表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/48

聖夜の余白、あるいは愛の誤差(シミュレーション)

学会を明日に控えたクリスマスイブ。

光都の街は、計算し尽くされたイルミネーションの輝きに満ちていた。

だが、ゆいは一人、あずさの部屋にいた。数式も、デバイスも、過去の亡霊ルナもいない、ただの「七瀬ゆい」として。


「……あずさ、ごめんね。私、ずっとあなたのことを『理論の観測者』としてしか見ていなかったのかもしれない」


窓の外に降る雪を眺めながら、ゆいがぽつりと呟く。

あずさは、ゆいに温かいミルクを手渡し、隣に座った。


「いいんですよ、先輩。私は、先輩が理論に溺れて、自分を消そうとしている時でも、その奥で震えている『本当のゆい先輩』をずっと記録みてきましたから」


ゆいは、あずさの部屋の少し散らかった本棚や、使い込まれたクッションを眺めた。

そこには「究極マナー」なんて言葉では片付けられない、生活という名の、愛おしい「誤差」が溢れていた。


「私、怖かったの。完璧でいなきゃ、また誰かに石を投げられるって。でも、あずさの部屋にいると……少しだけ、間違えてもいいような気がしてくる」


「マナーって、自分を磨くことじゃなくて、相手と一緒に『不完全』を楽しむことなんですよね。……ねえ、先輩。一回だけ、理論を抜きにして、私に『甘えて』みませんか?」


あずさの言葉に、ゆいは驚いたように目を見開いた。

そして、ゆっくりと、折れそうなほど細い体をあずさに預けた。

誰にも見せなかった、弱くて、臆病で、不作法な姿。

その「誤差」を、あずさは優しく、完璧な弾性レジリエンスで包み込んだ。


「……温かいね。あずさ」


「はい。これが、数式には書けない『δ(デルタ)』の正体ですよ」


その頃、部室では、みお、りつ、つむぎが、明日の学会に備えて「最後のノイズ」を仕込んでいた。

「ゆい先輩が自分を取り戻した。……さあ、光都の連中に、本当の『情緒の調律』を見せつけてやりましょう!」

つむぎの瞳に、かつてない知性の光が宿る。


しかし、管制室の和先輩は、狂気に満ちた微笑を浮かべていた。

「愛? 誤差? 滑稽だね、ゆい。君が人間らしさを取り戻せば取り戻すほど、《ORACLE》は君の『心の綻び』を狙いやすくなるというのに」


光都の夜が更けていく。

明日の学会は、もはや単なる研究発表ではない。

ゆいの魂を賭けた、最後にして最大のセッションになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ