表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼い空の下で  作者: blaze
2/6

第01話:再会

ざしゅ


肉を切り裂く感触。

噴出す血飛沫で顔に返り血がついた。

不快感は、無い。

なぜならこれが『属性者』の仕事だから。


「グ…ゴォ………ア………ァ…」


属性の力を持ち、その武具を持つ者を属性者と呼んだ。

異形の存在を無に帰す、ヒトの為に存在する者達。


「………………しつこいな」


ソレを無機質な目で見下していた。

『闘鬼―オニ―』と呼ばれる存在。

どこからともなく現れ、人を食う。


遥か昔から人の世に蔓延り、残虐の限りを尽くしてきた。

その原初はヒトの悲しみ、恨み、妬み、憎悪といった負の感情。


ざしゅ


その顔に剣を突き立てた。

オニと言っても、角があって、トラ柄のパンツを履いているようなそんなオニじゃない。

闘鬼の姿は獣そのもの。

四つんばいで移動し、唯一合致していることは2本の角。


「じゃあな」


それを斬り落とせば、闘鬼は消えて無くなる。

人語は解さない。

本当に、獣としか言い様が無かった。






「誰の恨みや憎しみかはわからないけど……消えてくれ」






ザンッ


空のような蒼い剣が。

その憎しみの結晶へと振り下ろされた。

長い前髪から見え隠れする眼光は、どこか寂しそうで、切なそうで。

その耳にはとある属性者の証である耳飾が揺れていた。



















年月が過ぎさるのは、驚くほど早い。

だが、そんな過ぎてく景色の中でも変わらないものだってある。

駅のホームに降りずいぶんと久しぶりに帰ってきたこの町の景色を見た。

おぼろげな記憶の中の映像とあまり変わりは、無い。



「…はぁ」



ため息をつく。

前髪が邪魔で見えにくい視界でもそれを確認できた。

8年ぶりにこの街、折原市に帰ってきた。

8年も前ならおぼろげになっていても仕方が無い。



とんっ


「あ、すんません………って」

「すみませ…ん……?」


隣にいて、ぶつかってしまった人の顔を見て思考がしばらく止まった。

前髪はそれほど長くないが首元よりも長い髪。

何より、その前髪で隠れそうで隠れていない冷たく、鋭い眼。


「天月……か…?」

「お前…蒼崎か」


しばらくぶりで友達に会ったというのに無愛想なヤツだ。

その名前は天月直哉。

中学校時代からの腐れ縁で、一緒にいた数少ない仲間だった

性格はクールで、多少皮肉混じりのことを言う。


「まさか、同じ電車に乗ってるとはな」

「まったくだ。で、何の用にここに?」

「それは………」


「おーいっ!!」


呼ぶ声がして前を見た。

髪は短めで、ツンツンしていてハリネズミのようだった。

バカみたいなでかい声で、手まで振っている。

同じく、中学校時代からの腐れ縁。

緋山太陽だった。


「やっと着いたか。ったく、乗り遅れたかと思ったぞ」

「…すまんな。それより、気づけ」

「ん?」


普通に隣にいるのに、まったく声をかけてこない緋山。

わざとやってるのか素でやってるのか…


「よう。久しぶりだな、緋山」

「蒼…崎…?蒼崎かっ!!久しぶりだなオイ!」


背中をバシバシ叩きながら挨拶をしてきた。

豪快といえば聞えはいいが、何かと喧しい。

だが、こいつ等とはかれこれ、1年ぶりの再会になる。


「緋山もなんでここに?」

「言って無かったっけ?俺はこの辺に一人暮らししてんだよ」

「俺は…まぁ、後で話す。長くなりそうだからな」

「なるほどねぇ…とにかく、改札抜けよう」


こんなところにいたって仕方が無い。

積もる話もあるだろうからさっさと行きたかった

久しぶりに会えば、積もる話もあるだろう。

ここは地元民の緋山にどこかいい場所がないか聞いてみることにした。


「とりあえず、どっかの店に入らない?」

「そうだな。ちょっと小腹が空いた」


珍しく、天月が乗った。

普段は無口なので黙ってついてくるだけだと思っていた。


「緋山、いい場所無いか?」

「うし、そこにしよう」


別に異存も無いのでどこでもよかった。

近くのファーストフード店、「BOSSバーガー」に入った。





「それで、なんで天月がここにいる。旅行…ってわけじゃなさそうだな」

「ああ。ここに引っ越してきた」

「…へ?」

「おっと…それと通う学校も同じだから。そうそう、緋山が行ってる学校だと」

「なんだ、ウチの高校かよ」


天月はこの上ないくらい元気良く言ってきた。

緋山も妙に納得していた。


「……このボケにはどうツッコめばいい?」


どう考えても天月が冗談を言っているとしか思えなかった。


「だから、俺はここに引っ越してきたんだよ」

「前の学校でなんかやらかしたのか?」

「蒼崎じゃあるまいし」

「やかましい!!」

「……まぁ、家庭の事情ってやつだな」

「ふむ…そっか」


話が止まった。

なんだか複雑そうなので聞き出すのをためらわれた。

天月自身が話してくれるまで待っている方が得策だろう。


「それにしてもまたこの3人が揃うとはな…」

「まったくだ」

「これからの生活が心配だよ、オレは」


前の高校でも、中学校でも。

お世辞にもいい生徒とは呼べなかった。

品行方正、などとは幾光年もかけ離れていたから。


「……天月、あの街は、何か変わったか?」

「…変わってない。そう簡単に変わるか」

「そっか…」


その一言で会話が止まった。

あまり触れない方がよかった、と言ってから思った。

自分自身、なぜあの街の話を切り出したのかわからないくらいだった。



〜〜〜〜〜〜〜♪♪



携帯電話の着信音が鳴った。

ご丁寧に3人同時に。



「…あ!!」

「……ま、まずい」

「やべ」


全員、同じような顔をしていた。

結局、やることはいつも同じだった。

次の瞬間すぐ片付け、店を出た。


「何でお前らも走ってんだよ!」


隣を走りながら緋山が怒鳴ってきた。

つばが飛びまくっていることに気づいていないようだった。


「ああ!?喧しい!!それどころじゃないんだよっ!!」


その隣で天月はなにやら呟いていた。


「殺される…殺される…殺される…」


だいたい予想はつく。

これまた、ご丁寧に3人同時に待ち合わせに遅刻してるようだった。

必死の形相で走り抜けた。

十字路に差し掛かった。


「俺、こっち!またな!!」


緋山は右に。


「生きてたらな…」


天月は左に。


「…なんだかなぁー」


オレは真っ直ぐ駆け抜けた。













駅前のベンチに座っている少女がいた。

身長は155cmくらいだろう。

髪は背中まであるロング。

一瞬、誰かわからなかった。

記憶の中の映像と合致しなかったから。

だけど、どこか面影が残っていた。


「…ま、待たせたな…」


ようやく思い出せた。

8年前、この街を去る前までいつも一緒にいた幼馴染…清水雪美。

その姿は8年前とは全然違った。

当然と言えば当然なのだが。


「空…遅いよ…」


「わ、わりッス…(やべぇ…拳握ってる…)」

「30分以上待ったんだよ?」


頭の中は必死に言い訳を考えていた。


「あまりに久々だったもので…道に迷ってしまいまして…」

「…ホントに?」

「ホントっす!」

「…ウソだ」

「っ!!…なんでわかったんだ…」

「だって、空がウソつくときって必ず『〜ッス』って言うんだもん。昔っからそうだよ」

「(そ…そうだったのか)なんか奢りますから許してください」

「その前にさ…その動いてるの、何?」


持っている大き目のバッグを指差して奇異の目を向けて聞いてきた。

駅構内からずっとそれを忘れていた。


「出すの忘れてた…それっ」


バッグを開けソイツを外に出してやった。

名前はアルマ、大きさは15cmくらい。

尻尾があり、背中には小さな翼らしきものがあった。


「クゥー!!」


どうやら怒ってるらしい。

ぺしぺしと叩いてきた。


「悪りぃ悪りぃ。窒息寸前だったな」

「クー!クゥー!!」

「…ねこ?」


異様なモノを見るように(実際、異様だが)雪美はアルマを見ていた。

とはいうものの、上手く説明できないのも事実だった。


「…いぬ?」

「疑問系で返さないでよー」


少し、飽きれたような顔で文句を言う雪美。

もし、自分が同じことをされたら有無言わさず殴っているかもしれない。


「…ぐ…」


ペットと言えば、ペットである。

数年前から常に周りを飛び回っている。



「…でもかわいいね。おいで!」

「クゥー!」




アルマは嬉しそうに雪美の方へ飛んでいった。


(クソッ…オレにはいっつもケンカ売ってきやがるくせに…)


クウの勝ち誇った憎たらしい顔を見て殺意を送っていた。

普通の人から見ればわからないらしいが、オレには十分すぎるほどわかる。


「…うらやましいの?」

「んなわけあるかい!!」

「ふふっ」

「何がおかしい?」

「照れてる空の顔かわいいなーって」

「照れてないッス!!」


自分の顔が熱くなった気がするのですぐ歩き出した。


「さっさと行くぞ!」

「わ、待って」


8年前に住んでいた街での暮らしが始まった。


 「相変わらず遅いな…」

 「そんなこと言ったって…でも、昔のこと、ちゃんと覚えてるみたいだね」


幼馴染の何気ない一言もなぜか不思議な感じがした。

ここにいたころの記憶。

そのどれもが霞んでしまっているような気がした。


「そう言ってもちゃんと待ってくれるんだね、空は。それも昔と同じだよ」


その笑顔に8年前の面影を見つけた。

それを見て、心なしかほっとした気がした。


 「……気のせいだ」


それでも、どこか寂しさ…とも言い難い思いが胸の中に残っている気がしていた。

曖昧すぎて自分でも理解できないほどの微弱な心の動き。

それが何に由来しているのか、気づくことの無いまま歩き出した。



「…でも、空ってウチの場所わかるの?」

「…………」



黙って雪美の後をついていくことにした。












「ここだよー」


駅前から歩くこと10分ほど。

交通の便には困ることはなさそうだった。

それ以前に、この街を出ることはしばらく無さそうだが。


「…そりゃ、そうだよなぁ」


家は8年前のまま。

この街を去る少し前に立てた家なので新しい方に入る。

思ってたより広かった。


門をくぐって、少し戸惑った。

表札の位置が、低かった。

当然といえば当然だが、自分だけが変わってしまった感覚にとらわれる。

全てから取り残されたような、言い知れないむなしさを感じた。


「お邪魔します…」

「だめー」

「へ?」


玄関から家に入ろうとして止められた。

掃除でも終わってないのか、足下に画鋲でも置いてあるのか。


「…早速、支配の構図を作るつもりか」

「何言ってるの、空?やり直し、だよ」


よくわからないまま、後ろに数歩下がった。

なぜか姿勢を正してしまう。

さっきのような笑顔で雪美は言った。






「おかえりなさい、空」







「え…あ………?」



突然のことでびっくりした。

それと引き換え、雪美は本当に嬉しそうに笑っていた。

その笑顔を見て、その言葉を聞いて。

言いたいことがわかった。


「…ただいま、雪美」


そんなことをしているうちに家の奥から誰かがやってきた。


「あら、もう着いてたんですか?」

「あ、はい。少し遅れてすみません、千秋さん」


この人は清水千秋。

雪美の母親であり、この街での保護者にあたる人である。

どうも8年前からまったく変わっていないような…それにしても綺麗な人だと思う。


「お世話になります」

「いえいえ。ようこそいらっしゃいました」

「クゥ!」


そう、千秋さんは笑顔で言った。

その笑顔が雪美に似ていた。

というより、成長して雪美が千秋さんに似てきているのだろう。


「あ、荷物届いたみたいだよ」


横を見てみると黒い猫のシルエットが書かれたトラックが止まっていた。

予想以上に早く着いてびっくりした。


「やってくれるぜ、ホーリーナイト」

「空、独り言?」

「あ、いや…それじゃ、運びます」


これ以上、つっこまれると答えにくくなるので急いで荷物を運んだ。

あてがわれた部屋は二階の一室。

外見より、妙に広い。


「ここか…って隣は雪美か」


ドアに「ゆきみのへや」と書いたプレートがぶら下がっていた。

部屋ぐらい漢字で書いてほしいものだと思った。








片づけを終え、リビングのソファの上に座った。

正直、疲れた。

荷物は決して多くないのだが、階段の上り下りが効いたようだ。


「あぅ…体が…」

「そろそろご飯にしますよ」

「あ、手伝いますよ」

「それが…」


「いいからっ、空は座っててー!」


台所の方から雪美の声が聞えていた。

手伝いが迷惑なのだろうか。


「…すんまへん」

「空さんが来たからってあの子、張り切っちゃって」

「お母さん!言わないでって言ったのにー…」


再び、台所から雪美の声が聞こえた。

毒を盛られていないことを祈ろう。


「このコはどうすればいいかしら?」

「クゥ?」


何も動じず、アルマに話しかけていた。

というより、妙に千秋さんに懐いていた。


「そいつ雑食なんで同じで大丈夫です。ってか、残飯処理でもやらせ…ぐふっ!」

「クウー!!」


いい具合にアルマの蹴りが鼻に入った。

結構どころかとんでもなく痛かった。


「き、貴様…」

「クウゥ…」


鼻血がどくどくと流れてきた。

本格的に殴り合う前に、千秋さんの鶴の一声で状況は収まった。




「ケンカはダメですよ。そろそろできたみたいですよ」




結構な量の料理がテーブルに並んだ。

和洋折衷、様々な料理が並んでいた。


「………」

「ちょっと作りすぎちゃったかな…?」


「てへっ☆」とでも言うかのように雪美は言った。

だが、出された料理を食べきれないなんて男が廃る。


「…食べつくしてやる」

「クゥッ」













「げふっ」


部屋のベッドの上で寝そべって天井を眺めた。

少し食べ過ぎたようだ。

風呂も入り、アルマを寝かせてのんびりしていた。


「ただいま、か…」


言い慣れていない言葉だった。

だけど、「ただいま」と言って「おかえり」と返ってくることにどこか安心している自分がいた。


「いつまでも…いられるわけじゃないからな」


新しい生活が始まる。

親友との再会。

幼馴染との再会。

居心地の悪さは、無い。

もしろ、最高と言っていいだろう。

それでも…ひっかかりが心に残る。

ぽっかりと空いた大穴は、そう簡単に埋まらない。

埋まることはあるんだろうか。

今、できることは。

成すべきことは。

自分の役目は…


そんなことを考えながら、眠りにおちていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ