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第15話

 日はすっかり暮れて辺りは何も見えない真っ暗闇の中、俺たちの居る場所だけが明りに照らされている。鍋を煮ている炎の照り返しを受けながら春樺さんはREDとの戦闘について語り始めた。


 「まず、私達がREDが縄張りとしているあの地域に居た理由だが、武装のテストのためだ」

 「武装のテストって、あの大剣の事ですか?」

 「ああ、桐見君も体験した通りREDは凄まじく強力なシールドを張り、魔法と魔吼を駆使し、あの巨体を生かした攻撃もしてくる文字通りの化物だ」

 「確かに、凄く硬いシールドでした」

 『ミサイルの直撃も効かず、対物ライフルでようやく小さな傷をつけられる程度でしたからね。余程の威力を持った武装でないと足留めすら難しいかもしれません』

 「あぁ、そうだ。実際300年前の大破壊はREDが発生したために起こったといっていい」

 「大破壊?」

 「……大破壊というのは300年前に起こったとされる魔獣の大侵攻の事。REDを中心に大量発生した魔獣が攻めて来ていくつもの国が滅んだ。魔獣との争いはずっと続いてたけど、ここまで大きな侵攻は記録に無い。今でも魔獣の領域の方が広くてなかなか取り戻せない状況が続いてる」

 『そうですか……あの頃は魔獣の発生が多くなってきているくらいしか知らされていなかったのですが、あの後そんな事が……』

 「エイダ……」

 エイダの湿った声に場に沈黙が降りる。


 『すみません、続けて下さい』

 「あぁ……そういう訳で魔獣に対抗するための武器は日々開発されている訳なんだが、特に大破壊を引き起こす切っ掛けとなったREDに対抗するための武器の開発は力が入れられていてな、私達みたいな猟団が依頼を受けて実戦テストをする事もあるんだ」

 「勿論、今回みたいな危険な依頼ばかりじゃないんですよ?普段は街道や街周辺の魔獣掃討とか、魔獣の巣の排除とか、桐見さんみたいに昔の施設からエイダさんみたいな遺物アーティファクトを探して探検したりとか色々な依頼を受けているんですよ?」

 どうやら猟団というのはファンタジー世界によくある冒険者システムと似たようなものみたいだと見当をつける。でも魔獣の巣の排除とか十分危険な依頼な気がするけど、これがこっちの世界の一般的な猟団の常識なんだろうか?

 「なるほど……大剣のテストをしている所に俺達が近寄ってしまったのですね」

 「あぁ、まだ試作品だがな。武装テストについては商会から機密扱いの指名依頼だったから私達の居場所を知っている人間は依頼主の商会関係者か世話になってる工房くらいなものだろう。つまりそれ以外の人間となると……」

 「そういえば、ドーラ社のスパイかとか言ってましたよね。もしかして依頼主の商会と競っている?」

 「その通りだ、理解が早いな。依頼の内容に武装情報の秘匿があったためにああいう厳しい態度になってしまったんだ、すまなかった」

 

 ライバル会社のスパイと思われてたのか。そりゃ確かに警戒もするよなぁ……異世界だし機密情報の漏洩とか文字通り首が飛ぶんじゃないだろうか。偶然とはいえ色々間が悪かったとしか言いようが無い。

 「ええと、俺達が疑われた理由は解りました。今は俺達がどこの所属でない事を解ってくれているんですよね?」

 正直また春樺さんに睨まれるのは勘弁してもらいたい。新しい扉が開くどころじゃなくなってしまう。

 「あぁ、秋穂も桐見君がどこかにデータを送っていた形跡は無いと言っているし、追跡者が居る様子も無い。後はエイダの証言と桐見君の戦闘時の姿勢を見れば桐見君の言い分は信じられる」

 「えーと、自分で言うのも何ですけど……いいんですか?信頼されるための演技かもしれませんよ?」

 「その時は簡単な事だよ。幸いここらはまだ魔獣の領域だから処分も楽だしな」

 そう言うと春樺さんはナイフの様な鋭い目を向けて来た。思わず青くなって震え上がってしまうと、一転して笑いかけてきた。

 「冗談だよ。本当に演技だったらそんな事をわざわざ言う筈が無いだろう?桐見君は結構お人よしなんだな。今の時代君のような子はなかなか居ないよ」

 その笑顔は何だか恰好良い笑顔で、正直落差が激しくて反応に困ってしまう。どう返したものかと思っていると不意にお腹が鳴ってしまい、顔が赤くなってしまう。

 「食事の前に長々と話し込んでしまったな。続きは食べてからにしようか」

 「沢山作ったので、桐見さんも遠慮せずに食べてくださいね」  

 「……千夏姉さんの料理はおいしいよ」

 「じゃあ、ご馳走になります」


◆◇◆◇


 千夏さんの料理は凄く美味かった。シチューの様なものと保存が効きそうな硬いパンだったが、目覚めてからずっとカ○リーメイトのような非常食しか食べていなかったので、何週間かぶりの手料理かつ暖かい食べ物はご馳走すぎた。

 空腹は最高の調味料ってアフロヘアーのカウボーイが言ってたけど、それ抜きでも美味い。

 「沢山あるから」の言葉に甘えて居候は3杯目はそっと出す掟を忘れついつい食べ過ぎてしまった。


 「見ていて気持ち良いくらいの良い食べっぷりだったな」

 「作った甲斐がありましたねー」

 「……悲惨な食生活を送っていた?」

 「すいません、美味しかったものですからつい……」

 3姉妹のコメントに我に返り小さくなってしまう。

 「いいんですよ、お姉ちゃんだって沢山食べますし作る方としては美味しく食べてくれるのは嬉しいです」

 「食べるのは猟兵イェーガーの基本だからな。千夏も猟兵なんだからもっと食べるといい」

 「私はお姉ちゃんみたいに戦えないからこのくらいでいいんです。それに食べて貰う方が楽しいですしね」 

 「……やっぱり沢山食べないと駄目なのかな」

 秋穂さんが自分の胸に触れて小さく呟くのが聞えた。ちなみに千夏さんが一番大きかったりする。


 暫く3姉妹の仲の良い会話が続く。ちびちびとコーヒーに似たお茶を飲みながら姉妹の会話を眺めていると矛先がこちらに向けられてきた。


 「……コホン。私達だけで会話をしてしまってすまなかった」

 「いえ、仲が良いんですね」

 「まぁな、3人で協力しているからこそ何とかやれている」

 「お姉ちゃんが凄いから3人でも猟団がやれているんだよ?」

 「まぁ、私達の事はともかく桐見君、今度は君達について教えてくれ。こんなREDの領域近くを単独で移動なんて危険すぎると思うがどこに向うつもりだったんだ?冷凍睡眠者スリーパーだったという事だが、どこで目覚めたんだ?」

 千夏さんの台詞に少し赤くなってコホンと前置きしてから春樺さんが俺達の事を尋ねて来た。

 「どこかと言われれば……とにかく人の居る街に向うつもりでした。目が覚めた都市は廃墟になっていましたし、エイダが持っていた地図を頼りに移動していたんです」

 「ふむ……この辺りに街なんてあったかな?秋穂?」

 「……この周辺地域には村もなかった筈。開拓村が出来たという情報も無い」

 「ルドゥという街に向っていたのですが、もしかして……?」

 俺の言葉に秋穂さんが個人端末らしきものを操作してこくりと頷く。

 「……ルドゥ一帯は300年前の大破壊の際に滅んでいる」

 「そうでしたか……」

 『私の地図データが古かった様ですね……すみません、冬真」

 「いや、データが古いのは解ってた事だし、ルドゥに行くのを決めたのは俺だからエイダのせいじゃないよ」

 ぽんぽん、とエイダを撫でる。

 「という事は、桐見さん達はこの地域でずっと眠っていたんですか?」

 「う、うん。ブゥアって街の地下施設で目覚めたんだけど……」

 俺は尋ねられるまま、地下施設で目覚めてからエイダと出会って魔騎兵ベルガを修理した事、街から脱出してルドゥに向い、春樺さん達と出合うまでを話した。

 言葉で並べると短いけど、結構時間が経ってるんだよなぁ……


 「まさかブゥアの地下施設とはな……」

 「何かまずい事でも?」

 「いや、よく無事に街を出られたと思ってな。ルドゥもだが廃墟化した過去の都市は魔獣の巣窟になっているから単独脱出はまず無理だと思うんだが」

 「そうですか……?エイダのナビに従って街を駆け抜けただけで、魔獣と戦ったのは出口間近で1回だけでしたよ」

 『街の地形がそれほど変わってなかったのが幸いしました。あとはレーダーに映る魔獣を全速力で避けて進む冬真の腕が良かったのですよ』

 「ふむ……言われている程魔獣が居るわけじゃないのか?それとも分散していただけか……そう簡単に単独で抜けられる密度じゃないと思うんだがなぁ……」

 春樺さんは何か難しい顔をして唸っているが、実際脱出してきたしなぁ……確かに瓦礫だらけの街中を疾走り抜けるのは結構冷や冷やしたけど。

 

 「……という事は貴方の魔騎兵ペイルライダーもブゥアにあったもの?」

 今度は秋穂さんが尋ねてくる。

 「うん、さっきも説明したけど廃棄場に残ってたスクラップを修理した代物だけどね」

 「桐見さんは冷凍睡眠者スリーパーになる前は魔装兵ライダーだったんですよね?専用の機体が用意されてなかったんですか?」

 「いや、起きた時は何もなかったなぁ……というか何で魔装兵ライダーだと?」

 「え?だって魔騎兵ペイルライダーであんなに凄い戦いができるじゃないですか。冷凍睡眠者スリーパーになる前はエースだったんじゃないですか?」

 「あー……いや、どうだろう……?冷凍睡眠する前の事は覚えていないんだ」

 魔騎兵ペイルライダーに乗ったのは初めてで戦闘なんて3度目ですとか言ったらどんな反応されるんだろうなぁ……そんな事を思いながらこちらの常識に合わない行動を取る可能性があるので世間知らずアピールをしておく。世間知らずどころか世界知らずなんだけど。 

 「そうなんですか……300年も冷凍睡眠していた影響なんでしょうか……?でも、きっとエースだったと思いますよ」

 と、なんだかきらきらした目で見てくる千夏さん。多分、魔騎兵ペイルライダーの扱いが上手いのはチート能力のせいだろうから内心あんまり自慢できなくて、なんだかこそばゆい……


 「……修理したと言ってたけど……廃棄されたものがそう簡単に修理できたの?」

 『地下施設の封印処理が良かったせいでしょう。廃棄された物といっても使えるパーツは沢山ありましたよ』

 「秋穂、遺跡なんかで出土した魔騎兵ペイルライダーや端末などの遺物アーティファクトが未整備で動いたって話は時々聞くだろう?」

 「……うん、だけどスクラップを修理して動かしたっていうのは初めて聞いたから」

 「と言っても、エイダのいう通りに修理しただけだけどね」

 『おかげで原型から随分と違った形になりましたが』  

 「……原型はベルガって言ってたけど、PR-77Aの事?」

 『良く知ってますね。貴方たちからすれば300年前の機体でしょうに』

 「……ベルガはたまに遺跡からまとめて出土するケースがある。あと、師匠のデータベースにも載ってた」

 『なるほど。ベルガは当時の主力量産機でしたから、軍施設に残っているケースも多かったのでしょうね』


 ふと、エイダがベルガから外されている理由を今更ながらに思い出した。

 「そういや、ベルガはどうしたんだ?確かRED戦でエイダと接続が切れたまでは覚えてるんだけど…」

 「あぁ、桐見君の機体はトレーラーに積んであるよ」

 「……機体に負荷を掛けすぎてオーバーヒートしてる。装甲の損傷も激しいし、トレーラーでの簡易整備でなんとかできる範囲を越えてる」

 「……え?」

 『CCSわたし抜きでSCSだけで神機構築なんてするからですよ……SCSに損傷が無いのが奇跡みたいなものです』

 「でも凄かったですよねぇ、桐見さんの神機。私、映像越しでも初めて神機を見ちゃいましたよ」

 おおおお、ベルガが故障とかマジか…っ!?これから一体どうやって身を守ればいいんだ!?

 「なぁエイダ……お前でも修理できそうにないのか?」

 『修理はともかく資材が足りませんね。起動できたとしても装甲の損傷が激しすぎてシールドが貼れそうにありませんから危険です』

 そういや、魔騎兵ペイルライダーの貼るシールドって装甲から発生してるんだった。装甲の損傷が激しくなる程シールド強度が下がっていく。

 「そんなに攻撃食らったっけ……?氷弾防いで破片を食らったくらいだったと思うんだけど」

 「REDの魔法で作られた氷弾はたとえ破片だけでも相当な威力だぞ?普通ならシールドで防ぐ事すらできない威力なんだが」

 『と、いう訳でベルガは現在使用できません。まぁ、当てにならないパーツがざっと50はあったので良く持った方ですよ』

 「そうだったの!?」

 最後の赤肩隊みたいな台詞を言うエイダがさらりと衝撃の事実を暴露してきて驚く俺。

 『ええ、不安にさせると思って黙っていましたがまぁ無事に可動してましたから結果オーライです』

 「なんてAIだ……」

 全く持って新鮮な驚きを提供してくれるAIである。


 しかし、ベルガが使えないとなると痛いな……これからどうしたものやら……。そんな風に考え込んでいると千夏さんが不思議そうに声を掛けてきた。

 「どうしたんですか?難しい顔をして」

 「いや、ベルガが壊れてしまったしこれからどうしようかなぁと」

 「ふむ……どうするも人の居る街に行くんだろう?それならこのまま私達に同行すれば良い」

 「いいんですか!?」

 「あぁ、依頼も終える事ができたし、このまま戻る予定だからな」

 春樺さんの提案は正直ありがたいけど、いいんだろうか?

 「あー、でも俺達お金なんか持ってないんですけど……こういうのって護衛依頼とかになるんじゃあ……?」

 「なんだ?そんな事か。帰るついでだから必要無いよ。まぁ、道中機体の整備など手伝ってもらうかもしれないがな」

 俺がそう言うと春樺さんは何でもない事のように返事をしてきた。

 ううむ、3人ともいい人達みたいだし、お言葉に甘えてしまおうか。というか、状況的に八方ふさがりだしなぁ……ベルガ無しで移動できる訳ないし。

 騙されて放り出されるって事はなさそうな気がする。何だか3人とも俺達に興味があるような感じだし。さっきの会話からすると、特に神機とやらに興味がある様だから、その情報を交渉材料にすれば最悪の事態は避けられそうだ。

 神機を構築した時の事は覚えてないけど、エイダが記録くらい取ってるだろうし。

 そんな事を考えていると春樺さんは

 「そんなに悩んだ顔をするな。それならこういう条件はどうだろう?」

 「どんな条件ですか?」

 「うん、簡単な条件だよ。桐見君、私達の猟団に入らないか?」

 「……えっ?」

 そう、恰好良い笑みを浮かべながら意外な条件を提示してきたのだった。

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