2 入学許可証
7月も終わろうとしていたある日、オレの家に魔法使いがやってきた。
話は、オレが朝食を食べ終え、ソフィアが皿洗いをしていたころまで遡る。
ジェイコブはテレビの天気予報をみながら仕事の準備をしていて、ちょうどスーツのネクタイを締め終えたところだった。
ピンポーン。
インターフォンが鳴った。
両親はどちらも出られそうにないので、オレが出ることにした。
玄関の向こうにいたのは、トルマリン色のローブに身を包んだ老婆だった。
彼女は自身が魔法使いであり、「ハルフォード魔法アカデミーの副校長」でもあると言った。
最初はオレもボケ老人かと思い、様子を見に来た両親もそう思った。
しかし彼女は「信じないのなら、今ここで見せましょう」と言い、なんと玄関の花瓶を浮かせて見せたのだ。
これは間違いないと思ったオレたちは、その女性を家に入れた。
ソフィアが紅茶を入れ、老婆の前に差し出す。
老婆は一口含み、「ありがとうございます」とだけ言った。
「さて、改めて自己紹介を。私はミネルバ・アリシア、ハルフォードの副校長です。本日は、エリカ・アッシャーさんについて話がありまして――」
それからアリシアは、長い話をし始めた。
彼女の話によれば、この世界には「魔法」と呼ばれる「物理法則云々を無視した技」があり、それを使う人のことを「魔法使い」と呼ぶらしい。
そして魔法使いの子供たちは、11歳になると「ハルフォード魔法アカデミー」という魔法使いの学校に通わなければならないのだとか。
そのことを伝えるため、彼女はオレたちの家にやってきたという。
「――というわけで、アッシャーさん」
一通り話し終えたところで、アリシアはいった。
「あなたが希望すれば、あなたはハルフォードに行く事ができます。ですが、もし希望しないという場合は、今日知った魔法に関する知識だけ消させていただくことになります」
「ちょっと待て――少し考えさせてくれ」
オレは考えた。
正直にいうと、これはとても魅力的な提案だ。
魔法というのは地下世界にもあったものだし――それを体系的に学べるというのなら、そのメリットは図りしれない。
しかし、不安もあった。
なにせこの世界の魔法は、地下世界の魔法とは全く持って違うものかもしれないからだ。
むしろ人間が魔法を使える――全人類ではないとはいえ、独自社会を作れるほどの割合で存在する――ことも考えるに、体系が全く同じだとは思えない。
とはいえ、このまま夢を夢のままにして、惰性のままに生きていくのも魅力的ではない。
それに、進めば戻る道もわかるかもしれない。なら――
「決まりましたか?」
アリシアが尋ねた。
俺は息を吸い込んで、はっきりと言った。
「――ああ、行くぜ。ハルフォードにな」
▽ ▽ ▽
その日の残りは、両親とアリシアの間の細々とした同意で終わった(ジェイコブは有給休暇を取ったようだ)。
あとで学用品の買い物が必要なようだが、それは明日、別の先生がやる予定らしい。
どうやらこの時期は教師も忙しく、空いているのが明日のその人しかいないのだとか。
次の日。
いつも通り朝食を食べ終えたオレは、表紙に「非魔法族の保護者向け」と小さく書かれた入学案内をみながら、今日来るという別の先生を待っていた。
その先生は、時間ぴったりに来た。
その先生は黒いマントをはためかせた、少し人相が悪い先生だった。
「おはよう。あんたが今日、買い物を手伝ってくれる先生か?」
オレがそう尋ねると、彼はちょっと気を損ねたように言った。
「さよう――私はロジャー・アリエフ、ハルフォードで魔法薬を教えている。準備はできているな?」
……随分と威圧的な人だ。
まあ魔法学校なんだ、そういう先生ぐらいいるだろう。
というか、この雰囲気で愛想よく話しているのは想像できない。
そう思いつつ、オレはさっきの質問に答えた。
「ああ。しっかし、お金はどうすりゃいいんだ? とりあえず、マジックレスの金は持ってきたが」
「……ちょっと違うが、むこうで換金するだろうから問題でないな。では、私の腕を掴みたまえ」
何をしたいのかさっぱりわからなかったが、とりあえず従うことにした。
オレがアリエフの腕の半ばを掴むと、足が空中に持ち上げられ、周りの景色もビデオを早送りしているかのように移り変わっていった。
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