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そんなことがあってから数日後、依頼者の女性がジェネラルストアに姿を見せた。赤く染まった空の下グラウンドからは運動部の声が窓越しに部室にきこえる。
「これがそのネックレスです」
そういってテーブルの上に置かれたのはキラキラと七色に反射する大きな宝石がついた一品などではなく、 雑貨屋で1000円程度で売っているような、小さな花のモチーフがついたシンプルな銀色のネックレスだった。深波は事前にそれを目にしていたが、やはりこんなものに価値があるとは到底思えない。紅も未知もそれは同じようで自分に見落としがあるのではないかとネックレスを食い入るように見つめていた。そして何度も視線を往復させたあと、やはり結果は変わらなかったのか納得のいかない表情のまま顔を上げた。
「失礼かもしれませんが、これは本物ですか?」
依頼者に訪ねたのは紅で、ここに持ち込まれているものがレプリカなのではないかという僅かな可能性にかけた質問だった。しかしそんな事情など知らない依頼者は非情にも真実を告げる。
「もちろんですよ、偽物を持ってくる意味がないですから」
この返答は至極当たり前のことだったが、その最終審判に三人は心のなかで両手をあげる。小さな沈黙が流れたあと紅はおっほんと一つ咳払いをし、場に漂ったなんとも言えない空気を払拭しようと試みた。
「このネックレス、私どもに預けるにしてはあなたに要求した対価にみあわないと思うのですが......これが本当にそれなのですか?」
「ええ、これが恋人が私にくれた唯一のものですから。トップもチェーンもすべて、このままでなくてはならないんです」
恋人がくれたネックレス。
ジェネラルストアに持ち込まれたそれは、身に付けないで家においておくことが出来ないほど金銭的価値があるものではなかった。でなければ残るは一つ、このネックレスそのものが厄介な事物に関わっているのであろう。
「とても大事なものなんですね。万一にもキズなどがつかないようジェネラルストア一同、誠心誠意ネックレスの保管に努めさせていただきます。では、ご契約内容の確認に移りますね」
未知、と小声で続きを促している様子から察するに契約確認は副部長の管轄のようだ。肘でコツコツとつつかれた未知は眉間にシワを寄せるも、次の瞬間には商売用の顔をつくり依頼者に笑みを向けた。
「では、事前契約の内容確認に移ります。お預かりするのは明日早朝。そこから約24時間こちらで保管させていただく契約でしたが、このままでよろしいですか?」
「そのことなんですけど......」
依頼者の女性は申し訳なさそうに言葉を漏らした。