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蒼い空の下で  作者: blaze
3/6

第02話:始業

目を覚ますとものすごい違和感を感じた。

見覚えの無い天井。

見覚えの無い部屋。

 

「…そうだった」


ちょっとしてから、清水家での居候生活が始まったことに気づいた。

体を起こし、机の上の小さい布団で寝ているアルマを起こす。

さすがに転校初日から遅刻はまずい。

そう、平穏に行きようと心に決めたのだ。


道案内は雪美に頼もう。


「さっさと起きやが…れっ」


ボスッ


アルマをベッドに叩きつけた。

見事に頭から突っ込んだ。


「ク…クゥ…」

「よし!下に行くか」


アルマはふらふら飛びながら後ろをついてきた。

後ろから非難の声(?)が聞えてきたが、聞えないふりをした。





  

「あ、おはようございます、千秋さん」

「おはようございます、空さん。朝食にしますか?」

「あ、はい。お願いします」

「ちょっと待っててくださいね」


ここに居候できたのは、母が千秋さんと親友だったからだ。

そうでなければ、ここにいられない。

いくら幼馴染といえども、そこまで世話になるわけにいかない。


ニュースを見ながら朝食がくるのを待っていた。

何も手伝わないでいるというのも悪い気がする。


 「空さん、ちょっといいですか?」

 「はい?何でしょう?」

 「雪美を起こしてきてほしいんですけど…いいですか?」

 「お安い御用です」

 「それではお願いしますね」






階段を上って雪美の部屋の前に立つ。

いくら幼馴染とはいえ同い年の女子の部屋に入るのは抵抗がある。



ドアノブを回す瞬間にとても重要なことを思い出した





「すー…すー…」





布団に包まって、すやすやと寝息をたてていた。

形容できないほど、気持ちよさそうに眠っていた。

起こす方に罪悪感が込み上げてくるほどに。



「朝だぞー」

 「うぅん………すー…」

「雪美って寝起き悪かったんだっけ…」


自分自身、寝起きはかなり悪い方だと自覚している。

一度、日曜の朝に起こしに来た緋山と殴り合ったこともあった。


だが、雪美のそれは常人を遙に凌駕していた。

ってか、これ起こせるのか?


「起きろ!遅刻するぞー!!」


ゆさゆさ…


肩を掴んで叫んでみるが…


「んみゅ……くー…」

「…最終奥義を使うか」


雪美の下の方に回りこみ、布団の裾を掴んだ。


「…後悔するなよ?」


そして、掴んだ布団を。

力の限り、引っぺがした。













朝の雪美との激闘があったせいか朝食がとてもおいしかった。


「ぶー」

「初日から遅刻させる気か。オレが不良と呼ばれてもいいというのか?」

「空が不良って呼ばれても、わたしは困らないもん」

「オレが悪いってか!?」


あからさまに顔をそらして不満を表現していた。

起こしてやったと言うのに理不尽な…

そんな雪美を千秋さんが静かに諭した。


「雪美がちゃんと起きれないからでしょ?」

「だって、空が起こしにくるなんて思わなかったんだもん…びっくりして飛び起きちゃったよ」

「あら、それじゃあ毎朝空さんに頼もうかしら」

「おかーさん!!」


なんとも平和な朝の一コマ。

きっとこれからオレの朝だけは修羅場と化すに違いない。


「…とにかく、まだ出なくて大丈夫なのか?」

「えーっと…………えへっ」

「………………へ?」







そうして、家を飛び出した。

雪美曰く、走れば情状酌量の余地があるらしい。

ようするに、遅刻だった。





「「いってきますっ!!」」


「はい、いってらっしゃい」


千秋さんに見送られて出発した。

オレが来るまでは一体、どうしてたんだろう…



そんなことを考えてる暇はないくらい、全速力で走り続けた。

初日に遅刻なんて、ケンカを売ってるとしか思えない所業。

なんとしてもそれは避けたかった。








「あれ、雪美じゃない」









どこからともなく聞こえたその声で足を止めた。

雪美よりも若干背の高い女子がそこにいた。

話し方からして、雪美とは仲が良いようだった。


「み、美鈴?急がないと遅刻しちゃうよー?」

「あなた、また時計狂ってるのね…歩いても間に合うわよ」

「あ、ホントだ」


それを聞いて一気に脱力した。

またってことは今までにも何度かあったようだ。


「ぜぇ…ぜぇ…うぐっ……おま、…またって…どーゆー……」

「うー、ごめん…」


息も絶え絶えで雪美に問い掛けた。

あれだけ走ったのに、普通に話していた。

そんなオレを哀れみの目を向けてきたその人が呆れた様子で言った。


「…で?雪美の朝マラソンの被害者の彼はどちら様?」

「ほら、この間話した、空だよ」

「あら、これが例の蒼崎君?」


こらこら。

どの蒼崎だ、オレは。

一体、どんな説明をしたんだか…


その人は何か見定めるようにジロジロ見てきた。


「…ふーん。あたしは藤原美鈴。雪美の友達よ、よろしくね」

「お…う……こちら……こそ……よろしく……」


いまだに息が整っていない。

これだけ走ったのはどれだけ久しぶりなんだろうか…


「あれ?この前、美鈴が言ってたあの人は?」

「ああ、面倒だから置いてきたわ」


その雰囲気以上に冷たいお方のようだった。

とりあえず、逆らわないでおこう(涙)


「あら、どうやら追い着いたみたいね」


そう言って見た遠くにいる男子生徒。

制服は同じなのでもしかしたら、二人の友達なのかもしれない。


「はぁ…はぁ…はぁ…道っ……わからっ…ない……」

「だいたい、アンタがお父さんに捕まったのが悪いのよ。遅刻するなら一人でしてちょうだい」


これは冷たいを通り越して、絶対零度だと思った。

自分と同じように肩で息をしているその男を見た。

どこかで見覚えのある男だった。




「「あれ?」」




お互い顔を見上げた時に気づいた。

声を聞いたときにもしやと思ったが…

それより、呼吸を整えるのが大変で顔すら上げられなかった。













「あ、まつ…き……」

「あお………さき?」


























そうしているうちに学校に着いた。

美鈴と雪美は着くと同時にクラス替えの紙を見に行った。


どんな偶然なのか。

なんと天月は雪美の親友の家に居候しているようだった。


「しかも、クラスも同じ…これで緋山もいたら騒がしくなりそうだな…」

「主に騒いでるのは、蒼崎と緋山だけだがな」


ここまできたら、緋山も同じクラスだったとしてもなんら不思議は無い。

だが、緋山がここにいるということはもう一人余計なのが…


「あーっ!!アンタはっ!!」


そう思ったとたんに耳を劈くかのような大声。

聞き覚えがあった。

願わくば二度と聞きたくなかった声だった。

その声の主にも会いたくなんてなかったから。


「よう、ひさしぶりだな。蒼崎、天月」

「なんでここにいるのよ!?特に蒼崎っ」


仲良く二人で来たのは緋山だった。

その隣にいるのが生涯の天敵である青山海。

思い起こせば中学から一緒だった気がする。


「………オレ、頭痛いから保健室行きてぇ。ああ、青山の幻が見える。眼科にも行こう。それとも、カウンセリングでも受けるべきか」

「初日から保健室登校なんていい身分だな、蒼崎さんよ」

「そうよ。アンタはさっさと職員室でも行って自己紹介の内容考えてなさいよっ」


この夫婦漫才どもが…

卒業間際から付き合っているこの二人のコンビネーションは強い。


「…………戦闘空域を離脱します」

「緋山も青山も、相変わらずだな。少しは加減してやれ」

「まぁ、同じクラスにはなれなかったがよろしくな、蒼崎」


天月が緋山の肩をポンと叩き、緋山が心底愉快そうに笑っていた。

この恨み晴らさずおくべきか……









その後、おとなしく職員室に向かった。

担任は吉岡というらしい。

特に怖そうな感じは無く、人柄も柔らかそうな感じだった。


「なぁ、天月よ…お前は緊張しないのか?」


廊下で声をひそめて天月に聞いてみた。

見た目はまったく緊張なんてしていなさそうだった。


「別に。気張ったってしかたないだろう?」

「お前はコレが無いから呑気にできんだよ…」


そう言ってアルマを指した。

担任と校長にはすでに説明しておいた。

自分の持つ力、それを行使すべき場所。

ただ、普通の生徒には奇異の目で見られることは間違いなかった。


そうこうしているうちに教室に着いた。

妙に騒がしい教室の扉の前で待った。


「……ここだ」

「独り言か、蒼崎」

「この瞬間が結構なプレッシャーになるんだよ」


担任が入ったことで教室は静かになった。

すると、静かになったと思った次の瞬間には落胆の声が響いた。

その声は明らかに男子の声だった。


「状況を説明するなら、転校生が男で落胆する男子のため息だろうな」

「……なるほど…これは予想以上に入りにくくなったもんだ」


今更になって緊張感が漂ってきた。

隣の天月も少し緊張しているようだった。


「じゃ、入ってきてー」


担任の呑気な声が聞こえてきた。

人事だと思いやがって…と思う自分は酷く自己中心的だと思った。


教室に入るとその反応は一目瞭然だった。

廊下側の方々は興味が無いのか、早くも教科書を予習している。

真ん中辺りの方々は品定めをするかのように見ている。

後ろの方から「レスリング部にピッタリだ」とか、「いやあれは相撲部ですたい」とか聞こえてきた。


(おい!俺は相撲はやんないぞ!)

(落ち着け、天月!目を合わしたら負けだぞ!)



窓側の方々はもんのすごい目でこちらを睨んでいる。

あからさまに態度が悪そうなそいつらは素行もよくないのだろう。

だからこそ、新しい存在を早くも威嚇しているのだと思った。

特にこの耳飾があれば余計そう思われてしまう。


「じゃあ、2人とも、窓際の方に席開いてるから、そこに座ってくれ」


目眩がした。

きっと、わざとではないのだろう。

だけど、これじゃあ火に油を3リットルほどぶっかけるようなものだろう。

今後の生活を思うと軽く泣けてくる。


「……わかりやした(涙)」


そうして座ると、隣には思いも寄らない人がいた。


「隣だね、空♪」

「………なんで清水のお前がここに」

「ついでに言えば藤原のお前がなんで清水の後ろに」

「担任に隣に来いって言われたのよ…あんたらがいろいろわかんないだろうからって」


それは嬉しい限りだった。

ガラの悪い集団と一緒の新学期なんて殺伐とした空気に息がつまってしまう。


「出席をとるぞー」


周りからの視線とひそひそ声がやたら気になったが、転校1日目くらいおとなしくしておくことにした。

こちらを品定めするような、そんな視線にも気づかずに。






























お昼休み。

どうにもこうにもご飯を食べないことには始まらない。

おとなしく、雪美と美鈴についていくことにしよう。


「なぁ、昼めs……」


言い終わる前にその異常さに気づいた。

周りには人だかりができていた。

ご丁寧にオレと天月を中心として。


「……え。な、どうしたの?」


まさか、洗礼とか言ってぼこぼこにされるのだろうか。

そ、そんなまさかっ。


「よろしくな、転校生2人」

「ところでさ、2人って何かスポーツとかやってたりする?」

「前の学校で部活とかは?」

「てかさ、バスケやんない?」

「おい、抜け駆けすんなっ。テニス部に貰うんだから」

「ねぇねぇ、このちっちゃい子借りてっていい?」

「てゆーか、これなんなの?まぁ、可愛いからいいか♪」


主に部活の勧誘だった。

そして、アルマは拉致。

正直、雪美や美鈴の姿はまったく見えない。


「えーっと…スポーツは特に。前の学校でもやってなかった」

「……俺もだ」


「じゃあ、野球やらないか?ウチの高校、結構強いんだぜ」

「はっ、地区予選準決勝がいいとこだろうが。ウチの高校って言ったらサッカー部だぞ。一緒に国立目指すぞ」

「サッカーも野球も、下がれよ!こいつらはテニス部なんだから!」

「黙れ、万年初戦敗退チームがっ!陸上競技も楽しいぞ。どうだ、一緒に走らないか?」

「陸上は去年の奇跡が一回あったぐらいで天狗にならないでほしいな。2人とも、弓道とかどう?」

「んな地味なのは下がっとけ。ウチの高校の自慢なのはボートだ、ボート」

「競技者人口少ないからインハイ出てるようなもんだろっ。ボクシングやろうぜー」

「この間、一発KOされて鼻がひん曲がったのは誰だっけかな?剣道楽しいぞー」


レスリング部や相撲部といった、比較的図体がでかい面々は輪の外で待機していた。

そうして、無常にもチャイムは鳴った。






































次の日、お昼



「いやぁ、蒼崎君。お腹が減ったねぇ」

「そうだねぇ、天月君。昨日、お昼ご飯を食べた記憶が無いのはなぜかなぁ?」

「気づけば美鈴はいなくなってたしなぁ。いやぁ、困ったもんだねー」

「し、しつこいわねっ。悪かったって言ってるでしょ!?」

「ごめんね、空」


質問責めもとい、勧誘責めにあっていたおかげでご飯にありつくことができなかった。

放課後にも捕まったので八方ふさがりだった。

というわけで学食への道のりを歩いていた。


「あれ、天月と蒼崎じゃないか」


廊下で後ろから急に声をかけられた。

知り合いが少ない以上、そういう声には敏感に反応してしまう。


「緋山と……………青山か」

「なんだ、緋山夫妻じゃないか」

「うるさいわねっ、天月。美鈴もこんなの相手にしてるの疲れるでしょ?」

「解ってること言わないで。余計に自覚しちゃうじゃない」

「あ、そかー」


青山は見事に無視。

美鈴も青山と一緒にため息をついている。


「ってか、美鈴と青山は知り合いだったのか」

「海の知り合いだったの?ちなみに、雪美も入れてよく3人で遊びに行くわよ」

「海ちゃん達もこれからお昼ー?」

「そーだよ。雪美ちゃん達も一緒に食べよ」


意外に意外だった。

まさか、この3人に繋がりがあったとは思いもしなかった。

ということは雪美も美鈴も緋山とも知り合っていたことになる。


「いやぁ、雪美さんの幼馴染が蒼崎で、藤原の従兄弟が天月とは思ってもなくてな」

「え、天月と美鈴って従兄弟なの?」

「ああ、別に言う必要も無いと思って言わなかったがな」


世の中って意外に狭いのかもしれない。

そんなことを言っているうちに学食に着いた。


…混みすぎ。

前の学校でも席の取り合いは戦争だった気がしないでもないが…

つーか、この混んでる中で席を陣取っている集団がいる。

ちょっと本気で殴りにと行こうかと考えてるうちに席が見つかった。


「ここにしましょう。あたしメニュー買ってきてあげるから」

「俺も行こう」

「塩ラーメン頼むッス」

「わたしも〜」

「俺はいつもので」

「太陽と同じー」


なんだ、いつものって。

妙に常連っぽい緋山がちょっとかっこよかった。

いずれはオレも言ってみたいものだ。


「はい、清水。塩ラーメン」

「ありがと、天月君」

「緋山君、いつもの持ってきたわよ。海もお先にどうぞ」

「お、ありがとな」

「ありがとー」


そう言って再び、天月と美鈴は人ごみの中へ消えた。

その直後、それぞれの食べ物を持って帰ってきた。


「なんだ、緋山のいつものってカレーかよ」

「そんな言い方すると後悔するぞ。うちの学食のカレーは絶品だからな」

「まったく、素人よね、蒼崎は」


素人も何も、今日が初だと言うのに、青山は何か勘違いしているのかもしれない。

まぁ、このバカは放っておこう。


「全部口に出てるわよぅ!」

「あー、うっさい。天月、オレのは?」

「ああ」


くいっと親指で人ごみの中を指した。

嫌な予感と共に怒りが込み上げてきた。


「………覚えてやがれ」


ゆっくりと席を立って人ごみを目指した。

途中で学食のおばちゃんが吼えていたので急いだ。


「はいよ、塩ラーメンね。混んでるんだから早く取りに来なよー」

「すんませーん」


人だかりを割りこんで入った時、誰かに後ろから押された。

危なく、塩ラーメンをブチまかしそうになった。

お盆を持ってなかったのが幸いだった。


「危なっ………」

「あ、ごめんなさい」

「いえい………っ…?」


ぶつかった人が謝ってきた。

振りかえって見ると、一人の女子生徒がいた。

背は女子では高い方だろう。

その目を見て、何か他の生徒との違和感を感じた。


「あの……何か顔についてます?」

「あ、いえ…こちらこそすんません」


リボンの色からして同じ学年だろう。

そうして、その女子生徒は人ごみにまぎれて消えた。

その違和感の正体を掴めないまま、席へと戻った。















「いやぁ、学食美味いな」

「だろう?天月も昨日は何食べたんだ?弁当持参?」

「そ、そんな話どうでもいいじゃない。じゅ、授業始まるわよ」


妙に動揺した美鈴が天月と緋山の会話を遮った。

きっと、もう触れられたくないに違いない。


「あ、美鈴じゃない。ちょうどよかった」


一人前を進む美鈴が誰かに捕まった。

それは学食で見たあの女子生徒だった。


「あら、澪奈。どうしたの?」

「そっちのクラスの次の授業、実験室でやるそうよ。それを伝えようと思って」

「そう。ありがとね」

「それじゃあ」


そう言って横を通り過ぎようとしていた。

目が合ったので一応、挨拶ぐらいはしておく。


「…さっきはどうも」

「ああ、別に構わないわよ。それじゃあね、蒼崎君」


不適な笑みを残してどこかへと歩いていった。

その後姿を違和感と共に見つめていた。


「すごいな、蒼崎。もう声かけたのか?」

「人をナンパ野郎みたいな言い方すんな。学食でちょっと話しただけだ」

「そういうのを声かけたっていうのよ、蒼崎君」

「空……ホントなの?」


誤解どころか、雪美なんて本当に信じかけている。

天月と美鈴のコンビはこれから注意しなければ…
































放課後


「よし…帰るか」


早速、席を立つ。

勧誘の嵐はさっさと回避するのが懸命だ。

音速で帰る支度をした。


「空、帰るの?」

「ああ。雪美は?」

「わたし、部活なの」

「あー、この間聞いたな。がんばれよ」

「うん、ありがと。それじゃあね」


ついでに天月と美鈴にも挨拶して教室を出た。

その時、ケータイが鳴った。

ディスプレイにある名前を見て、すぐに出た。


「はい、お久しぶりです。一条さん」

『ああ、久しぶりだな蒼崎……急で悪いんだが、闘鬼が出現した』

「……そうですか。場所は?」

『すまない。場所は……………』


場所を聞いてすぐに走り出した。

不慣れなこの街で現場に急行するのは骨が折れるが、そんなことを言ってる暇がない。

一条さんの言っていた場所と、サイレンの音で判断して、現場へと急いだ。


闘鬼とは人外の姿をした化け物のことである。

その姿は人というより獣に近く、何より特徴的なのが2本の角である。

属性者として、2年ほど前から闘鬼と対峙している。

現状をなんとかする為、警視庁からも協力してもらっている。

電話をくれた一条さんは闘鬼の被害の対策本部に配属されている人である。

正直、2・3ヶ月ぶりだったのでもう、闘鬼は出ないと思っていた。



「見つけたぞ……ここにいたか」



とある、路地裏。

郊外の空き地のような場所に闘鬼はいた。

荒い息をしながら声に反応してこちらを向いた。


そこに1台のパトカーが来た。

一条さんが運転席の窓から身を乗り出してこちらに叫んだ。


「蒼崎!俺は周辺の住民の非難誘導をしてくる!!後は頼むぞ!!」

「はい!わかりました!!」


そうして、アルマに手をかざした。


「…頼むぞ、アルマ」

「クゥ!!」


アルマが光に包まれると同時に剣の形に変わった。

その柄を掴んで構えた。


「―――――――――――いくぞ」


『空』の属性者の武具、『蒼天の剣』を構えて地面を蹴った。

一瞬で闘鬼の懐に入り込んで左斜め下から斬り上げた。


ざしゅ


速さに反応できなかったのか、闘鬼の胸の辺りを斬った。

鮮血が散った。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


咆哮をあげる闘鬼。

脚力の全てを使ってこちらへ突進してきた。

この速さと図体の大きさでは避けられそうにも無い。


「『森神の太刀』!!」


その呼び声に呼応するように、『蒼天の剣』が再び光に包まれた。

その光が収まると同時に剣の形が変わっていた。

『蒼天の剣』は全部で10の武具に変わる能力を持つ。


分厚い刃の幅、身の丈以上もある大きさ。

『森神の太刀』の刀身の腹で敵の突進を受け止めた。

この剣はその刃の大きさと厚さはまさに鋼の塊。

その能力は衝撃を受け止められる、防御の剣。


「っぐ!!」


そのまま、引きずられるように押し出された。

剣で受け止めたまま、地面を蹴った。

再び剣が光りに包まれる。

今度は両手に日本刀ほどの大きさの、『風神の双剣』が握られていた。

闘鬼の顔を蹴って空中へと跳躍した。

上空で反転しながら斬りかけた。

その刃は角に触れた。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


闘鬼の弱点はその特徴的な角にある。

角を2本とも両断すれば闘鬼は消滅するのだ。


頭を抱えたまま、闘鬼は暴れていた。

その隙を見逃すわけにはいかなかった。


「……蒼天流」


膝を曲げ、『風神の双剣』を持った腕を交差させ、両脇に構えた。

そのまま、闘鬼へと間合いを詰めた。


「『滅風』」


ざしゅっ


瞬く間に6連撃を叩きこんだ。

両腕と胴体は『滅風』の斬撃で血に染まっていた。

そこで一瞬、角ががら空きになった。

闘鬼の側面に回り込み、『風神の双剣』から『蒼天の剣』に変えて上段に構えた。


「蒼天流………『空束刃』!!」


大気中にある『空』の力を収束し、大きな刃を刀身の周りに形成させた。

あとはそれを振り下ろすだけ。











ザンッ











「グ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」


『空束刃』が闘鬼の角を2本とも両断した。

闘鬼は光の粒子となって消えていった。


「蒼崎!無事か!!」


ちょうど、その直後に周辺住民の先導をしていた一条さんが現場へと戻ってきた。


「はい、大丈夫です」


光の粒子の最後の一粒が消えたのを見て、一条さんのところへと走った。

久しぶりだったおかげか、少し疲れた気がした。


だが、この時に大きなミスを残していたのだ。

この現場にもう一つの視線があったことを、この時は知る由も無かった


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