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第18話

 翌日、すっきりした気分で目覚めると春樺さん達と共に工房を出る。

 4人乗りの軽自動車に乗って移動する。ちなみに車両は大体発掘品かレストアしながら代々使い続けていくの2択になるとか。発掘品をコピーする事には成功しているらしいが、量産化できずに値段が張りすぎてなかなか購入できないとか。

 それでも街中で車を全く見ない訳ではないので、まぁそれなりの数が普及しているのだろう。馬車と車が混在している様子は産業革命からの過渡期の様な雰囲気で面白い。

 ちなみにこの軽自動車も発掘品をジンネさんがレストアしたもので結構長く使っているらしい。


 「ギルドはどこにあるんですか?」

 「東区の方だね。その前に寄る所があるからギルドに着くのはそこでの用事が終わってからになるが」

 

 助手席に座ってハンドルを握る春樺さんに尋ねると予定外の回答が帰ってきた。トレーラーを運転していた秋穂さんの件でも思ったけど、免許ってどうなってるんだろうか。


 「あれ?ギルドに顔を出すんじゃなかったんでしたっけ?」

 「その前に依頼主に報告しておかないと報酬が貰えないだろう?まぁ、依頼主の所もギルドも同じ東区だからそう変わらないさ」


 そう言って春樺さんは片目を瞑ってこちらを見る。運転中は前向いて下さい。


◆◇◆◇


 首都ベルティスタの内壁内の都市部分は東西南北それぞれ区画化されており、区画ごとで役割が違っている。北が工場区というように、西が歓楽区、南が宿場施設区、東が商業区といった区分けだ。

 区画化されていても食料品店は北区にもあるし、小さな個人ガレージになるが工房も西区に無い訳でもない。ギルドの出張所も各地区にあるので完全に区分けされている訳でもないようだ。


 そして春樺さん達の依頼主の商会は東区にあるダイザック商会という所だった。

 ベルティスタでも有力な商会であるらしく、辿り着いた商会本部は3階建てのビル作り。3階建てのビルは内壁の街中で一番高い部類に入る。

 オーク材の様な立派な扉を開いて中に入ると立派なエントランスと受付嬢が居た。春樺さんが受付嬢と話している間、少し離れてエントランスを見回すと入ってきたオーク材の扉が再度目に入る。

 良く見ると、元々は自動ドアだったのだろう扉の左右にレール跡があった。ガラス扉が壊れて自動ドア機構も破損してしまい、木製扉を取り付けたという事だろうか。

 そんな風に想像していると、アポイントの確認が終わったのか千夏さんが俺を呼びに来たので後についていく。


 階段を昇り3階の応接室に通されると俺達はソファに座った。応接室も立派なもので調度品は派手すぎず地味すぎず、調和の取れた配置がされており素人目にも良いセンスだなと思わせるものがあった。報告相手は暫くしたら来るそうなのでそれまで待つことになるらしい。

 俺は春樺さんの隣に座らせられたので気になった事を聞いてみる事にした。


 「依頼完了の報告はギルドに報告すればそれで良いのだと思ってました」

 「今回は指名依頼だからな。ギルドを通した依頼とはいえ指名依頼の報告は依頼主に直接する事になってるんだよ」


 などと会話をしていると、まもなくして扉がノックされて男女2人組みが入室してくる。

 男の方は20代後半くらいだろうか?黒髪を無造作に伸ばして魔装兵ライダーのインナースーツをイメージさせる服を着ている。

 女性の方は綺麗な短めに切った金髪にヘアバンドをしている。何故かヘアバンドから後頭部の髪が逆上がっている様に見えるのはこちらのファッションなんだろうか。スーツをきっちり着こなしていかにもできる女性って感じの人だった。


 「よっ、春樺。今回もきっちり仕事をこなしてくれたみたいだな」


 男の方が気安い様子で春樺さんに声を掛けてくる。 


 「今回は助っ人も居たからな。楽なものだったよ」


 春樺さんも気安い様子で答えながら秋穂さんが取り出した受け取ったデータディスクを男に渡す。男はそれを女性に渡すと女性が端末を取り出して中身を確認し始めた。


 「助っ人というと、そこの彼かい?」


 男がこちらを見る。春樺さんを見る時と比べて目つきが鋭く、俺を警戒したような雰囲気なのは気のせいだろうか?


 「ああ、ウチの新入りだ。桐見冬真君と言う」


 俺の肩を叩いて春樺さんが紹介するので、俺は頭を下げた。


 「へぇ……男の団員を入れるなんてどういう心境の変化だい?」

 「腕の立ついい男が居れば私だって宗旨替えする事もあるさ」


 何というか春樺さんからの評価がベタ褒めである。ちょっと照れくさい。


 「春樺にそこまで言わせるとはよほどの腕を持ってるんだろうね」

 「あぁ、REDと戦える程度には腕が良いよ」

 「なるほど……しかし、REDと戦える魔装兵ライダーにしては見ない顔だけど……」

 「冷凍睡眠者スリーパーだからな。荒野で彷徨ってる所で出会ったんだ」


 春樺さんがそういうと、男は目を見開いた。


 「冷凍睡眠者スリーパー……そりゃまた珍しいね」

 「あぁ、だからあんたが心配するようなスパイなんかじゃないさ」


 そう言うと、「私達も最初は疑っていたけどな」とニヤリと笑う春樺さん。それを聞くと大きく溜息をついて頭を掻きながら「俺も社長業に毒されちゃったかねぇ」と呟くと頭を上げて俺の方に向き直る。


 「桐見冬真君、疑ってすまなかった。俺はゲンツ=ダイザック。このダイザック商会の代表って事になってる」

 「代表っていうと……社長って事ですか?」

 「まぁ……社長って柄じゃないのは俺自身もそう思うけどな。まぁ、優秀な部下に助けられて何とかやってるよ」


 そう言いながら握手を求めてきたので返すと、データチェックをしていた女性が声を掛けてくる。ゲンツさんが社長ならこの人は社長秘書って所だろうか?


 「ゲンツ、試験項目は全てこなされているみたいだ。データ整理の不備も見当たらない」

 「そっか。それならいつも通り工房に回しておいてくれ」

 「ああ、解った」


 短いやり取りの後秘書の女性が部屋を出ていく。


 「さて、それじゃあ報酬はいつも通りギルドを通して支払う事でいいか?」

 「あぁ、それは構わないんだが、報酬に魔騎兵ペイルライダー用の補修資材を追加してくれないか?」

 

 春樺さんの言葉にゲンツさんの眉がぴくりとあがる。


 「補修資材が欲しいとは珍しいな」

 「何、RED戦で桐見君の魔騎兵ペイルライダーが損傷してしまってね。機体はベルガを修復した全身装甲型なんだが流石にジンネの所にも全身装甲型の在庫が無いんだ。ここは全身装甲型の魔騎兵ペイルライダーの取扱いもあるだろう?」

 「発掘品を使えるようにする程度の取扱いだけどね。そういう事なら手配をするが報酬はその分天引きさせてもらうぞ?」

 「手厳しいな。そこはいつも難題をこなしてくれる猟団に対するボーナスって訳にはいかないかい?」


 春樺さんとゲンツさんの視線が交わり緊張した雰囲気が流れていく。しかし、どこかそれを楽しんでいるかの様にも見えた。


 「難題をこなしてくれるのは感謝してるよ、だけど報酬については依頼の際に取り決めておいたものだ。それをそうそう変える事はできないな。まぁ、依頼した以上の成果があるなら取り決め以上の報酬を出してもいいが」


 その台詞を聞いて春樺さんの目がきらりと光る。


 「依頼した以上の成果があればいいんだな?」

 「あぁ、でも今回の依頼は決められた項目で武装の使用データを取ってくるものだから依頼した以上の成果なんてないだろう?」

 「それなら、桐見君が神機でREDを倒したという成果はどうだろうか?」


 春樺さんの放った言葉にゲンツさんの目が見開かれる。暫く硬直していたが、驚きから覚めると硬い表情でこちらを見つめてくる。


 「……本当か?」

 「ああ、本当だ。これを見て信じられなかったら素材化したREDの残骸を持ち帰ってきている。ジンネの所に置いてあるから確認に来ればいい」

 

 と、別のデータディスクを秋穂さんから受け取りテーブルの上に置く春樺さん。それをゲンツさんがまじまじと見つめる。

 そういえば、普通の魔獣は倒してもマッドトロルの角の様に魔核を残して消えるだけなのだが、高位の魔獣はその体の一部が残る事があるらしく、これを素材化というんだっけ。

 そんな事が頭をよぎっている間、ゲンツさんの顔が真剣な物になっていた。


 「……あの地域のREDが居ないという事を知っているのは?」

 「私たちだけだろうな。一応、追跡がない事は確認しているが絶対に無いとは言い切れないけどね」

 「解った。補修資材は後でジンネの所に届けさせよう。それと別に追加の報酬もギルドで受け取ってくれ」

 「いや、追加の報酬は要らない。その代わりギルドに報告する際に情報源が私達だという事を隠してくれないか?」

 「理由は?」

 「桐見君が神機使いだと言う事で十分だろう?」

 「それもそうか……解った。上手く誤魔化しておくよ」


 何だかんだでベルガの修理材料をタダで手に入れたみたいだけど……流れがさっぱり解らない。俺が神機でREDを倒した事ってそんなに凄い情報なんだろうか……?

 そう思っていると、それが顔に出ていたのか春樺さんが「後で理由を説明してあげるよ」と耳打ちしてくる。耳打ちはいいんですが、吐息を掛けないで下さい。


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