第七章 試運転
「いやあ~今日も暑いねぇ」伸也が西条工場の朝のラジオ体操をやっている
話し相手は加納匡だった
真夏の暑い日の事でした
EB直描のU棟進出も成功し、いよいよ量産製造ラインへのEB直描が本格的に現実のものになって来た
「加納っ、おはよ~今日も一日宜しくな」加納に伸也が喋りだした
「おはよう御座います、今日から本格的に装置立ち上げですね」匡が大声で伸也に話している
「電源入れる前に、配線チェックだからな」どこかで聞いた様な会話だった
「はい、了解です」匡はいつもの様に手を額に付けおどけて見せた
匡は伸也より六歳も若く制御盤のバリバリのエンジニアとして活躍していた
「この二人ならどんな装置でも立ち上げられるな」本田さんからそういう風に推されて、二人は西条工場に長期出張ということになった
「結局、何処にいてもエンジニアはエンジニアなんですね」匡がそう伸也に話した時PLが二人の所まで走ってきた
「配管工事が少し遅れていて・・」
「そうですか、じゃあ本当にゆっくりしないとならないですね?」
「申し訳ない」PLが恥ずかしそうにそう言った
「何でももう直ぐ最新のEEPROMですか、あのフラッシュメモリーやり始めるそうですね?是も内密ですかね?」
伸也がPLにそう言うとPLは言葉を濁しこう言った「あれの量産さえ出来れば、もう万々歳ですねぇ、一辺に正月と盆が来たようなもんですわ」
伸也達は配線チェックをする事にした
直描装置の制御盤は最新のインバーターを四機も搭載しており、真新しいリレーが30個並びそして、下のほうにはシーケンサーが搭載されていた
「さあ、気合入れて行くよう」伸也は久々に配線チェックをしたのであった
制御盤のブレーカーを大きいものから設計図面道理に順番に入れていった
「このブレーカーでシーケンサの電源終わり」伸也はリレーの動作チェックへと事を進めていった
「さあ、あとはこの4機のインバーターだな、加納、インバーターの取説」
「はい、これですね」
「じゃあ、設定のチェックをしてくれ」
「ОK、やりま~す」
「――うん、最後の一台終わりと。では、いよいよプログラマー加納匡の登場だね」
「はい、いきます」
オールブラックのパソコンを鞄から取り出しシーケンサのI/Оへ接続した
「これ、描画データはVMSなの?」伸也は不審に思った
「大丈夫ですよ、U棟と繋がってますから」
「いよいよウェハー搬送します」匡は慎重にキーボードを叩いた
「今日は空描画なので3分でEB装置は終了します」
「今、ウェハーがメインステージに入りました」
「え~ウェハーが第3ステージへ搬送されました」匡はパソコンの画面とウェハーを見て慎重に自動制御を見守った
「――はい、是で本日の試験運転は全部終了です」伸也がEB装置の試験運転の終わりを告げた
「さあ、飯、飯」伸也と匡はホテルに帰る途中のカレー屋で夕食にした
「明日は実際の描画もするんですよね?」
「そだね、是からが本番だね」
二人はガツガツとカレーを食べたのでした
「明日は木村さんも来てくれるらしいですよ」
「え、そうなの?見物か」伸也は涼子にテレパシーを送った
「ようこそ西条工場へ」
FITをホテルへ走らせた
その夜、伸也は不思議な夢を見た
何処だか分からない森の奥、辺りは薄暗く明け方なのか夕方なのかも分からない
そこへ、何処から現れたんだろう、一台の白いライトバン
伸也の目の前に止まり、中から本田さん、中本さん、木村さん、そして加納
如何やら運転しているのは藤本さんらしい
そして皆が「いくよ~」と手招きをしている
伸也は「置いて行かないでくれ」と、そのライトバンに駆け寄ろうとした
その時、森全体が消え、辺り一面真っ暗闇となった
遠くで光り輝く物体が見えた
そこへ駆け寄るとそれはHL800Dだった
「はっ」と思った瞬間、白いライトバンから皆が降りてきて「さあ、やるよ」と誰かが囁き、そしてHL800Dが光となって、消えていった
不思議な夢だった
「さあ、今日も頑張るか」伸也は呟いた
匡が起きて用意が出来るまで1Fロビー横で伸也はコーヒーを啜っていた
匡が降りてきて「おはよう御座います」と大声で伸也に挨拶した
伸也も負けじと大声で「おはよう」と返した
FITを走らせ、途中ローソンでおにぎりを食べながら今日の打ち合わせをした
「今日は張り切りますんで」匡が断言した
工場へ着き、荷物をFITから出し
試運転の用意をした
そして工場の朝礼に参加し、またラジオ体操をした
PLからこう言われた。「ウェハーは本物を使います、昼までには上がりますので、それから試運転お願いします」
匡が分かりましたと敬礼した
昼近くなりかけた時、工場へ白いライトバンが入ってきた
ライトバンは伸也達のもとへ行き、止まった
中から本田さん、中本さんそして藤本さんが降りてきて伸也達に近寄ってきた
「よう、頑張っとるかね?」中本さんの声だ
どうも運転して来たのは木村さんの様だった
木村さんからテレパシーが届いた「頑張っとるかね?スーパー宙ぶらりん君」
「そりゃあもう」伸也はテレパシーで返事した
「処で本田さん、お子さんは?」
「ああ、母に見てもらってるよ。それはそうと、仮試運転成功おめでとう」
「有難う御座います、とうとうDRAMやらフラッシュメモリーやら行けそうですね」
「うん、そう有って欲しいね」
「じゃあ、今日は加納君の試運転を見てやってください」
「EB直描か長かった」珍しく本田さんのため息を聞いた様な気がした伸也でした
「――では、試運転終了いたします」匡の挨拶で直描装置の試運転を終了させた
その夜
「今日もお疲れ様でした~カンパ~イ」伸也の一声です。