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「どう、お姫さん。やってる?」
ガチャリとドアが開いたかと思えばこの台詞。いつから部室はなじみの居酒屋になったのだろうか。
「もちろん。やってますよ」
指をキーボードの上で滑らせながらにやりとした笑みで紅とアイコンタクトを測る深波。何をやっているのか明確に分からない会話ではあるがこの二人の間ではそんなことは口にするまでもなく分かりあっているらしい。
「あ、紅ちゃん。さっき新しい依頼が来たみたいだから目を通してもらってもいいかしら。今、深波ちゃんに裏をとってもらっているけどこの依頼を受けることはほぼ確定したから計画の段階に進んでほしいのよ」
待ってましたといわんばかりの満面の笑みとその言葉。未知のその態度に紅は目を丸くし口端をあげる。
「今回は楽しめそうだねぇ」
呟かれた紅の言葉に深波は顔をゆがめた。この人が楽しんでいる時はろくなことにならないのだ。少なくとも深波の仕事は増えるであろうし、ジェネラルストアとしての活動である以上それを疎かにすることもできない。ただでさえ忙しい部活なのだ。そこに一つ依頼が増えるわけなのだからカツカツのスケジュールに新たな予定をねじ込むようなことになる。そんなことになれば、
「過労死する日も近いかもしれない」
深波の無意識の言葉は紅たちの耳に届く前に虚空へと消え去った。