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第7章 思いがけないきっかけ

ゼミが終わった後、美咲はノートを片付けながら、ほっと小さく息をついた。

いつも通り、誰とも深く関わることなく、今日も無事に過ごせた。

そんな安堵が胸を満たす。


「……あのさ。」


背後から声をかけられて、思わず振り返る。


悠馬が、マスクをしたまま、立っていた。


「一緒に、帰らない?」


一瞬、戸惑った。

ゼミのメンバーとは、当たり障りなく話す程度。

悠馬とも、たしかに何度か会話はしたけれど、わざわざ誘われるような間柄ではない、はずだった。


「……あ、うん。」


なぜか、断る言葉が出てこなかった。

悠馬の声が、やわらかくて、どこか安心感をくれるからかもしれない。


二人で並んで、校舎を出る。


「今日、課題の話、聞こうと思ってたんだ。」


悠馬はそう言って、少し照れたように笑った。

美咲も、マスクの下でふっと小さく微笑んだ。


人通りの少ない道を歩きながら、ぽつぽつと他愛もない話をする。

講義のこと、好きなカフェのこと、趣味の映画のこと。


美咲にとって、誰かとこんなふうに自然に話す時間は、久しぶりだった。


「美咲ちゃんって、静かだけど、話してみると……けっこう話しやすいんだな。」


悠馬がふと、そんなことを言ったあと、慌てて付け加える。


「あっ、変な意味じゃないから! その、なんていうか……」


必死にフォローしようとする悠馬の様子に、美咲は思わずふふっと笑った。


「わかってますよ。」


マスクの下でもわかるくらい、柔らかな笑顔で。


その瞬間だけは、

素顔を見せなくても、自分を少しだけ受け入れられた気がした。

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