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「どうかされましたか?」
どうやら事前に契約した内容では、都合が悪くなったらしい。でなければ依頼者がこんなにも言いづらくはならなかっただろう。
「実は時間を明日の早朝から現在に変更してほしいんです」
依頼者の急な申し出に紅は口をつぐむ。そしてちらりとネックレスの詳細を知るであろう深波に目配せをした。目のあった深波は不思議そうに紅を見返すが意図が通じたのかそのあとでこっそりと紅に耳打ちをした。
「さっき言った問題の人がもうすぐこっちに到着するんですよ。もしばったり出くわしてネックレスの存在に気づかれたら大変なんで、ここは変更を受け入れる方がこっちとしても後々行動しやすいと思いますよ?」
さっき言った問題の人というのは依頼者が訪れる数時間前に深波が紅に報告した内容に出てきた人物だった。
深波は依頼者がくる数時間前、依頼者自身とその周辺について新たな情報がないか探っていた。その時見つけたのが問題の人、三和だった。彼女は依頼者の恋人、そして彼の手にあるとされるネックレスにとても執着していることが調査の結果判明した。そして三和は依頼者の従姉妹にあたる人物で、依頼者とその恋人の関係について無知なはずがない。つまり、三和はわかっていて早く来たのだ。
「それに、とられてから取り返すより、とられないように守る方が楽だって部長いっつもいってるじゃないですか。その人に見つかったが最後、飲み込んででも返してくれないと思いますよ?」
最後の言葉は深波の推論に過ぎなかったが、そうならないという保証はどこにもない。なんてったって、そのぐらい問題のある人物なのだから。