表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/48

卒業の調律、あるいは余白の向こう側

世界を揺るがした「δ」の発表から数週間。

光都大学からは《ORACLE》による強制的な精神管理が撤廃され、学生たちは自らの意志で、時に悩み、時に衝突しながら、新しい「マナー」を模索し始めていた。


「……ここも、今日で最後ね」


ゆいは、荷物が片付けられた「性文化研究部」の部室を見渡した。

壁にはみおが残した色彩の跡があり、棚にはりつが整えた石が置かれ、デスクにはつむぎが使い古したケーブルが転がっている。


そこへ、一人の男が訪ねてきた。和先輩だった。

かつての冷徹な支配者の面影はなく、その瞳には、理論に敗北した者特有の、憑き物が落ちたような静けさがあった。


「ゆい。……ボクの負けだ。《ORACLE》は、君たちが持ち込んだ『誤差』を解析しようとして自壊した。……いや、自ら『沈黙』を選んだのかもしれないな」


「先輩。オレは先輩を倒したかったわけじゃない。ただ、完璧な正解なんてなくても、人は繋がれるってことを証明したかっただけよ」


和は微かに笑い、窓の外を見た。

「これからは、管理ではなく『対話』の時代か。……不便で、不作法で、最高に面倒な世界だ。だが、悪くない」

彼は短くそれだけ告げると、一度だけ深く頭を下げ、部室を去っていった。それは、彼なりの「誠実なマナー」の表明だった。


「先輩! 準備できましたよ!」


あずさの声が響く。

校庭の桜が舞い散る中、みお、りつ、つむぎの三人が、卒業証書を手に笑い合っている。


「行こう、あずさ。オレたちの研究は、ここからが本番なんだから」


ゆいは、あずさが差し出した手を握った。

かつて「ルナ」として炎上し、世界を拒絶した少女は、今、自分自身の「余白」を愛してくれる仲間と共に、光都の門をくぐる。


研究部のプレートを外し、扉を閉める。

カチリ、という小さな音は、一つの物語の終わりであり、同時に、名前のない「新しい日々」への調律チューニングの合図だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ