前夜の静寂(サイレンス)、あるいは絆の灯火
学園祭前夜。喧騒が遠のいた深夜の部室に、5人は集まっていた。
窓の外には、明日を待つ極彩色のテントや飾りが並んでいるが、部室の中だけは沈静化セッションの時と同じ、深い静寂に包まれている。
「明日、実演が始まったら、もう後戻りはできないわ」
ゆいが、あずさ、みお、りつ、つむぎの顔を一人ずつ見つめる。
和先輩の《ORACLE》が自分たちの理論を食らおうとしている。それは、ゆいがかつて失った「居場所」を、今度は仲間ごと失うかもしれないという恐怖を意味していた。
「先輩、あたしね、怖くないよ。だって、この部室に来るまでは、あたしの色は誰にも見えてなかったんだもん。先輩が見つけてくれたこの色、明日は世界中にぶちまけてやるんだ」
みおが、誇らしげに新しいキャンバスを抱える。
「……私のロジックも、今はデータを超えた『確信』に達しています。和氏のシステムは完璧ですが、『誤差』を愛する私たちの弾性には決して勝てません」
つむぎが、熱暴走から立ち直った愛用のデバイスを静かに閉じる。
「秩序とは、誰かに与えられるものではなく、互いの綻びを縫い合わせるプロセスそのもの。……私は、あなたたちの『不作法』なまでの熱意に、命を預けることに決めました」
りつが、かつては決して見せなかった柔らかな微笑みを浮かべる。
あずさは、ゆいの隣に座り、ノートの真っ白な新ページを開いた。
「先輩。私、明日のすべてを記録します。先輩が震えたことも、私たちが笑ったことも。それは《ORACLE》には絶対に解析できない、私たちの『魂の軌跡』になります」
ゆいは、胸の奥が熱くなるのを感じた。
かつて「ルナ」として炎上したあの夜、自分は独りだった。
けれど今は、自分の理論を「毒」ではなく「希望」だと信じてくれる4人がいる。
「……ありがとう。みんな。明日は、マナーの真髄を見せつけましょう。……誰にも支配できない、私たちの『自由な同期』を」
5人は、夜が明けるまで円陣を組むようにして、静かに語り合った。
外では監視カメラの赤いランプが冷たく光っている。
だが、そのレンズが捉えることのできない「誠実の温度」が、部室の中で小さな、しかし消えない火を灯していた。
物語はいよいよ、第3部クライマックス。
第35話「調律の祝祭」――光都大学を揺るがす運命の当日が幕を開ける。




