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第13話

 「うわぁぁぁぁぁっ!?」

 悲鳴を上げながら身体を動かそうとする。REDが近づいてくる地響きはどんどん近づいてくる。全速で逃げていたので結構距離を稼いでいたはずだがあの巨体で歩けばすぐに追いつかれてしまうだろう。

 しかし、身体を動かして立ち上がろうとしても全く動かない。いや、動かせない。思い切り身体に力を入れてもびくともせず、全身を包む装甲服ベルガが一転して棺桶と化していた。

 

 『死ぬ』


 頭の中にその単語が浮かぶと連想されたイメージが浮かんでは消えていく。

 REDに踏み潰され、蹴飛ばされ、生きたまま齧られ、喰われ、魔法で燃やされ、貫かれ、魔吼で消し炭になる。

 自分が死ぬイメージをこれほど身近に感じた事は初めてだった。車に轢かれそうになった時にも死の恐怖を感じたが今感じている死のイメージの足元にも及ばない。

 自然、身体が震え歯がガチガチと鳴り動けなくなる。棺桶と化した装甲服の中で震えていると春樺さんのあの軽装魔騎兵ペイルライダーはこういう時でも動けそうだな、などと思考が横道に逸れる。

 

 「そっか、死ぬのか俺……」


 身体を震わせているうちに不意に零れる独り言。本来なら大学生活を楽しんでいる筈だった、それが名も知らぬ異世界の荒野で巨大な化け物に殺されようとしている。

 理不尽を感じなくは無いが、殺されてしまえばその理不尽も感じなくなる。そう思うとふと、エイダの事が思い浮かぶ。

 

 「エイダには悪い事しちゃったなぁ」


 異世界トリップして初めて出会った自分以外の人。本人は端末だと言っていたが俺は人だと思っている。エイダは非常に人間臭く、端末のAIとは思えなかった。まるで生身の人間と話しているかの様で、それは独り地下施設を彷徨った俺にとって救いだった。もし、エイダに出会わなければ地下施設から脱出できず、侵入してきた魔獣マッドトロルになす術も無く殺されていただろう。仮に魔獣マッドトロルの侵入がなかったとしても地下施設に独りでいる事に耐え切れずに精神を病んでいずれ餓死していただろう。

 あのまま地下室で眠ったままなら少なくとも今俺と共に破壊される事はなかったと思うと悪い事をしてしまったという思いが浮かぶ。

 

 「……ま……にげ……て」


 装甲越しのためくぐもったエイダの声が聞える。


 「逃げろって……どうしようもなさそうだよエイダ」


 諦め混じりに逃げられないと呟いてしまう。巻き込んでしまったエイダには悪いと思うけど独りで死ぬよりはマシかなと自分勝手な思いが浮かぶ。

 と、地響きが止んでいるのに気付く。魔吼の溜めでも行っているのだろうか?


 「……が……止め……解……げて」


 逃げる……逃げるか。そうだな、この世界から逃げて元の世界に戻りたい。戻れないにしてもこんな荒野で死にたくない。 

 折角春樺さん達この世界の人に出会えたのに死にたくない。俺はまだ何もしていない。

 死にたくないと思った途端、一瞬頭にチリッとした感覚が走り胸の奥の辺りが熱くなってくるのを感じた。一度熱くなった胸の奥のものはどんどん熱くなっていき、それと共に『生きたい』という思いが強くなっていく。身体の震えが収まり、「死にたくない」と呟く。  

 口にして呟くと更に胸の奥の熱は高まり、俺は叫ぶ。

 

 「死んで……死んでたまるかぁぁぁぁぁっ!!」


 咆哮。胸の奥の熱さが全身に巡っていく。その熱さはエイダを失い沈黙していたベルガにも満ちていき機体に火が灯る。ホロウィンドウが復活し外の様子が見えるようになり、動力が切れて指一本動かせない棺桶となっていたベルガにも動力が戻り動けるようになると俺は立ち上がった。

 立ち上がって外の様子を見るとREDが動きを止めて苦悶の声を上げている。春樺さんが再度閃光弾を放って足止めしてくれたんだろう。

 こんな胡散臭い男放っておいてもよかっただろうに、その心意気が妙に嬉しかった。


 「冬真っ!?」

 エイダの声がはっきりと聞える。聞き慣れた声にほっとする。

 「心配かけたなエイダ。ちょっと待ってろ、今こいつを片付けてしまうから」

 「片付けるって……無茶です、撤退を!」

 「大丈夫だ」


 胸の熱に促されるまま俺は呪文コマンドを呟く。


 「……メモリーをロード。構築化エーテリンク開始」


 俺の呟きと共に、胸の奥から何かが流れ出る感覚と共にベルガのバックパック左側に武装が構築されていく。踵もローラーが消え代わりにパイルと射出機構が構築されるのと同時に武装の構築が完了する。武装は長大な砲身をしており、二つに折り畳まれていた。


 「レールガン……構築化エーテリンク完了」


 俺がそう呟くと二つに折れたレールガンの砲身が展開され連結される。それを俺は左腕で抱える様に持ち、腰を落として足を広げると踵のパイルを地面に打ち込み衝撃に備える。

 右手はチャンバーを引き魔素エーテルで弾丸を形成する。

 ターレットレンズが回り狙撃レンズがREDを捕らえた。

 閃光から回復しつつあるREDがこちらを向くと咆哮を上げて向けて突撃してきた。

 狙撃レンズでREDの頭部に照準を付けると、俺は胸の奥から湧き出る熱に促されるまま引き金を引いた。


 キュドッ!!


 瞬間、閃光が走りあっさりとREDの張るシールドを破り頭部に着弾した弾丸は、REDの体をも貫通した。自身に何が起きたのか解らなかったのか暫く四肢は動き続けこちらへ向ってくる。

 ズズン……

 そしてようやく力尽きたのか四肢を投げ出し胴体を地面に投げ出して沈黙するのだった。

 

 「はぁ……あ……やった……」


 目の前で沈黙したREDの死亡を確信すると力が抜けた。同時に身体に満ちていた熱も引いていき、武装レールガン構築化エーテリンクが解け光の粒となって消えた。

 熱が完全に引いてしまうと、機体ベルガの光も消え再び周りが暗闇に包まれた。

 そして、暗闇に包まれるのと同時に俺の意識も遠のいていく。


 「冬真……貴方はやはり……」


 意識を手放す最後、エイダのそんな声が聞えた気がした。

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