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第16話

 王都ベルティスタ。ベルティスタ王国の首都であり、国号と同じ名前が付けられている。

 300年前の大破壊の際にRED率いる魔獣を撃退する事に成功した数少ない都市であり、他の主な都市が陥落して残った都市の中で1番規模の大きいこの都市が王国の首都となったのは必然的な事であった。

 大破壊前はメルトキア共和国の1都市であり肥沃な土地による食糧生産をメインに発展。既に滅んでいるルドゥと並んでメルトキア共和国の2大都市呼ばれるほどの規模の街であった。

 しかし、大破壊によりメルトキア共和国は瓦解。大破壊を切り抜けた後は、都市防衛の際に活躍したヤマトの民、リュウゾウ=ワタミネを王として王政に移行。ベルティスタ王国の首都となる。

 豊富な食料と大破壊を乗り切った武力を背景に周辺を併呑。大破壊後に残った周辺各国と比べ頭1つ抜き出た国力を持つ豊かな国である。

 

 春樺さんから猟団の勧誘を受けた日から4日、俺達は王都ベルティスタに到着していた。

 猟団の勧誘については受ける事にした。あそこで断っていたらこうしてベルティスタに辿り着いていなかっただろうし、選択肢は無かったかもしれないが運は良かったと思う。

 銃座に座って魔獣対策の高い塀を見上げながら、秋穂さんから聞いたベルティスタの成り立ちを思い出していると入城手続きが終わったのか春樺さんから銃座から中に降りる様に言われる。降りて助手席に座るとトレーラーが動き出す。入口となる大門をくぐるとそこは首都周辺と似た田園風景が続いていた。


 「壁の中にも畑があるんですね、てっきり畑なんかは街の外だけだと思ってました」

 「うん、最外壁内は北部以外は全部畑だよ。ここら辺で住んでいるのは土地持ちの農家だ」

 「街の周辺にも畑と民家がありましたけど危なくないですか?」

 「外に住んでいるのは開拓民か最外壁内の農家の小作奴隷だな。首都近郊は定期的に討伐隊が組まれて魔獣駆除を行っているし、猟兵の依頼にも首都近郊の魔獣駆除は常設されてて安全は確保されているな。まぁ、魔獣の被害が全く無いという訳じゃないが」

 「へぇ……だから首都に近づくにつれて魔獣の遭遇が少なくなっていたんですね」

 「農産物の輸出はこの国の主要産業のひとつだからな、作物を守るのも立派な仕事なのさ」


 そんな会話をしながら田園風景を進む。良く見てみるとトラクターの様なものに乗ってる人もいれば鍬で耕している人もおり、中には牛を使って耕している人も居た。作業方法がピンキリなのは大破壊による影響なのだろうか。

 首都ベルティスタは3重壁構造になっており、最外壁から中央壁まで工場地帯である北部以外は全て田畑や牧場となっており篭城した際にも食糧に困らない様にしているらしい。

 

 「さて、見えてきたぞ。あれが中央壁だ」


 荷台に大剣を抱えた傭兵風の男を乗せたピックアップトラックや、馬車に乗る魔騎兵ペイルライダー、ファンタジー世界に居そうな全身鎧の集団等とすれ違いながら田園風景の中を1時間ほどかけてゆっくり進むと次の門に到着した。春樺さんが門番と手続きをしている間に門と壁をぼんやりみていると、こちらの壁と門の方が頑丈そうに見えた。

 最外壁は煉瓦っぽいというか、中世にありそうな石壁の様なものだったのに対して中央壁は一面滑べらかな壁となっている。開いている門も左右にスライドして開く形で左右の門の接合面には機械によるロック機構が見えた。

 (この壁と門って大破壊前のものなのかなぁ……)

 そんな事を考えていると、トレーラーが動き出した。手続きが終わったらしい。


◆◇◆◇

 

 門をくぐると中は都市が広がっていた。

 最外壁の道は舗装されていなかったが、中央部の道は舗装され建物も多い。只、コンクリ造りの2階建ての建物があったかと思えばその隣に煉瓦造りの平屋の建物があったり、造り自体がちぐはぐだ。

 1番の違和感は都市の更に奥の最内壁の向こうにある行政や官庁の集中する最奥部だ。3~5階の中層ビルが多くここからでも見えるが、中央にあるのが城だった。

 日本にあるような現代ビルの真ん中に中世ファンタジーでありそうな大きな城が鎮座しており、違和感が物凄い。

 人通りは多く、まさに首都といったところなのだが、中世と近代をごっちゃにした建物群の違和感がそれを上回っていた。


 「あの……春樺さん?造り自体が違う建物が多いのは何でなんでしょう?」

 「ん?あぁ、煉瓦なんかで建てられてるのは大破壊の後に作られたやつだ。何でも大破壊前の建物の作り方が解らなくなったとか言われているな」

 「なるほど……」

 「……大破壊の際に色々な技術が逸失した。この街も大破壊を乗り越えたと言っても無傷じゃない」

 「うおっ、秋穂さん何時の間に」

 「……勿論、貴方の気付かぬ間に」

 コンテナの居住スペースに千夏さんと一緒に居たはずの秋穂さんがエイダを抱えて突然運転席内に出現していた。トレーラーの運転席は運転手含めて3人は座れるスペースがあるが、何故か俺の膝上に乗ってくる。

 「え、ちょ……何故に膝上?」

 「……千夏姉さんが座れない」

 「桐見さん、隣失礼しますねー」

 と、千夏さんも出現してドア側に座っていた俺の右隣、春樺さんと俺の間に座る。急に人口密度が上がって俺が更に狼狽していると運転している春樺さんは何かにやにやしていた。

 (何だ……一体何が起きている……?)

 3人座れるスペースがあるといっても運転席は狭い。3人並ぶと特に助手席側は結構密着してしまう訳で……何かさっきから右腕に柔らかいものが当たってるのは気にしちゃ駄目な気がする。秋穂さんが膝上に乗っている今の状況なら尚更に。

 

 「ふ……2人ともコンテナに居たんじゃ?」

 「街に着いたみたいですから、桐見さんに色々紹介しようと思いまして」

 「……春樺姉さんは運転中だからあんまり話しかけて邪魔したら駄目」

 「そうだな、街中は人が多いから集中しないといけないな。桐見君とのお喋りは楽しかったがジンネの所に着くまで2人が相手をしていてくれるか?」

 「任せて。お姉ちゃん」

 「……うん、わかった」


 何だろう……春樺さんの運転の邪魔したらいけないとか、言っている事は真っ当な事だけど、何というかこうするための理由っぽく聞えた気がするのは気のせいだろうか?俺が自惚れているだけ?

 何故かスキンシップ過剰な姉妹に顔を赤くしながらトレーラーは街中を進んでいく。中世と現代がごちゃまぜになった街並みは興味深いけど2人が教えてくれた街の事はあんまり頭に入らなかったのだった。


◆◇◆◇

 

 心拍数が危ない事になりながらトレーラーは街中を進み続ける。街中は制限速度が低いのか進みはゆっくりしたものだったが、段々街中の景色が変わってくる。

 住居や商店が減って工房が立ち並ぶ様になり、道行く人も魔騎兵ペイルライダーを装着した者や武器を抱えた者が増え、すれ違う車両や馬車には部品や材料が積まれており、工房の軒先には武器防具が並んでいる。

 また、どの工房も機械音が鳴り響いており入口を通り過ぎざまに見ると、奥で火花が散っていた。


 「ここが北部の工場地帯ですか?」

 「そうですよ、ベルティスタの猟兵が使う武器防具は全てここで作られているんですよ」

 「……ここに来ると落ち着く」

 『なかなか活気がありますね。懐かしい建物もちらほら見えますが……』

 「大破壊を切り抜けた工房もありますからね」

 「へぇ……300年前から続く工房か、凄いな」

 「……師匠の所の方が凄い」

 「師匠って今向っている所?」

 「そうですよ、ジンネさんって言って凄腕の技師なんですよ」

 「……師匠の腕前はベルティスタで一番。古いだけの所とは違う」

 随分師匠とやらを尊敬しているようだ。あまり表情の変わらない秋穂さんが珍しくムキになっている。大破壊前から続いている工房と何かあるんだろうか。

 

 物珍しく周りを見ているとやがて1軒の工房の前でトレーラーが止まる。工場地帯から少し離れた場所に建っており、大きなガレージとその横に一軒家が建っている。

 工房周りは金網で囲まれており、門の所には金属片を加工して「ジンネ=ベロア工房」と掘られた看板がぶら下がっていた。


 「さて、到着したぞ。皆、長旅ご苦労だったな」

 「お姉ちゃんこそお疲れ様。今回も無事に帰ってこれて良かったぁ」

 「……今回は特に面白いデータが取れて私も満足」

 「あぁ、桐見君のおかげだな」


 トレーラーを降りて3姉妹の会話を聞きながらガレージを見回していると、一軒家のある方の壁面の扉が開いてツナギを着たいかつい髭面のおっさんと、同じくツナギを着た春樺さんと同じ年くらいの女性がやってきた。


 「おう春樺、千夏、秋穂。戻ったか。早かったな」

 「おかえり、皆」

 

 3姉妹は2人の所に行ってめいめい帰還報告をする。その様子を見ていると女性の方と目が合った。


 「あれ?君は……春樺が連れて来たお客さん?」

 「ん?仕事を持ってきてくれるなんて気が利くじゃねぇか春樺」

 「いえ、お客とかじゃなくて……」

 「そうそう。客じゃなくてウチの新しい団員だよ、ジンネ」

 「なにぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


 ジンネと言われた髭面のおっさんが大声で驚きの声をあげ、物凄い勢いで近づいてきて俺の両肩を鷲掴んで俺を睨んでくる。熊みたいな大柄な身体をしている上に髭面が強面で物凄く怖い。


 「確か猟団員は増やさないんじゃなかったんだっけ?」

 女性の方はジンネさんと対称的に冷静に春樺さんに問いかけている。

 「別に絶対に猟団員を増やさないとは言ってないさ。いい人材が居ればスカウトするのは猟団の常識だろう?」

 「それはそうだけど、まさか男を連れて来るとはアタシも予想外だったよ」

 「そうだぞ春樺!こんなどこの馬の骨とも解らん奴をスカウトなんて何を考えているんだ!」


 ジンネさんのテンションが高い。何だか彼氏を連れて来た娘に対する父親の様だ。まぁ、馬の骨なのは確かだよなぁ……


 「馬の骨云々はともかく腕は確かだぞ。私と一緒にREDと戦えるくらいだ」

 「ほう……?」

 肩を掴んだままのジンネさんの目が細められる。

 「REDと戦って戻ってこられる魔装兵ライダーはベルティスタでも一握りだがこんな小僧が?」

 「それならREDを倒した桐見君はベルティスタで唯一の存在だな」

 「……なに!?」

 ジンネさんが顔を寄せてくる。近い!近い!

 「しかも神機を構築して一撃だ」

 「なんだとっ!?」

 掴まれた肩に指が食い込む。痛い!痛い!

 「それは……本当か?」

 俺の肩を掴んだまま物凄く真剣な目で尋ねてくる。

 「ええと、よく覚えてないけど、俺が倒したらしい……です」

 「煮え切らない返事だな」

 「無我夢中で、その時の事は覚えていないんですよ」

 「春樺?」

 「本当だよ。神機を構築して倒した後、気絶したんだ」

 「……戦闘データはちゃんと取ってある。本当」

 「こいつは神機使いなのか?」

 「そうですよ、桐見さんの神機すごいんです!」

 「証拠にREDの残骸を一部持ってきているし、私達の証言じゃ不満かい?」

 

 春樺さん達がそう言うとジンネさんは大きく溜息をついて俺の肩を手放した。

 「まぁ……そこまで言うならこの小僧が春樺に匹敵する腕前の魔装兵ライダーだっていうのは納得したが……それだけで猟団にまで入れるのか?確かにREDを倒す程の神機使いなんて希少すぎるだろうけどよ……」

 「理由といったらそうだな……私のカンとしか言いようがないな」

 春樺さんの言葉に、女性の方が尋ねてくる。

 「それって、どっちのカンだい?」

 「勿論、良い方に当たるカンさ」

 「ふぅん……なぁ師匠マスター、春樺がこう言ってるんだ。大丈夫なんじゃないかな?春樺の良い方に当たるカンについては師匠マスターも良く知ってるでしょ?」

 「師匠マスターはよせと言ってるだろう……全く、娘共はいつも儂に相談なく勝手に決めやがる」

 頭を掻いて溜息をつくジンネさん。まるっきり娘を心配する父親の様だけど、春樺さん達の父親なんだろうか?それにしては春樺さん達の態度は親娘っぽくないなぁ。

 「千夏と秋穂もいいのか?」

 俺を顎でしゃくりながら、千夏さんと秋穂さんにも尋ねている。

 「うん、お姉ちゃんの人を見抜く勘が外れた事無いから大丈夫。それに、私も桐見さんは良い人だと思うよ」

 「……エイダの持ち主だし悪い人じゃないよ」

 2人がそう答えると、ジンネさんは先ほどより深い溜息をついて俺の方に向き直る。

 「春樺達がああ言ってるからまぁ大丈夫だと思うが……変な真似をしたらわかってるな?」

 言外にウチの娘達に手を出したら殺すと言われてこくこくと頷く。

 「まぁ、正直アタシは恋する乙女モードの春樺を一度見てみたいんだけどねー」

 「マリアっ!」


 言い合う2人を横目に春樺さん達がこちらにやってくる。

 「ジンネにも認められた様だし、これで桐見君も正式に私達の猟団の一員だな」

 「ジンネさんもアウロラの団員なんですか?」

 「いや、団員じゃないがジンネと私達の父親が親友同士でな。昔から世話になってるし父親が死んだ後も色々と支援してくれてるんだ。アウロラの拠点としてここを使わせてくれてるし、機体整備も格安で引き受けてくれている。まぁ、アウロラのスポンサーみたいなものかな」

 「ジンネさんはお父さんとの約束だからって言ってるんですけど、だからってここまでしてくれる人はなかなか居ませんよね」

 「……私に整備も教えてくれてる」

 「そうなんですか……あの、マリアって言われた人は?」

 「マリアはジンネの娘だ。私達とは幼馴染でな、ジンネを手伝ってここの技師をやっている」

 「……私の姉弟子。マリア姉さんも凄く腕がいい」

 なるほどなー……道理で娘を心配する父親みたいな態度を取ってる訳だ。ともあれ、完全に納得してないだろうけど、ジンネさんに認められた俺は正式に猟団「アウロラ」の一員となったのだった。


主人公、今回ちょっと良い目を見ることができました。

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