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静寂の代償、あるいは既視感のある影

嵐のような共鳴実験から一夜明け、部室には重苦しい沈黙と、焦げた電子回路の匂いが残っていた。


つむぎは壊れたデバイスの回収に追われ、みおは「魂が抜けちゃった」と机に突っ伏している。りつは、自分の内側が書き換えられた恐怖を押し殺すように、猛烈な勢いで監査報告書を書いていた。


「先輩……。昨日の『青』、あれは一体何だったんでしょう」


あずさが、ゆいの隣で小さく尋ねる。

ゆいは自分の震える指先を見つめた。あの瞬間、確かに自分は現実(光都)のルールを逸脱した。それはかつて『魂改変画法』で世界を敵に回した時と同じ、危うい全能感だった。


「わからないわ。でも、あれこそが理論の先にある『真実』に近い気がするの。……たとえそれが、再び私を焼き尽くす炎だとしても」


その時、部室の扉が静かに開いた。

みおが蹴り開けた時とは違う、精密にコントロールされた、完璧なマナーによる入室。


「……相変わらず、危うい橋を渡っているね。七瀬ゆい、いや――ルナ(・・)と呼ぶべきかな」


低い、落ち着いた声。

現れたのは、大学院の基礎技術研究科に所属する「かず先輩」だった。彼は大学の監視システム構築にも関わる、学術界の若きエリートだ。


「和先輩……。どうして、ここが」


ゆいの理性ガードが、かつてない強固さで立ち上がる。だが、和はその壁を、数式のバグを見つけるような冷ややかな目で見透かした。


「昨夜、大学のサーバーに異常なパルスが記録されたんだ。君がかつて学会から追放される原因となった『あの絵』と同じ周波数のノイズがね。……まさか、また『禁呪』を弄んでいるわけじゃないだろう?」


和はゆいのデスクに歩み寄り、つむぎが解析したばかりの波形データを指でなぞった。


「これはマナーじゃない。ただの精神汚染だ。ゆい、君がやっていることは、この光都大学の、ひいては社会の秩序を根本から破壊する行為だよ」


「……秩序を守ることが、心を押し殺すことだと言うのなら、私はその秩序と戦うわ」


ゆいの言葉に、部室の温度が氷点下まで下がる。

和は溜息をつき、一通の封筒を机に置いた。


「忠告だよ。……その理論を今すぐ廃棄し、部を解散させろ。さもなければ、君だけじゃなく、ここにいる仲間たちも『不正記録』として処理されることになる」


和が去った後の部室で、ゆいは立ち尽くしていた。

あずさが不安そうにゆいの服の裾を掴む。


(また……。また、私のせいで大切な場所が奪われるの?)


窓の外では、時計塔の光が、網膜を焼くような不気味な青色に輝いていた。

自由への渇望は、再び「炎上」という名の包囲網にさらされようとしていた。

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