迷惑な隣人
お隣に家が建つらしい。
今日も朝から工事の音が聞こえる。
イライラする。
こんなにうるさい音を立てるんだから、普通は工事の前に挨拶に来ない?
「騒音でご迷惑をおかけします、すみません」と、粗品の1つでも持ってくるものじゃないの?
そんな最低限の礼儀も持ち合わせない人が、お隣に越してくるのかと思うと、頭が痛くなった。
でも、こんなことじゃ、きっとお隣はよそでも恥をかくことになるわ。
ここは私が、礼儀というものを教えてあげたほうがいいかもしれないわね。
「ふふ、わたしのおせっかいにも困ったものね。これが老婆心というやつかしら」とひとりごちながら、重い腰を上げてお隣に向かった。
「ちょっと!」私は工事の人に声をかけた。
工事の音で聞こえないらしい。
「ちょっと! ちょっとあなた!」
やっとひとりの若い男の作業員がこっちに気づいたようで、機械を止めてやってきた。
「なんでしょう」
「人と話すときは帽子は外しなさい。礼儀でしょう」
「あっすみません」
作業員が帽子を脱いだ。なかなか素直じゃない。
「何の工事をしているの?」
「家を建てています」
「私は隣に住んでいる者よ。工事の音がとてもうるさいのだけど」
「お隣…? というと、どちらの…」
「見ればわかるでしょう! そこよ!」私は自分の家を指さした。
「あそこの…それはあの…すみません」
作業員は困ったような顔をして謝った。
「今時の若い人は知らないのかもしれないけど、普通は工事の前に、ご迷惑をおかけします、って挨拶に来るものなのよ?」
「はあ」
「まあ、あなたは、責任者でもないんでしょうし、こんなこと言われても困るだろうけども。私はね、親切で教えてあげにきたのよ。こんな常識も知らないようじゃ、この先苦労しますよ、って」
「そうなんですか」
「そうよ。じゃあ、施主に伝えておいてね。失礼な人が隣人じゃ、私も困るから」
「はい…」
作業員は帽子をかぶりなおし、仕事に戻っていった。
私は、若者に自分の知識を教えてあげられたことに満足していた。
◇◇◇
「えっ! お隣が、挨拶にこいって言いに来たの!?」
施主はとても驚いていた。それはそうだ。ここからお隣まで、100メートルは離れているのだから。
俺は現場の責任者。施主が工事の進み具合を見に来たので、作業員から聞いた昼間の出来事を伝えたのだ。
「うるさいって? こんなに離れてるのに聞こえるの?」
「周りが静かだからですかねえ」
「マンションの隣人トラブルでさんざんな目にあったから、自然の中で穏やかに暮らしたいと思ってここに来たのに、そんな…」
施主が頭を抱えていた。こりゃ、工事中止かなあ。
正直なところ、人間関係に疲れた人は、田舎に来るべきじゃないと思う。
「よかれと思って親切で」口を挟んでくる「迷惑な善人」がいるから。
隣が挨拶なしで建築工事を始めたのでネタにしましたw




