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蒼い空の下で  作者: blaze
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第03話:流水

闘鬼を倒し、家路へとつく前に話し合いがあった。

約3ヶ月ぶりに活動を再開した闘鬼に関する話し合いが一条さんや対策本部の人達も交えて行われた。

再び、厳戒体勢がしかれることとなった。


そして、家に着くのは7時半ころになってしまった。



「……た、ただいま」


やはり言い慣れないこの言葉を言いながら居間へと向かった。

きっと、もうご飯を食べているに違いない。


「おかえり、空」

「おかえりなさい、空さん」


なんとまだ食べていなかった。

むしろ、待たせてしまっているようだった。


「すみません…遅くなって」

「構いませんけど、遅くなるなら連絡してくださいね。雪美に一言言うだけでもいいですから」

「そうだよ。それにさっきニュースで闘鬼が出たって言ってたし…心配したんだよ」


まさか、その闘鬼を倒してきた為に遅くなったとは言えなかった。

この家で居候を続ける以上、話さなければならないだろう。

だが、それまでに闘鬼との戦いが終わってほしいというのが本音だった。

そうすれば、言う必要も無くなるだろうから。


「これからは気をつけます…すみませんでした」

「わかってくれればいいんですよ。ご飯にしますから着替えてきてください」


千秋さんは柔らかい、優しい笑顔で許してくれた。

きっと、千秋さんにも心配をかけてしまったに違いない。

おとなしく、着替えてくることにした。
























「………日本刀はマシンガンには勝てなかったか…」


ご飯を美味しくいただいた後、千秋さんが煎れてくれたコーヒーを飲みながら無駄知識番組を観てくつろいでいた。

風呂も入り、後は寝るだけ。

やはり、千秋さんは料理も美味しいせいかコーヒーも格別だった。

隣の雪美を見てみると大変なことになっていた。


目はあまり開いていない。

それどころか2秒ほど閉じて、急に開いて、瞼が下がってきて…を繰り返している。

見ている方がいたたまれなくなってくる。


「おい…雪美。そろそろ寝たらどうだ」

「……わたし、寝てないもん。ちくわはマシンガンに勝てたもん」

「お前見てなかったな……とにかく、さっきからずっと眠そうにしてるじゃないか」

「そんなこと…無いもん……空と一緒にテレビ観るもん……」


マシンガンに勝てるちくわなんて正直ぞっとする。

そんなことを言いつつも雪美は眠りそうになっていた。

本人が大丈夫と言うのなら、放っておいてもいいのだろうか。


「すー……すー……」


CMに入ったとたん、KOした。

これはある意味すごいかもしれない。


「まったく、しょうがないんだから…空さん、雪美のこと運んでくれませんか?」

「それぐらいなら大丈夫ですよ。早速、運びますんで」


これは、背負って雪美の部屋まで行くしかないと思った。

雪美は身長的に千秋さんより低いものの、あまり差が無いので運ぶのも大変だと思った。


「ほら、雪美。オレの背中に乗れ」

「……うにゃぁ……わたし…ちくわじゃないもん…」


ちくわの国の夢でも見ているんだろうか。

とりあえず、今は運んでしまおう。

それに……ちょうどいいから。


「千秋さん、ちょっといいですか?」

「はい?どうしたんですか?」


なんとか雪美を背負ってリビングを出ていく前に千秋さんに声をかけた。

いずれは話さなければいけないことだ。


「ちょっと、お話があるので…雪美置いてきた後に時間貰ってもいいですか?」

「ええ、もちろん構いませんよ」


階段を上って雪美の部屋のドアノブをなんとか開けた。

思ったより、雪美は軽かった。

本人の前で言ったらご飯が明日から無くなりかねないが。


「…ほらっ。もう寝ろよ。また明日な、雪美」


ベッドの上に雪美を転がして、上から布団をかけてやった。

むにゃむにゃと言いながら布団に潜っていった。


「……おやしゅみ……空」

「ああ、おやすみ」


あの眠気の中で挨拶できたのはすごいことだと思った。

その安らかな寝顔を見ると、雪美には尚更言いにくくなった。

















「……つまり、空さんは属性者で闘鬼と戦ってきたってことですよね?」

「はい……今日遅くなったのだって現れた闘鬼を倒してきたからです」

「そう…ですか。属性者の話は聞いたことあったんですが…たしか、お父さんもそうなんですよね?」

「……はい。ですが、その力を引き継いだわけではありません」

「いろいろあるらしいですね…空さんは一体何の属性なんですか…?」


心臓を掴まれるかのような問い。

何よりも恐れていたことだった。

ただ一言。

これから自分が発する一言だけですべてが崩れてしまいそうだから。


「……………『空』…です」


これでこの家を出ていくことになっても仕方ないと思った。

この世界の中で、その存在は何よりも忌むべきものだから。


「……そうだったんですか」


千秋さんの表情が曇る。

その名前だけで拒否されてもしかたない。


「こんなこと言うのも何ですけど……今まで、大変だったでしょう?」

「え…………?」


千秋さんの一言が一番意外だった。

俯いていた顔を上げてみると、優しく微笑んだ千秋さんの顔があった。


「空さんがよければいつまでもここにいてください。もちろん、属性者だからって差別もしません

少なくとも、わたしにとって空さんは、春奈の息子ですから」


居場所をくれた。

受け入れてくれたと同時に、居場所まで用意してくれた。

いくら感謝しても足りないほどに、暖かかった。


「……ありがとうございます」




















次の日




「ほら、行くぞ。ちくわ」

「なんでちくわっていうのー?わたしはちくわって名前じゃないよー」

「まったく、昨日部屋まで運んでやったのは誰だと思ってんだ」

「え、空が運んでくれたの?」

「そうだ。むちゃくちゃ重かった」

「もー、女の子にそんなこと言っちゃダメなんだよ?」

「だったら、自分で起きて部屋まで行くんだな」

「ぶー」


心なしか雪美の顔が赤い気がした。

恥ずかしいなら自分で部屋まで行けばいいのに…

無理にでも起こして自分で行かせるべきだったかと反省した。









学校に着き、机の中身をあさっているとその違和感に気づいた。

むしろ、気づきたくないモノであったが。


「……なんじゃこら」


たくさんの招待状の束がそこにあった。

もう少し可愛い字やそれっぽい紙だったならどれだけいいだろうか。


「よう、蒼崎………って、お前早速人気者だな」

「放課後、体育館裏に来てくださいって………男が使うな、ちくせう」


国会に提出してみようかと思った。

男子同士の呼び出しで体育館裏は無し、と。

お願いだからその法案を可決してくれ。


「めんどくせー。どうやって片付けようかな…」

「先輩からのご指名もあるみたいだぞ?実際来るのは下っ端のやつらだろうが」


きっとこのピアスが大いに関係しているんだろう。

出る杭は打たれる、という言葉を作った人を尊敬した。


「まぁ、こういう対処のやり方はだいぶ慣れたけどなぁ…前の高校でも、最初のうちは……」

「……おい、蒼崎」

「こっちがちょっと本気を見せれば大抵片付くさ。面倒なことには変わりないがな」

「………おい」

「なんだよ、天月。果たし状の束がそんなに欲しいか」

「こんな紙切れ、さっさと焼却処分してくれ。むしろ、紙の無駄だ。っていうか……コレ」


天月が手にしていたのはいかにも女の子らしい可愛い紙と文字だった。

内容は同じように招待状だった。


「……なんですかね、これ。蒼崎さん」

「と、とととにかく、いいい行くしかな、ないんじゃない?」


なぜか、どもってしまった。

いきなりの事態なら誰でも驚くはずだ。

決して、女の子からの呼び出しだからって動揺しているわけではなく。

きっとそうに違いない。


























というわけで放課後…




「さ、行くか…」

「待て、蒼崎。どっち先に行くんだ?」

「……オレは、嫌いなモノを先に食べる派だ」

「へいへい。加勢は?」

「いらん。オレだけで十分だ」


天月は呼び出されていない、ということは狙われる対象になっていないということだろう。

だが、これから先に標的にされないとも限らないので、釘をさしておく必要があるのかもしれない。


















「………で?話ってなんだ?」

「い、いえ…な、なんでもありませんっ」


胸倉を掴まれたので、その腕を捻って投げた。

その直後、後ろにいたやつが殴りかかってきたのでかわして顔面におもいっきり拳を叩きつけた。

前歯2本に、鼻が折れているだろう。

その一部始終を見ていたほかの連中は急におとなしくなった。


「そうか……誰が言い出したのかわからんが、次はこれだけじゃ済まさないぞ

ついでに言えば、オレの周りを狙ったら命が無いと思え。どこまでも追って、必ず始末してやるからな」


胸倉を掴んでいたやつの胸倉を掴み返して言ってやった。

相当、殺気を出して言ってやったから、効いただろう。

証拠に途中から涙目になっていた。



「さて……場所はここでいいのかな」


例の女の子からの手紙に書いてあった場所へと行った。

学校の裏の方にある空き地。

人通りは少なく、どこか荒涼としていた。


しばらく待っていると人の気配がした。


「急に呼び出して…ごめんね、蒼崎君」

「やっぱり、そうか。あんただったのか」


そこにいたのはこの間、学食でぶつかった彼女だった。

美鈴は澪奈、と呼んでいたようだが。


「こんなとこに呼び出したのは……その、ちょっとみんなの前じゃ言えない話があって」

「…………そうか。一つ、質問していいか?」


何よりも気になっていたこと。

そして、あの時感じた違和感。


「他のクラスなのに、どうして転校してきたばかりのオレの名前を知っている

少なくとも、オレはあんたに自己紹介した記憶は無いが」


それを言うと、不適な笑みを浮かべた。

何かたくらんでいるような、そんな笑いだった。


「そんなこと……だって、あんたは有名じゃない?『空』の属性者の蒼崎空」


鼓動が高まった。

どういうわけか『空』の属性者であることが知られている。

ここに来て、剣を使ったのはこの間に闘鬼と戦った時だけ。

まさか、偶然その場に居合わせたというのだろうか。

だが、それにはただ一つの例外があった。


「………そうだな。同じ属性者なら知られていてもおかしくないな」


そう…相手も属性者である場合である。

同じ仲間なら見切ることができるだろう。


『空』以外にも属性は存在する。

自然界のあらゆる現象を司る者……属性者。

たとえば、『風』や『木』、『焔』などがいい例だろう。

陰陽五行説はこれに基づいているとされている。


「あんたの属性は?みたところ、武具は所持していないようだが」

「そういえば、自己紹介がまだだったわね。あたしの名前は水城澪奈。『水』の属性者よ」


そう言うと、どこからともなく長太刀を取り出した。

通常の日本刀よりも遥かに長いその刀身。

その切っ先をこちらに向けた。


「……なんでオレに剣を向ける必要があるんだ」

「興味が無いって言えば嘘になるわね。あの『空』の属性者がここにいるんだから」


切っ先は真っ直ぐこちらを捉えていた。

それには敵対の意志と共に殺気が篭っていた。


「残念だな……せっかく仲良くなれるかって思ってたのによ!!」


アルマを『蒼天の剣』に変え、間合いに踏み込んだ。

水城の得物は長太刀。

間合いに入りこまれたらそれだけで優位に立てるはずだ。


「……………へぇ、速いのね」

「おおおおおおおっ!!」


がら空きの右に剣を叩きこんだ。

水城は防御姿勢すらとっていない。


………妙だ。



ざしゅ



斬ったと同時に水城だったものが水になって崩れた。

その直後、背後から水城の声が聞こえた。


「所詮、噂だけだったみたいね。『空』の属性者さん」


振り向こうとして右に反転すると同時に剣を振った。

だが、それよりも速く、水城の刀は右肩を斬っていた。




ザンッ




「ぐっ!!」


1歩下がって間合いをとった。

右手で剣を持ったまま、左手で右肩の傷を押さえた。

『水』の武具は属性者の武具の中で2番目に切れ味がいいという話を聞いたことがる。

血が止まらない。


「水分身……か」

「気づくのが遅すぎたようね。何も疑わずに突っ込んでくるんだもの。笑っちゃうわ」


『水』を操ることができる『水』の属性者が水分身を作れておかしいことは無い。

それすら見落としていたのは落ち度としか言いようが無い。


再び、間合いを詰めた。

剣を『風神の双剣』に変え、最高速度で敵に近づいた。


ばしゃっ


また水分身。

だが、『風神の双剣』の速度なら敵を追うことができる。


「そこかっ!!」


左の後ろの方に気配を感じた。

体を反転させ、左の剣を相手に合わせる。


ギィン!


「さすがに少しは学習するみたいね」

「…そう何度も斬られてたまるか」


その機は逃さない。

合わせた左の剣で相手の刀を弾きながら、右手の剣で敵に斬りこむ。


水城はその一閃を身をかがめてかわした。

捉えようの無いその様は正に、『水』そのものとしか言いようが無かった。




「つまらないから終わらせるわ――――――――――――――――――『流水の極み』」




次の瞬間、水に囲まれていた。

息ができない上に剣を振ってもすぐに修復される。


「…ここで圧死させてもしかたないからね。せいぜい手足を折るぐらいで勘弁してあげるわ」







だんだんと水の球体の容積が狭くなってきていた。

このままでは圧死というのもあながち上段ではなくなってしまう。

それ以前に、いつまで息を止めていられるかが問題になってくる。


「人の限界は3分。いくら属性者でも、3分もすれば窒息するでしょうね」


相手の言動にまどわされてはいけない。

水の檻は斬ってもすぐに修復されてしまう。

どうすれば…


一つ、閃いた。

むしろ、これで抜け出せなければ終わりになってしまう。



「…………っ…!」



剣を『氷神の拳』に変えた。

両腕に手甲を纏い、それを水の檻へと突き出した。


「そんなもので檻が壊れないくらい、まだわからないの?」


これでいい。

前に突き出しながら、この手甲の能力を使う。





ピシッ




徐々に凍り始めた。

突き出すと同時に凍った部分を砕いていった。


「……ぐっ!!」



ピシッ……ビシィ!!





全部凍ってしまえば、水の檻と共に砕けてしまう。

ならばその前に、一つ割れ目をつけることでそこから脱出した。





「ぐっ……はぁ…はぁ…まだ、終わりじゃない」

「くっ!!そんな能力があるなんてね…だけど、今なら!!」


抜け出すだけで精一杯だったせいで体勢が整っていない。

そんな隙だらけの状態じゃ、斬り込まれて終わりになってしまう。

『水神の刀』に変えて同じように水分身を作ろうにも水城ほどの完成度の高い水分身は作れない。


今は反撃する時ではない。

ただ、体勢を整える時間があればいいだけ。


水城の足さばきだけを見て、踏み込む場所を読んだ。

その場所にあったのは水分身を斬った時に飛び散ってできた水溜りがあった。

あとはその場所に合わせるだけ。

いかに水を操る術が水城に劣ろうとも、氷を作る術は水城には引けを取らない。


「きゃっ!!?」


水城が踏み込む瞬間、その場所に氷を張った。

水城はその踏み込みに全体重をかけているために、滑れば確実に体勢を崩す。

その瞬間に立ちあがり、剣を変えた。


「くっ!!」


水城が立ちあがろうとしたとき、すでに剣を水城に構えていた。

一瞬、視線が交差する。


「……終わりだ、水城」

「……なんで、とどめを刺さないのよ。あたしはあんたを傷つけたのに」

「殺すことが目的じゃない。そんな目的のために剣を振るっているんじゃない」


背を向けて歩き出した。

あの時点で確実にとどめを刺せる間はあった。

それがどういうことを意味するか、水城とてわかっていないわけではない。


「…そんな甘さじゃ……あの悪魔にだって勝てないわよっ!!」


その言葉を聞いて、何かが反応した。

考えるよりも先に感じ取った。

水城は背後から斬りかかって来た。

ただ、それだけのことだった。



キィン!!



「悪魔が………どうしたって?」




ドスッ




即座に反転し、水城の長太刀を弾いた。

弾いた長太刀は空中で弧を描いて地面に突き刺さった。


「……その殺気…やっぱり、あんたは……」

「言っただろう、水城。オレは殺す気なんて、無いんだ」

「それが甘いって言ってるのよ!じゃあ、今あんたを殺そうとしたあたしも殺す気なんて無いわけ!!?」




蒼崎は一瞬だけ俯いて、水城を見た。

どこか、困ったように笑いながら。




「それでも、殺さない。どうやら殺せないみたいだ。同じ属性の力を持ってるんだから…仲間だろ、オレ達」

「だから、それが甘いのよ!!どうして……」

「そんな顔するなよ。笑えば可愛い顔するんだからさ。この甘さで痛い目に遭うのはオレだけだ。だから、全然構わない」




水城は何も言わず。

蒼崎もそれから何も言わないまま、その場を立ち去った。


その場に存在する、複数の視線に気づかないままで。


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