審判の朝、白銀のドレスコード
12月25日。光都大学の大講堂は、静謐な狂気に満ちていた。
内外から集まった学術的権威、そして和先輩が配置した《ORACLE》の監視端末が、獲物を待つ蜘蛛の目のように光っている。
控室の空気は、吐き出す息さえ凍りそうなほど張り詰めていた。
ゆいは、鏡の前に立っていた。手元には、かつて自分を守るために作り上げた、非の打ち所がない「完璧な正解」が書かれた原稿がある。
「……ゆい先輩」
あずさが、ゆいの背後からそっと声をかける。
あずさ、みお、りつ、つむぎ。4人は今日、あえて光都の規律を微かに無視した、それぞれの「色」を身につけていた。
「この原稿、捨ててもいいかな」
ゆいの言葉に、4人は驚き、そしてすぐに深く納得したように微笑んだ。
ゆいは、自らの手で完成された理論の原稿を破り捨てた。それは、かつて「ルナ」として炎上した際にしがみついた「理論の盾」との決別だった。
「今日は、マナーを教えに行くわけじゃない。オレたちが古民家で、あずさの部屋で、この部室で見つけた『体温』を……ただ、ありのままに伝えに行くだけだ」
つむぎが、端末の最終チェックを終える。
「準備完了です。プレゼン用サーバーの防壁は、私の『熱暴走ロジック』で書き換えました。和氏の《ORACLE》が干渉してきた瞬間、それは私たちの『情緒』を増幅する回路に変わります」
りつが、ゆいの襟元を丁寧に整えた。
「綻びを隠す必要はありません。その綻びこそが、今日、人々の心を繋ぐ『針穴』になるのですから」
みおが、ゆいの背中を勢いよく叩く。
「ゆいっち先輩! 世界で一番不作法で、最高に誠実なセッションにしようよ!」
チャイムが鳴る。
それは、ゆいを断罪しようとする者たちの合図であり、同時に、新しい時代の産声へのカウントダウンでもあった。
ゆいは、あずさの手を最後に一度だけ強く握った。
「行くわよ。オレたちの『δ(デルタ)』を見せつけに」
白銀の雪が舞う中、5人は真っ直ぐに、審判の壇上へと歩み出した。
背後で、《ORACLE》の警告音が、かつてないほど不快な音を立てて響き渡っていた。




