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蒼い空の下で  作者: blaze
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第05話:風雷

「邪魔、なんだよ!!」



ざしゅっ



『水神の刀』で角を両断した。

一瞬光ったと思えば、すぐに消えていく。

その様は、あの5人組に会った時のように。


「くっ…これで5体目か」


登校してすぐに一条さんから電話が入った。

同時に闘鬼が出現したらしく、前代未聞の事態に対策本部は混乱していた。

すぐさま次の現場へ急行した。












目の前には闘鬼が3体。

1体はすでに角を両断した。

1体は片方の角を切り落とした。

1体は両腕を斬った。


「はぁ…はぁ…おおおおおおおおおおっ!!!」


とどめを刺すべく間合いを詰めた。

それぞれ一撃で仕留めることは容易い。


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


急に咆哮をあげたので一瞬、動きが鈍った。

止まって様子を見ながら剣を構えた。


「な……に……?」


片方しか角の無い闘鬼が両腕の無い闘鬼を食いだした。

すると、片角の闘鬼に変化が起きた。


「角が…3本?」


それを視認した直後、その闘鬼が凄まじい速度で間合いを詰めてきた。

呆気にとられ、目で追うだけで精一杯だった。


「グ…ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


ガキィ!!


剣の腹で受け止めても、受け止めきれずに吹っ飛ばされた。


「ぐっ!!あれは…なんなんだ…?」


速力も腕力も通常の闘鬼の比ではなかった。

体勢を立て直す暇すらない。

再び、こちらへと突進してきた。


ドゴォッ!!


後ろにあったブロック塀は容易く粉砕されていた。

こんな当身を食らえばひとたまりも無い。

地面を蹴って、体勢が整っていない闘鬼に斬りかかった。

それはまったくの死角。

ブロック塀の残骸に隠れて見えない方から斬りかかった。



だが、気づけば眼前に闘鬼の腕が迫っていた。



ガギッ!


剣の腹で受け止めることはできたが、衝撃で壁まで吹き飛ばされた。

壁に激突した右肩が痛む。


「っぐ…」


その速度、腕力は桁外れだった。

これほどまでに強化されるとは思いもよらなかった。


次の一手を摸索してる最中、突如異変が起こった。


「ガッ…グウウウウウウ…ガアアアアアアアアアア!!!」


突然、闘鬼が頭を抱えながら苦しみ始めた。

頭を振り乱し、何度も地面に頭を叩きつけていた。


勝機は、正に今。

どういう経緯で異変が起こったのかは見当もつかないが、これを逃してしまえば勝ち目は薄い。

『氷神の拳』を地面に叩きつけ、闘鬼の足元を凍らせた。

さらに、機動力が殺された闘鬼の両腕を『風神の双剣』で上空へと疾走しながら両断した。


「これで、終わりだ」


空中で『蒼天の剣』を構えた。

形成された巨大な刃をその角めがけ振り下ろした。

























右肩が痛む。

先程の闘鬼との戦闘で壁に叩きつけられたせいだろう。

授業の真っ最中に行くと目立つので屋上で授業が終わるのを待つことにした。


「……はぁ」


闘鬼は格段に強化されている。

今日戦った闘鬼を取り込むタイプの闘鬼だってこれから何度出てくるかわからない。

もしも、あの場で異変が起きなかったらもっと苦戦を強いられただろう。

それに、例の5人組だっている。

現状でてこずっているのに、相手になるのだろうか。

その戦闘能力がわからない以上、楽観も悲観もできない。




「あれぇー、サボりですかぁ?」




姿は見えない。

少し幼さの残った声が聞こえてきた。

一度聞けば簡単には忘れないだろう。


「そういう風子だって、サボりか。オレはちょっと用事があったんだ」

「わかりやすい言い訳だね。蒼崎君は嘘が下手ね」


もう一つ聞こえてきた異なる声。

まさかその声の主までここにいるとは思わなかった。


「って、未来さんまで何やってんスか。受験生でしょうに」

「ちゃんと勉強してますから大丈夫ですよー。蒼崎君だって授業に置いてかれるよ?」

「能ある鷹は爪を隠すってやつですよ。やるときはやりますから」

「…自分で言う人っているんですね」

「やかましい、風子。冷たく言うな」


会って少ししか経っていないけれど、この姉妹と話していると退屈しない。

だけど、脳裏によぎるのは以前の風子の一言だけだった。


「…で?『空』の属性者のオレになんの用なんですか、2人とも」


だからこそ、確かめたかった。

属性者とはまったく無関係そうなこの2人から、なぜそんな言葉がでてきたのかがわからなくて。

その先に見え隠れする可能性を否定したくて。


「そんなの決まってるじゃないですか。だからここに来たんですよ?」

「蒼崎君の『空』の力が欲しいだけ、だよ」

「あなた方がこの力を手に入れたって何の意味も無いはずだ。それに…属性者でなければ」

「ここまで言ってもまだわからないんですか?同じ属性者あれば、すぐにわかりますよ」


風子のその一言で、可能性は一瞬にして崩れ去った。

最初から、可能性ですらなかったのかもしれない。

それはただの自分の願いだったということに今更ながらに気づかされた。


「そう…か。それで、いつに?」

「そうだね、手っ取り早く済ませちゃおうよ」

「今日の放課後でどうですか?もとからわたし達はそうしようとしてたんですけど」


逃げなんて選択肢は用意されていなかった。

もとからそんなものにすがるつもりでいたわけでは無い。

ただ、ここまで慣れ親しんだ人達と刃を交えるのは抵抗があった。


「……わかりました。場所はどこですか?」

「場所なら、この間に蒼崎君が澪奈と戦ったところがいいんじゃない?」


あの日の戦いも見られていたというのか。

属性者との初めての戦いということで余裕が無かったのだろう。

それがこんな失態に結びついている。


















放課後


「空はこれからどうするの?」

「あー、商店街にでも寄ってく。お前は部活だろ?」

「うん。試合近いからがんばってるんだよ」

「そんな時期か。がんばるのはいいけど、ケガしないように気をつけろよ」

「ありがと。それじゃあね」


手を振って雪美を送り出した。

これからのことを考えると鬱になるが、雪美に感づかれたら余計な心配をかけてしまう。

待ちうけている戦いのことなんて話せない。


「浮かない顔してるな、蒼崎。清水が行ってしまって寂しいのか?」

「あのなぁ…オレの顔が寂しそうに見えるお前は、眼科行って眼球取り替えてきてもらえ」


後ろから天月がやってきた。

どうやら美鈴も部活のようで姿は無かった。

ちなみに、雪美と美鈴は同じ部活らしい。


「両目とも視力には自身があるんでね。取り替えたくも無い」

「へいへい。で、天月は帰らないのか?」

「ああ、ちょっと用事があってな。お前は暇そうだな」

「そうでも無いんだよなぁ…またお呼びだしだ」

「また?今度は何人?」


この前のように人数だけでかかってこられたらどれだけ楽だろうか。

今度の相手は数よりも厄介な代物を手にしていることだろう。


「美人の姉妹」

「…………本当に手が早いな、蒼崎」

「…激しい誤解を生んでいるようだな。この間の衝突事故の時の2人だ」

「ああ。お前とぶつかったはずみでキスしたあの後輩と学食でお前の上に乗ってたあの先輩」

「激しく間違った説明ありがとう、天月君。あの2人………属性者だ」


おちゃらけた雰囲気から、一瞬で空気が凍った。

これで2度目の属性者との戦い。

これが意味しているものを天月はすでに悟っているだろう。


「…つまり、この学校にいる属性者には俺達のことがバレてるってことか」

「そうみたいだ。面倒なことにならなきゃいいが…」

「実際、蒼崎は面倒なことになってるようだけどな」

「お前はさ………」


屋上での別れ際。

未来さんが言った一言が気になっていた。


「オレの力を欲しいと思ったことがあるか?」

「俺が『空』の力を?悪いが見てても、到底使いこなせそうにないと思う」

「そっか…」

「『空』の力が目的なのか?」

「そうみたいだ。だけど、この力はオレしか使えないはずなのに…」

「『蒼天の剣』も他の属性の武具を使えるんだ。他の属性が『空』を取り込めるんじゃないのか?」


『蒼天の剣』は各属性の武具を使うことができるため、各属性者の力を取り込むことができる。

取り込むことでその武具の力が強化されるらしい。

この間だって、水城から『水』の力を取り込んだ。


「…こんな力、どうして欲しがるんだろうな」
































先日、水城に案内された場所に行くと、すでに2人の姿があった。

拳を握り締め、近づいて行った。


「ちょっと遅刻かな。女の子を待たせちゃダメだよ、蒼崎君」

「……一応、5分前なんですけど」

「お姉ちゃん、わたし達が早く来すぎただけだよっ」

「黙ってれば、ただで『空』の力をくれたかもしれないのに…おしゃべりね」

「あ、そっか。失敗したねー」

「とにかく、さ。蒼崎君も武具を出しなよ」


そう言うと未来さんの手には巨大な矛が。

風子の手には日本刀が2本握られていた。


「そういえば、蒼崎君にはまだ何の属性か話して無かったね」

「わたしは『風』、お姉ちゃんは『雷』です。早く始めましょう、『空』の属性者の蒼崎先輩」


ここまで来て戦わないという選択は選ばせてくれそうになかった。

アルマを『蒼天の剣』に変えて、構えた。


「それが、『空』の属性者の武具の『蒼天の剣』ね。空みたいな綺麗な色ね」

「お姉ちゃん、見惚れてる場合じゃないでしょ!」

「そうね、それじゃあ…いくよ!」


未来さんが矛を振りかぶって真っ直ぐこちらへと間合いを詰めてきた。

横一文字に矛を凪いだ。


ガキィ!!


「ぐっ!!」


右側からの斬撃を受けた。

剣で受け止めることはできたが、その武具の巨大さからか予想以上に重い一撃だった。

受け止めれば動きが止められてしまうので、そのまま右方向へと跳んだ。


「捕まえましたよ、蒼崎先輩」


先程の一撃で視界は未来さんだけを捉えていた。

だからこそ、風子の姿がいなくなったことにまったく気づいていなかった。

着地まではあと一瞬必要だった。


「終わりです!」


その両手にある2本の刀で斬りつけてきた。

『蒼天の剣』は未来さんの矛を受け止めたままで動かせない。

急いで『風神の双剣』に変えて、その一撃を受けとめた。


ガギッ!!


風子は2本。

それをこちらは1本で受け止めている。

力の差はあるにしろ、その単純な数の大きさで受け止めきることができなかった。


ギギィン!


未来さんの矛はなんとか捌けたが、風子の一撃で後方へと弾き飛ばされた。

なんとか、着地して2人の姿を探した。


今までの場所には影すらなかった。



「残念ね」

「はずれでーす」


左右から2人の声がした。

風子は左側から、未来さんは右側から武具を構えて空中にいた。




ガキッ!!




一瞬前までいた地面に3つの刃が叩きつけられていた。

なんとか瞬時に後ろに飛び退いてかわすことができた。


「わたし達がはずれですぅ」

「おっしー!でも、いつまでかわし続けられるかな?」


すると、今度は風子が間合いを詰めてきた。

同時に右の刀を繰り出してきた。

それを左の刀で受け止め、右の刀で斬り返した。


「残念でした♪」


風子は1歩後ろへ跳んで一閃を交わした。

それと同時に右へと避けた。

突然の行動で面食らった。

追おうとしたが、未来さんの姿が見えないことから足を止めた。

すると、まっすぐ先に未来さんの姿があった。


「これで、終わり」


矛の柄の方を掴んで体ごと一回、回った。

そして、その遠心力を消さないように真上から振り下ろした。


その武具の重さ、巨大さに遠心力が加算された一撃。

それは今までのどの一撃よりも大きいはず。






ズドォオオオン!!





左方向へと跳んでその一閃をなんとか避けた。

その一閃とともに、振り下ろされた場所に雷が落ちたような音がした。

きっと、落ちたような、ではない。

あの一撃は雷を落とす付加効果があるのだろう。


ほうけていると、右側から気配を感じた。

だが、もう遅かった。


ざしゅっ


風子の斬撃が右肩をかすった。

身を捩って深手になることだけは避けることができた。

右腕を動かせば痛みが走る。

長期戦になれば厄介なことこの上ない。

それ以上に厄介なのはあの2人の異常なまでの移動速度だった。

『雷』と『風』。

両方とも速いことの例えになるように、その速さは属性者の中でも郡を抜くのだろう。


傷を厭わず剣を振った

それを未来さんは矛で受け止めた。

力では負けないはず。


しかし、その考えはあまりにも浅かった。


「甘いね。敵はあたし一人じゃないでしょ」

「っ!!しまっ…」


次の瞬間、吹きすさぶ風に体の自由を奪われていた。


「くっ…!」


風子の双剣の斬撃が襲ってきた。

右凪ぎと振り下ろしが同時に襲い掛かった。


ザシュッ!


ズバッ!!

 


胸を少し斬られた。

斬撃自体はそんなに深くは無い。


「ぐっ!!」


竜巻にそのまま上空まで上げられた。

上で未来さんが矛を構えている姿が視界に入った。

このままじゃ、確実に殺さ――――――――――――












ドクン
















「ったく。この、下手くそが」




















次の瞬間、竜巻は消え去っていた。

上空から未来さんは矛を振り下ろした。

体は、動く。

ならば、やるべきことは一つだけ。



「ぐっ……!」

「うー、しぶといですねー」

「……その速さ、今に止めてやるよ」


直後に左側に気配がした。

同時に『森神の太刀』に変えて、左側へと振った。


ギィン!!


「きゃっ!!」


そこにいたのは風子だった。

『森神の太刀』は一番重い剣。

いかに速度があるとはいえ、風子の一撃では決して揺るがない。

すぐに『氷神の拳』に変えて風子の足元を凍りつかせた。


「え……動けない!!」


着地したと同時に足場を固めた。

これでしばらくは風子は動けない。


「女の子の足を冷やすなんて関心しないわね、蒼崎君」


いくら速くとも、少しの間だけは1対1で相手をすることができる。

右上からの一撃を『蒼天の剣』の腹で受け止めた。

そのまま刃を滑らせ、矛の柄を伝って間合いを詰める。


「え……っ!!」


直後に、『焔神・氷神の拳』に変え零距離まで詰めて当身をかました。

未来さんは後方へと弾き飛ばされた。

その場所まで間合いを詰め、『炎神の拳』についた刃を突きつけた。


「…あなたの、あなた達の負けです」

「くっ……やっぱり、強いんだね」


諦めたように手から矛を離した。

戦いが終わった今、風子の足元を凍りつかせている氷をなんとかしてやらなければいけない。




風子がいる場所まで近づいた時だった。

後ろから矛を握る音と共に、地面を蹴る音が聞こえた。

視界の隅には矛を持って振りかぶった未来さんが入った。




この一撃だけは余裕があった。

今なら、よけて一撃を入れることだってできるだろう。

だが、目の前には風子がいた。

避けても、捌いても風子には刃が届いてしまう。

未来さんも、オレの姿と重なって風子との間合いがわからなかったのだろう。

驚いた顔をしていたが手は止まりそうになかった。


今、自分ができる最大の動作は2つ。

そして、右手にある武具は『焔神の拳』。

それだけで、するべき動作が決まった。


右手の手甲で風子の足元の氷を溶かした。

これでまず移動ができるようになった。

あとはもう一つの動作をする時間しか残っていない。

飛び退く暇すらない。

逆に今、飛び退けば風子と一緒に輪切りにされてしまう。

残った手段は一つだけ。


「風子!!」

「え…きゃっ!」


風子の肩を掴んで抱き寄せた。

そうして迫り来る刃を右手だけで受け止めた。


ガギィンッ!!


「……っ!!……ふぅ」


なんとか受け止められた。

右腕は衝撃でしびれている。


「蒼崎君……ごめん…なさい…ごめん…っ!!」


未来さんはその場にうずくまって謝ってきた。

だが、未来さんが最後まで風子との間合いを確認できなければ受け止めきれなかっただろう。

途中で力が抜けたから、片手だけで受け止めれた。


「大丈夫、ですよ。風子も無事ですし、オレも大丈夫ですから」

「ごめん…あたし、卑怯なことしちゃって…」

「構いませんよ。もともと2人を倒す目的じゃないんですし。風子も無事か?」


腕の中にいる風子に話しかけた。

すると、顔を真っ赤にして俯いていた。


「ご、ごめん!!大丈夫か…?」

「はふぅ…」


腕を放すと、ぺたんと座りこんでしまった。

依然、顔は赤いままだった。


「おい、風子!大丈夫かっ!?おい!!」


肩を揺さぶってもふにゃふにゃしたままだった。


「ふにゅぅ……」

「あー、呼吸困難になってたのか…すまん!あの時は必死で…」

「……なんだ、風子にとっては結果オーライなわけね」


それを見て、未来さんはニヤニヤしていた。

風子は相変わらず、真っ赤な顔であさっての方向を見てぼーっとしていた。


戦闘中の不可解な一つの出来事を忘れたままで。


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