キャンプファイアと告白の温度
合宿最後の夜。セミナーハウスの中庭では、小さな焚き火が爆ぜる音だけが響いていた。
昼間の「五重奏」で神経を極限まで同調させた5人は、心地よい疲労感の中で火を囲んでいる。
「……ふふ。機械もノートも持たずにこうしていると、自分が『理論』の一部だってことを忘れちゃいそうね」
ゆいがポツリと漏らした。
隣に座るあずさが、ゆいの肩にそっと自分のブランケットを掛ける。その自然な動作は、どんな完璧な作法よりも優雅で、温かかった。
「ゆいっち先輩、たまには忘れていいんだよ。あたしなんて、最初からマナーなんてどうでもよかったんだから。ただ、先輩が作る『面白い景色』が見たかっただけだし!」
みおがマシュマロを頬張りながら笑う。
「……私も、否定はしません。ゆい先輩の隣にいると、私の計算機が予期しないエラーを吐くんです。でも、そのエラーが……少しだけ、愛おしいと感じるようになりました」
つむぎが、眼鏡の奥の瞳を火に細める。
りつは静かに火を見つめていたが、やがて絞り出すように言った。
「私は、あなたが嫌いでした。七瀬ゆい。秩序を乱し、型を壊すあなたは、私の守るべき『伝統』の敵だと思っていた。……けれど、今のあなたが作ろうとしているのは、新しい『型』ではなく、人が凍えずに済むための『居場所』なのですね」
仲間の言葉が、ゆいの胸の奥、かつてルナとして追放された時に凍りついたままだった場所を、ゆっくりと解かしていく。
「みんな……。オレは……」
ゆいは無意識に、古い自称を漏らした。それは彼女が最も無防備な時、あるいは真実を語る時にだけ出る言葉だった。
「オレは、怖かった。完璧な理論で自分を武装しなきゃ、また誰かに否定され、存在を消されると思ってた。でも、この合宿でわかったわ。……本当の『ガード』は、自分を閉ざすことじゃない。あなたたちという『誤差』を、信じて受け入れることだったのね」
ゆいはあずさの手を握った。
火の粉が夜空へ舞い上がり、まるで星々と、あの「青いクラゲ」の残光が混ざり合うような幻想的な光景が広がる。
「あずさ。あなたの『記録』の続き、これからも一番近くで見せてほしい」
「はい、先輩。一生分の予備のペンとノート、準備してありますから」
二人の笑い声が、夜の森に溶けていく。
だが、その和やかな光景を、遠く離れた大学の管制室から冷徹に見つめるモニターがあった。
画面には「精神汚染度:危険域」の文字。
合宿が終われば、彼女たちを待っているのは、より強固な「秩序」による弾圧だった。




