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プロローグ

放課後の校舎。しおりは、ともりと並んで帰路についていた。

 入学から三ヶ月が過ぎ、慣れ親しんだはずの廊下には、窓から差し込む低い夕陽が長い影を落としている。


 部活には所属していないが、時折こうして友人と残り、図書室で勉強をしてから帰るのが日課になっていた。オレンジ色の光が校舎を染め上げると、それがこの勉強会の「解散の合図」だ。


「じゃあ、また明日ね」


 下駄箱の前で灯と別れ、靴を履き替えようとしたその時だった。

 コンクリートの隅、冷たい影の中に、ぽつんと取り残された「くまさんのキーホルダー」が落ちているのに気づく。


 いつもなら、誰かの落とし物として気に留めなかったかもしれない。けれど、夕闇に沈みゆくその背中が、なぜか妙に寂しげで、放っておけない引力を持っていた。

拾い上げたそれは、少しだけ毛並みが擦り切れていた。

 届けた先の職員室。入り口の横にある「落し物保管箱」を覗き込むと、そこには埃をかぶった物たちが、声を失った子供たちのように山積みにされていた。


 栞が受け付けの先生にキーホルダーを託すと、先生は手慣れた様子でそれを受け取り、溢れかえりそうになった箱の隙間へ、迷いなく、けれど静かに押し込んだ。

 隙間を埋めるように収まったその姿は、まるで最初からそこにあったガラクタの一部になってしまったかのようだった。


「先生、これ、最後はどうなるんですか?」


栞の素朴な問いに、先生は名簿から目を離さず、淡々と、けれど残酷な事実を口にした。


「規則なのよ。二ヶ月ここに置いておいて、その期間に持ち主が現れなかったら、処分されるって決まってるの。ずっと置いておく場所もないからね」


カレンダーの数字が一つめくられるたび、誰かの宝物だったはずの記憶は、ただの「ゴミ」へと近づいていく。

 その事務的な言葉に含まれた「絶望感」が、栞の胸を静かにざわつかせた。


(……この子も、持ち主が現れなかったら捨てられちゃうんだ)


箱の中で他の落し物に埋もれていく、くまさんの後ろ姿を、栞は立ち尽くして見送る。


「……君は、持ち主のところに帰れるといいね」


 そう祈るように呟き、その場を後にした。

 けれど、胸の奥に残ったざわつきは、夕闇が深まるほどに、消えるどころか大きく膨らんでいくのだった。

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