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繕う心、整う身体、あるいは無言の作法

古民家での朝は、光都アークラインの電子アラームではなく、庭の竹が石を打つ鹿威しの音で始まった。

祖母は、朝食の準備を整えながら、5人に不思議な課題を出した。


「今日は一日、一切の『言葉』を禁じます。その代わり、この家の手入れを手伝っておくれ」


デバイスを取り上げられたつむぎが戸惑い、何か言いたそうにしたみおが自分の口を抑える。

ゆいは、祖母から渡された針と糸を持ち、破れた障子を修復する作業に入った。


(言葉を使わずに、相手の動きを察する……。これが、究極マナーの原点にある『沈黙の同期』なの?)


ゆいが針を運ぶ隣で、あずさが和紙を差し出す。

言葉はない。だが、あずさが和紙を差し出すタイミング、その指先の震え、そして視線の動きから、彼女が何を考え、どれほどの熱量でここにいるのかが、数式を介さずとも鮮明に伝わってきた。


「……っ」


ゆいは気づく。

光都での自分は、理論という「鎧」を着て、相手を「分析」することで安心を得ていた。だがここでは、鎧を脱ぎ、むき出しの肌で相手の気配を感じるしかない。


一方、庭の掃き掃除をしていたりつは、不規則に落ちる葉を追いかけるうちに、自分の「型」がどれほど硬直していたかを悟る。

みおは、風の音に合わせて箒を動かすことで、初めて自分の「揺らぎ」が世界と調和する感覚を味わっていた。


夕暮れ時、作業を終えた5人の前に、祖母が温かい茶を淹れる。


「ゆい。マナーとは、自分を正しく見せるための飾りじゃない。自分の心の『綻び』を認め、それを丁寧に繕いながら、相手の綻びをも受け入れる……その覚悟のことだよ」


祖母の言葉に、ゆいは昼間見つけた古い論文の断片を思い出した。

『魂の直接調律』。それは支配の術ではなく、互いの綻びを縫い合わせるための、最も繊細で、最も誠実な「針仕事」だったのではないか。


「……ありがとう、おばあちゃん」


言葉を解禁された部室のメンバーたちの顔は、光都にいた頃よりもずっと柔らかく、そして力強い「沈静化」の光を帯びていた。

だが、その夜。

古民家の離れで一人、つむぎが密かに持ち込んだ予備の端末に、不穏なアラートが届く。

和先輩の息がかかった「学術的権威」たちが、ゆいの祖母の存在に目をつけ、その『異端の源流』を根絶しようと動き出していた。

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