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取り残された深波はカタカタとキーボードを打ち鳴らしほかの部員がやって来るのを待った。
「紅ちゃんいる?」
音を立てずに開けられた扉から姿を見せたのは北条院 未知。彼女はジェネラルストアの副部長であり紅と同じ3年生でこの部のストッパー役を担っている。
「あっ、未知さん。部長ならさっきどこかに行きましたよ」
深波は視線だけ未知の方に向けそう返した。
目上の人間に対してそんな態度が無礼に当たることなど百も承知だがこの作業を中断するリスクと比べたらこの生意気な態度はかわいいものである。
「今度の依頼主は結構訳アリみたいですよー」
途中経過の報告もかねてそんなことを言うものの、ここに依頼に来る人間は問題を抱えていない方が珍しいのだ。公に出来ない仕事内容であったり、何かしらの問題を抱えた人物であったり。よほどの事でなければ依頼を断ることはないが、その代わりに依頼を受ける時に依頼主についてある程度探りを入れておくのだ。依頼主の事情を調べることで依頼内容の難易度や他の事柄との関連性を知ることができるので一石二鳥なこともある。
「そうなの?依頼内容はなんだったかしら……」
深波の話を聞いた未知は依頼書がまとめられたクリアファイルをぱらぱらとめくり今回の依頼内容を確認した。
自称一般女性からのネックレス保管の依頼。
指定された日に依頼主のネックレスを預かるだけという簡単なお仕事なのだが、単純なことほど難しいものもない。先ほども言ったようにここを利用するのは事情を抱えた人間ばかりだ。そのネックレスがどんな逸品なのかは知らないが、預けておくのにコインロッカーでは役不足だという事だけは明白だ。