第20話
商会とギルドの用事を済ませて工房に戻ってくると、大きなコンテナが2つガレージ内に置かれていた。
俺達の帰宅に気付いて整備スペースで作業をしていたジンネさんがやってくる。
「春樺、さっきミラがやってきてそこのコンテナを置いていったぞ。依頼の追加報酬だと言っていたがどんな報告をしたんだ?」
「もう届いたのか。ゲンツは相変わらず仕事が速いな」
春樺さんがダイザック商会での顛末を説明するとジンネさんは成る程と頷いた。
何でも俺達が帰宅する少し前に、ゲンツさんと一緒に居た秘書のミラさんが届けてくれたらしい。
「あぁ、小僧の機体は派手にやられちまってるからなぁ……全身装甲型の修理依頼なんてなかなか無いから常に資材不足でどうしたもんかと思ってたから助かるな。しかし、資材調達に時間が掛かると思って先に春樺と千夏の機体を診てた所だったからどの道小僧の機体は後回しだな」
そういえば、この工房はジンネさん親子と秋穂さんだけで切り盛りしているんだった。従業員は居ないんだろうか。
『それなら問題ありませんよ。整備スペースを貸して頂ければベルガの修理は私と冬真で十分です』
手に持ったエイダがそう発言するとジンネさんは少し眉根を寄せる。
「お前さんが補助につくとはいえ、小僧に中破した魔騎兵の修理ができるのか?」
『あの機体は元々スクラップだったものを私と冬真で修復したものです。問題ありませんよ』
「そう言えばそうだったな……そういう事なら場所と工具は好きに使っていいぞ。あと、ついでにコンテナの中身を搬入しておいてくれると助かる」
そう言って元の整備スペースに戻っていくジンネさん。秋穂さんはジンネさんを手伝いに、春樺さん千夏さんは買出しに出ると言って再度出かけていく。
とりあえず俺はコンテナの中身を確認する事にしよう。
◆◇◆◇
『ベルガを修理するには十分みたいですね』
コンテナの中身を確認すると中には魔騎兵用の資材が満載されていた。スクラップを集めた時のパーツ数を考えると1機の魔騎兵を直すよりも多く資材が入っているようだった。
このくらい資材が入ってるコンテナが2つあるならベルガがもう1機組めるんじゃないだろうかと思いながら、もう1つのコンテナを開くと中身は武器が満載されていた。
機体と武器で1セットと思うとなるほどと思うが、同時にはて?と思う。
武器は構築化で作り出せるから、わざわざ用意しなくてもいいと思うんだけど……魔騎兵を装着していない時の護身用だろうか?
『構築化だけに武装を頼り切る事はあまりやりませんよ』
「え、そうなの?」
相変わらず人の心を読んでくるAIである。
『様々な武装に瞬時に換装できる構築化機能は有用ですが、構築化と作り出した武器の維持にも燃料を使いますからね。それならあらかじめ武器を装備してSCS内の燃料は弾薬として使った方が効率が良いんですよ』
「あぁ……なるほど」
それは確かにもっともだ。廃棄場にも壊れた銃器が沢山あったし。
エイダの説明によると今までは武器の修理まで手が回らず丸腰だったため構築化に頼っていたとの事。
300年前も基本装備となる武器を持っていって、戦況変化には構築化で臨機応変な対応をしていたらしい。
まぁ、ベルガは通常機と違ってH級の容量の大きいSCSに換装・増設してあるため構築化のみでも問題ないらしいが。
「それにしても刀剣類ばっかりだな……銃器がほとんど無い」
コンテナの中に積まれた武装は刀剣類ばかりだった。刀剣類といっても春樺さんが使ったような大剣もあればハンマーもあるし盾もあった。
そういう中世ファンタジーな刀剣類は大量にあるが銃器は逆に少ない。アサルトライフルらしきものが数丁と拳銃が数丁、それだけだった。
『こちらは私達でなく春樺達に宛てたものかもしれません。私達は構築化で必要な武器を作れますし』
「そうかもしれないな」
燃料節約のためにアサルトライフルくらい持っててもいいかもしれないが、現状構築化だけで問題ないしな。
とりあえず、ジンネさんに言われた通りコンテナの中身を搬入するとしよう。
◆◇◆◇
ジンネさんに搬入場所を聞いて、コンテナの中身を搬入しながらエイダとベルガの修理について相談し合う。とはいえ、ベルティスタに辿り着く4日の間に修理プランは出来ているので、搬入された補修資材を確認しながら修理に使うものとそうでないものを分けるくらいだ。
資材には重すぎて人の手では持てないものもあったが、エイダの反重力アンカーのおかげで楽々搬入できた。エイダを背負って資材を次々と分別していると一息ついた所でエイダが声を掛けてきた。
『ところで冬真、猟兵登録をしても良かったのですか?』
「ん?良かったのかって……どうして?」
『いえ、昨夜も言いましたけど生活するなら猟兵でなくても良いかと』
「あぁ……昨夜の話を聞いて俺も整備業で生活するのもいいかなと思ったんだけどね。でも、いずれはブゥアの地下施設の探索に戻らないといけないだろ?だったら猟兵として生活して腕を磨かないといけないと思ってさ」
『なるほど……』
「脱出する時は運良く魔獣を避けて脱出できたけど、探索のための侵入だとそうもいかないと思うんだ。それに猟兵のランクもあった方が許可も取りやすいと思うし」
まぁ、許可なんて関係なく探索に行ってもいいと思うけど、一度やってみたかったんだよね、冒険者みたいな生活。
俺の趣味にエイダを付き合わせてしまうのは申し訳ないが、腕を磨きたいというのも本当だ。何せ俺は何かと戦闘中転んでピンチになっている。
マッドトロルの時は魔吼の事を知らなかったとはいえ吹き飛ばされて転んだし、REDの魔吼の余波で吹き飛ばされて転んだし、REDの氷矢で凍った地面に滑って転んだし……
魔獣との戦闘はたった3戦だが、うち2戦で転がってる。RED戦に至っては2度も転んでいるので、転んだ総回数で確率を出せば100パーセントの確率で戦闘中転んでピンチに陥っているのだ。
魔騎兵の適性があっても、こんなうっかりが続く様なら先は無いと思うのだ。ここは1つ修行も兼ねて猟兵稼業を頑張って腕を磨こうと思う。
そんな風に内心決意しながら俺は分別作業を続けるのだった。
◆◇◆◇
その後もエイダと色々話をしながら分別作業を続けていると、秋穂さんがやってきた。
「……冬真、エイダ。夕食の準備が出来たから来て」
「え……もうそんな時間?」
外を見るとすっかり夕暮れになっていた。
分別作業もキリの良い所だったので、今日はここまでにして本格的な修理は明日からにしようとエイダと話して、背中からエイダを降ろす。工具類をエイダの中に仕舞っていると秋穂さんが「いいなぁ」と小さく呟いた。相変わらずエイダにぞっこんである。
ジンネさん親子も作業を終えている様だ。秋穂さんについて母屋のリビングに入るとそこには豪華な夕食が並んでいた。
昨夜の夕食よりも品数が多く、また一見して手間が掛かっていると思える料理が大テーブルに並んでいる。これがこちらの世界の一般的な夕食と言い切るにはちょっと豪華すぎる。
豪華な食事が並ぶ理由が解らず、リビングの入口でぽかんとしていると秋穂さんに袖を引かれ大テーブルの上座に座らされた。
「あの、これは一体?」
「今日は桐見さんの歓迎会なので、久々に思い切り腕を振るっちゃいました。自信作ばかりなので沢山食べてくださいね?」
私服にエプロンを付けた千夏さんがにこやかに声を掛けてくる。
歓迎会?確かにジンネさんにも一応認められて猟団の一員にはなれたと思うけど、こういう冒険者的な集団の歓迎会って何かしら仕事をやり遂げた時にやるもんじゃないだろうか?
もしくは正式に認められるような仕事や成果を出した時か、まぁこれもラノベとかからのイメージからだけど。荒野で俺の腕前は認めてくれたと思うがそれだけとも言えるし……ううむ、好意は素直に受け取っていいと昨夜エイダにも言われたけど、どうにも座りが悪い。
俺が悶々と悩んでいるうちにも歓迎会の準備は進んでいく。ジンネさんがむっつりと口をへの字にしている以外は凄く和やかな雰囲気だ。
俺としては段々と昨夜エイダの一言で晴れた鬱々とした気持ちが甦って来ている。苦い気持ちを思い出し、耐え切れなくなった俺は思いきって口を開いた。
「あの……っ、何でこんなに俺に良くしてくれるんですか?歓迎会は嬉しいですけど、正直俺はまだアウロラの一員になれたと胸を張って言える事を成し遂げていないと思うんです。荒野から色々と親切にしてくれたのには感謝してます。でも、俺はまだ何も返していません」
突然の俺の台詞に和やかな場の雰囲気が固まってしまう。俺も内心空気読んでない台詞だったかと後悔したが言ってしまったのは仕方ない。
暫くして春樺さんが「本当に、真面目なんだね」と溜息交じりに呟くと、こちらの目をじっと見つめてくる。思わずぐっと体を逸らしてしまいそうになるのを耐えると、彼女は口を開いてこんな事を言い始めた。
「桐見君。君は私達の父親の仇を討ってくれたんだよ。何も返していないなんてとんでもない。逆に私達の方が色々と返したいくらいさ」
思わず口を半開きにして固まってしまう。仇?そんなの何時討った?続いて千夏さんが口を開いた。
「桐見さんが神機で倒したRED。あれが私達の父親の仇です。正確に言えば仇という訳でも無いかもしれませんが……私達の拘りになっていたのは確かなんです」
あのREDが仇?春樺さん達の父親も猟兵だったと聞いたけど何かあったのか?秋穂さんが続く。
「……私達の仇を討ってくれた冬真にお礼をしたいというのは私達姉妹の共通の気持ち。だから気にせずに歓迎を受けて欲しい」
何だか急展開すぎてついていけない。俺は彼女達に詳しい説明を求めるのだった。
◆◇◆◇
「はぁ……なるほど、前回の魔獣の移動ですか」
彼女達の話をまとめると、REDが居たあの地域、10年前にも一度龍によってREDが滅ぼされ俺が倒したREDが群を率いてやってきたらしい。
龍は超常の存在であり。時折REDと争って滅ぼしていくらしい。一説にはREDが独占する魔石の魔素を食べるためとも言われているが、龍が魔石を独占する事は無く、また目撃自体稀である事からその生体は謎に包まれている。人が領土を広げたりできるのも龍がREDを滅ぼすからだそうだ。
10年前の時も、王国はこれ幸いと軍を派兵。同時に猟兵ギルドにも大規模討伐依頼が出される。これは上位猟兵は基本的に参加が義務付けられたものである。
春樺さん達の父親も装甲猟兵で、とても腕が良かったらしい。何と神機使いだったそうだ。
当然この大規模討伐依頼にも参加が義務付けられており、当時父親が率いていた猟団を連れて参加。しかしこの遠征は失敗する。
REDが強力だったのか、軍の指揮が失敗したのか、はたまた別の要因があったのか、とにかく魔獣の群れに敗北し、多くの犠牲者が出た。
春樺さん達の父親とその猟団も犠牲者の中に入っていたらしい。
ジンネさんが親代わりをしているのはそういう事情があったのだった。
「幼生体とはいえREDが率いる魔獣の群れに敗北するのはありえない事じゃない。父も覚悟して出動していったと思う。私達にも遺言めいた事を言い残していったよ。大丈夫だと思っていたが、結局父は帰ってこなかった……」
珍しく春樺さんの沈んだ声。千夏さんと秋穂さんも沈んだ顔をしている。良いお父さんだったんだろう。
「その後はジンネに後見してもらって私は猟兵になった。元々、父の猟団に入るつもりでいたしな。幸い父が私用に魔騎兵を残していてくれたし、適性も高かった様で千夏と秋穂の3人で暮らすくらいは稼げたよ」
「生活費はあいつが残してくれてたんだがな。一切手をつけやしねぇ。全く父親に似て変な所で頑固でいやがる」
ジンネさんの愚痴混じりの声に春樺さんは苦笑して妹2人の面倒を見てくれたじゃないかと答える。
「と、いう訳で猟兵は危険と隣り合わせの職だし、父が死んだのも仕方が無い状況だったのは理解している。けど、魔騎兵乗りとして腕を上げていくうちにあのREDがどうしても気になる様になってしまったんだ」
父親の死を理解はしているけど心の奥底では納得はしていないという事だろうか。
「別に父がREDに殺された証拠もない。けど、神機使いは強力な魔獣に対して優先的に充てられるから恐らくREDと父は戦ったんだと思う。そう思うとあのREDが仇の様に思えてきてね。A級猟兵になってゲンツからある依頼を出された時は2つ返事で受けてしまったよ」
「依頼ってあの武装の試験ですか?」
「そうだけどちょっと違うね。正確には父の神機を造り出す事さ」
「神機を造り出す!?」
「そうだよ。私が持っていた大剣はジンネが持っていた父の神機のデータを基に再現させようとしたものさ」
「元々、あいつが生きてた頃から少しずつ進めてた事だったがな。あいつが死んで中断していたんだが、ゲンツから製造のための資金提供とデータ収集の打診をされた時は、春樺のやつ儂に相談する前に決めやがってなぁ」
全く、娘共はいつも儂に相談なく勝手に決めやがると、ジンネさんが呟いてコップを煽る。
「後はまぁ、父の神機を再現した大剣であのREDを倒す事が目的の様になってしまった。その頃には千夏も秋穂も成長してて、仇討ちまがいの大剣の試験の手伝いをしてくれるようになったのは私も想定外だったけどな」
「お姉ちゃんがあのREDを仇だって思っているのすぐ解ったよ。私は小さかったけど父さんの事大好きだったもん。私だって父さんの仇を討ちたい気持ちはお姉ちゃんと同じだったんだから」
「……お父さんの事は良く覚えてないけど……優しくてあったかかったのは覚えてる。だから私も姉さん達と同じ気持ち」
2人の妹の言葉に春樺さんはありがとうと言うとこちらに向き直る。
「だからアウロラは私達3人で良かったんだ。父の仇を討つ猟団になってしまったから。けど、それを変えてくれたのは桐見君だよ」
「自分で仇を討ちたかった、というのは無いんですか?」
俺の言葉に三者三様に首を捻る。まず口を開いたのは千夏さんだった。
「私は……正直ほっとしてるかも。お姉ちゃんが1人でREDに挑むのを見送らなくて済むと思ったら何だか気が抜けちゃいました。確かにお父さんの仇を討ちたい気持ちはあったけど、お姉ちゃんも大事だから」
「……私も同じ。一度魔騎兵を壊しながら戻ってきた時は生きた心地がしなかった」
2人は仇討ち自体はしたかったけど、内心は春樺さんを心配していたという事の様だ。
「そうだな……確かに大剣を完成させて自分自身であのREDを倒したかったという気持ちは無い訳ではない。けれども、もう仇討ちの気持ちをぶつける相手が居なくなったと思うと妙にすっきりした気持ちなんだ。多分、桐見君が神機でREDを倒す所を見た時、解放されたと私自身思ったのだろう。だから、桐見君を猟団に誘ったし、冷凍睡眠から目覚めて知り合いもおらず今の時代に慣れない君の手伝いをしたいとも思っているのは本気だよ?」
そうして、3人は俺に向って改めて「ありがとう」と頭を下げてきた。ううん……親切にされる上に好感度高い気がする理由は解ったけど……
「ええと……それじゃあ、荒野で言ってた理由とジンネさんに対して言ってたカンっていうのは?」
「そう思っているのも本当だよ。だから理由として説明させてもらった。神機使いの腕の良い魔装兵はスカウトしておくべきだと思ってるし、人格も良い人だとカンが告げていた」
「最初から仇の事言ってくれればよかったのに……」
「それは私達の事情だからな。できれば伏せておきたかったんだよ」
春樺さんはそう言うと納得したかい?と尋ねてくる。
色々と、驚いた事ばかりだったが俺は頷いた。同時に鬱々とした気分も収まっている。何はともあれ理由がはっきりしたせいだろう。
それからは皆で豪華な夕食を楽しんだ。皆良く食べたし、良く話もした。今までの事これからの事色々だ。酒が入ったジンネさんに彼女達について釘を刺されたりもした。
色々と、この世界に来て張り詰めていた物が取り払われた気がする。その証拠に俺は、この時初めてこの世界に来て初めて心から笑える事が出来たのだった。
次回から猟兵を頑張るお話




