表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/24

審判の日、あるいは誠実の逆襲

光都大学、第一会議室。

重厚な扉の向こう側には、学術界の権威たちが居並び、中央には検察官のような鋭さで和先輩が立っていた。

ゆいたち5人は、一週間の隔離を経てようやく一堂に会した。だが、言葉を交わす必要はない。彼女たちの間には、目に見えない「青い共鳴」が静かに流れている。


「審査を開始する。……被告、七瀬ゆい。君の提唱する『究極マナー理論』は、学生の精神に過度な負荷を与え、集団催眠に近い依存状態を引き起こす危険な思想であると判断した。異論はあるか?」


和の声が、冷たく広い室内を支配する。彼はモニターに、合宿で計測された「異常なパルス」を映し出した。


「それは依存ではなく、信頼の極致です」

ゆいは一歩前に出た。彼女の背後で、あずさが、みおが、つむぎが、そしてりつが、それぞれの場所で静かに目を閉じる。


「……また始まったね。その根拠のない精神論だ。ゆい、君はかつて『ルナ』として追放された時から何も変わっていない。数値で管理できないものは、この社会において『存在しない』のと同じなんだよ」


和が断罪のボタンを押そうとした瞬間、会議室の照明が微かに明滅した。

つむぎが密かに持ち込んだ小型同調器が、5人の鼓動を増幅し、部屋全体に「誠実の温度」を放射し始めたのだ。


「いいえ。数値化できないのではなく、あなたの『型』が古すぎて、私たちの温度を測りきれていないだけよ。……りつ、お願い」


「はい。……本大学倫理規定第12条に基づき、本審査の『客観性』に異議を申し立てます。審査員諸氏。和氏の提示するデータは、個人の主観による『排除のロジック』に偏っています」

りつが提出した反対資料が、審査員たちの手元に次々と表示される。そこには、理論によって救われた学生たちの匿名データが整然と並んでいた。


「なっ……いつの間にこんなものを……」

動揺する和を、みおの奔放な笑い声が追い詰める。

「あはは! 先輩の目は節穴だね。あたしたち、離れててもずっと『同期』してたんだよ!」


ゆいは、あずさと視線を合わせた。

二人の間に流れる「青いクラゲ」の幻影が、会議室の殺風景な壁を、まるで深海のような穏やかな空間へと変容させていく。

審査員たちの表情から、刺々しい警戒心が消え、どこか懐かしい安らぎが広がっていく。


「これが私たちの答えです。マナーとは管理のための鎖ではなく、互いを許容するための『余白』。……和先輩、あなたの信じる完璧な秩序の中に、この温かさはありますか?」


静寂。

かつて自分を焼き尽くした「炎上」という名の法廷で、ゆいは今、自分自身の言葉で「存在」を勝ち取ろうとしていた。


和は拳を握りしめ、震える声で呟いた。

「……理解不能だ。こんな『ノイズ』が……なぜこれほどまでに……」


審査委員長が重い口を開く。

「……判定を下す。性文化研究部の活動停止処分を、現時刻をもって解除する。ただし、この理論の『安全性』については、今後さらなる実証実験を継続すること」


勝利。

だが、和先輩の瞳に宿ったのは、敗北の悔しさではなく、より深い「執着」の闇だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ