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五重奏(クインテット)の朝、あるいは境界の消失

合宿三日目の朝。セミナーハウスの広大なテラスは、朝霧に包まれていた。

ひんやりとした湿った空気が、5人の肌を刺す。


「計測準備完了。外界のノイズレベル、最大。……ですが、今の私たちなら、これすらも『音色』に変えられるはずです」


つむぎが端末をセットする。その表情には、かつての無機質さはなく、未知のデータへの純粋な好奇心が宿っていた。


「よっしゃ! あたしの『揺らぎ』、全部預けるからね、ゆいっち先輩!」

みおが豪快に笑い、5人は円陣を組むように手を繋いだ。

りつは厳格な表情を崩さないが、その指先はわずかに震え、未知の「型」への期待に高揚していた。


「実験フェーズβ-Ex。『外界同調・五重奏クインテット』。……始めるわ」


ゆいの号図と共に、5人の鼓動が重なる。

森の鳥の声、川のせせらぎ、そして激しく変化する気温。それらすべてが「不快なノイズ」ではなく、自分たちの弾性を形作る「素材」として流れ込んでくる。


(ああ……すごい。一人じゃない。五人の理性が、お互いの弱さを補い合って、巨大な『青いクラゲ』になっている……)


ゆいの視界の中で、かつて自分を焼き尽くした炎上の記憶――あの刺すような視線や言葉――が、朝霧の中に溶けて消えていく。

ガードを固める必要はない。5人で一つの大きな海になれば、どんな衝撃も波紋に変えて逃がせるのだから。


「同期率……150%突破! 数値が、数式が追いつきません! これはもはや『マナー』という名の……新しい生命体です!」


つむぎの叫びと同時に、5人を包む青い光が、朝露に濡れた森全体を照らし出した。

あずさが隣で、ゆいの手を強く握り返す。その熱が、理論の最終的な「核」となって5人を繋ぎ止めていた。


「これが、私たちの……『外界適応』の答え」


ゆいがそっと呟いたとき、朝の太陽が山の端から顔を出した。

光を浴びて輝く霧の中で、5人は自分たちの境界線が消え、世界と調和する全能感を味わっていた。


管理社会アークラインが提唱する「清潔な隔離」とは正反対の、泥臭く、不完全で、けれど圧倒的に美しい「混濁」。

究極マナー理論は今、個人の防衛を超え、世界を救済するための術へと昇華しようとしていた。


「……でも、この光、大学の観測班に見つかってないかな?」


みおが茶目っ気たっぷりに空を指差した。

その予感は的中していた。

はるか上空、光都大学の監視ドローンが、森から放たれた異常な「青い輝き」をしっかりと記録していたのだ。

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