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満点の星の下、夜道を歩くのは深波ただ一人。責任の押し付けあいをしていたら太陽は明日に備えて眠ってしまったらしい。
一人で帰るのが寂しいだなんて深波は思ったりしないのだが、今日ばかりは向こうの見えない闇が特別怖かった。
深波は武道の心得はもちろん、護身術も身につけていない。運動神経は良い分、か弱い訳ではないが大の大人には勝ち目がないのだ。鞄の底に潜ませたネックレスを求めてどんな奴がやって来るかもわからない今、足早に帰路についてしまうのは仕方のないことだろう。
「なんで私がこんなこと......」
口を開ければ現状に対する不満ばかりがこぼれでて、深いため息がこぼれる。今ばかりは仕事をしに来てくれなかった部活仲間を恨んでも許されるだろう。
愚痴をこぼしながら歩いた道はいつもよりわずかに長く、複雑なように深波には感じたがきっとそんなことはないのだろう。深波の暮らす見慣れた実家が見えてくる頃には、もうそんなことも気にならなくなっていた。
「ただいま」
自宅の玄関をくぐったこの瞬間、深波の持ち帰るという仕事は完了した。
とりあえず帰ることはできた。だから問題はその後なのだ。深波の家も安全かと問われればそんなことはない。だからと言って明日一日持ち歩くことも安全上良いとは言えない。
多分、依頼主がジェネラルストアを訪れたことも、ネックレスを預けたことも、三和の方には筒抜けだと思うのだ。
深波が依頼主と契約を結ぶ前にしていた針穴に糸を通すような情報収集とは違って、昨日の依頼主に隠れる様子もなければ深波たちも影でこそこそと取り引きをしていたわけでもない。少し調べれば誰にでもつかめるような情報なのだ。それを見過ごしてくれるような者ならどれ程よかったかと、深波は一人自室で頭を抱えた。




