けてくれて助かったよ」
というダグさんの自己紹介から始まった依頼の話は、詳しい事といってもアーシェさんから聞いた説明とほぼ変わらなかった。まぁ、依頼受けたの昨日だしそうそう状況は急変しないって事か。
唯一アーシェさんの説明と違っていたのはゴブリンが住み着いた場所を地図で教えてもらった事だった。ダグさんの後ろの壁に周辺地図が張られ、地図にはゴブリンの集落の場所に印がしてあった。見た所森の奥まった所にあるようだ。
早速、明日にでも討伐に向う事をダグさんに伝えると明らかにホッとした様子だった。
「そうしてくれると助かるよ。桐見君もこの村の先の荒野に居たREDが討伐された話は聞いているだろう?魔獣の群れの殲滅のため、軍がここを補給地点にすると通達があってね。周辺の安全確保を早急にしろと言われた矢先にゴブリンの集落だ。なかなか殲滅できる魔騎兵乗りが来なくて困ってたんだよ。本当に助かる」
なるほど、依頼の解決を急げと督促されている訳か……
中間管理職の悲哀を見事に体現したダグさんの台詞はかなり人情に来るものだった。うん、大元の原因として明日の討伐は頑張らねば。
明日の討伐にはリゼルさんの踊る鈴団も同行する事となり、リゼルさんと軽く打ち合わせる。同行してもらうのは森の入口までで、その後の討伐は俺が単独で討伐に出る事となった。
打ち合わせ後、ダグさんとリゼルさんと別れて出張所を出ると、その日は軽貨物車のコンテナに戻りベルガの整備をして明日に備えて過ごした。
◆◇◆◇
翌朝早く軽貨物車のコンテナ内で目を覚ますと、コンテナから出て身体を伸ばす。うん、いい天気だ。絶好の討伐日和だな。
食料箱から千夏さんが作って持たせてくれた朝食を取り出して食べるうちに目も覚めてきた。
朝食を腹に収めると再びコンテナに戻り、簡易ハンガーに吊り下げられているベルガの前に立つ。
中破した状態から修理したベルガの外見は修理前よりもスマートな外装に変化していた。以前は継ぎ接ぎでゴツゴツとして角ばった印象の外見だったが、補修資材のおかげで少々丸みを帯びつつも、元々のベルガの形状である流線型に外見を近付ける事ができた。
そして外見での大きな変化は色を統一した事である。元々色々な機体の装甲を継ぎ接ぎしていたせいで色がバラバラだったため、今回を機に再塗装を施した。
色は勿論緑である。量産型といえば緑以外ないだろうと緑と一部装甲ラインを白で塗り上げた。塗装中、「こいつの肩は赤く塗らねぇのかい?」という台詞が聞えた気がしたが多分幻聴だろう。危ない溶剤は使ってない筈なんだが。
後はバックパックに改造を施している。RED戦の様に接続が外れない様にバックパックの上半分を収納コンテナに改造し、動力源であるエイダを収納できるようにした上に補助腕を追加している。
コンテナ部分の装甲はREDの残骸を利用している。魔騎兵の装甲材以上の強度を持っていたためだ。
補助腕はエイダからの発案・設計で、エイダをセットしたままコンテナを開いた状態にすれば、端末の道具を使ってエイダ自身で整備できるようにしている。
まぁ、基本的に整備はエイダを使って自分でするのだが、補助腕で色々と用途が広がるのは確かだ。
新しくなったベルガを眺めながら、ふと思った事をエイダに尋ねてみる。
「なぁエイダ」
『なんでしょう?』
「考えてみればこのベルガってもう元の機体とは別物だよね?」
『確かに、外装内装共に原型機とは少々離れていますね』
2回修理という名の改修を行われたベルガは、近い外見をしているとはいえ、最早元の量産型とはかけ離れている。名づけるとしたらベルガ改・改だろうか。伝説巨神と戦えてしまいそうな改造具合だ。
「これはもう修理というというよりは改修。いや、新開発って言っていいような気がするんだけど」
『……修理です』
「初めて会った時に『修理はできても開発中のものを完成させる事はできない』って言ってたけど、これってもう新型開発しちゃってるよね?」
『……修理です、改修が必要なレベルの修理です』
「いやまぁ、修理を続けて別物になったとかよくあるけどさ……」
『ええ、ですから修理ですよ。それよりそろそろ出発しましょう』
全く頑固なAIである。俺がエイダをベルガの背部コンテナに収納すると、固定用アームが伸びガシャっと音を立ててエイダの身体が固定される。それと同時に装甲が自動で閉じた。
装甲が閉じられるのに連動してベルガの前面装甲が展開され、魔装兵を受け入れる体勢になる。
すっかり慣れた手順でベルガに乗り込むと装甲が閉じられ、周囲が真っ暗になる。
『起動シークエンスを開始します』
エイダの声と同時に機体各所が唸り声を上げ、周囲に光が灯っていく。ホロウィンドウが展開し、各種機体チェックの状況を伝えてくる。
『システムチェック……完了。問題なし』
エイダの報告に機体を固定していた簡易ハンガーが外れる。自由になった俺はターレットレンズの基部を上下左右に動かしレンズを回転させ切り替えがスムーズに行くか確認しつつ、軽く機体を動かして駆動確認を取る。チュィッと鳴る駆動音が小気味良い。問題ないようだ。
「よし、行こうかエイダ」
『はい、行きましょう冬真』
俺達はコンテナから出ると小鬼の討伐へと向うのだった。




